ジェッツの休日
武器を用いず、自らの肉体を駆使して戦う格闘家はガルデアでも珍しいクラスだ。
ダンジョンの探索がない日でも、ジェッツは鍛錬を怠らない。街から離れた森の中に自分用の訓練場所を作り、休日はそこで欠かさずトレーニングを行っている。
「ふぅ」
日が暮れて来た。そろそろ帰ろうかとジェッツはタオルで汗を拭き、水袋に口を付ける。
とその時、視界の端で何かが動いたのが見えた。
「誰だ!」
ジェッツは誰何しつつ振り返り、構えを取る。草陰で何かがガサガサと遠ざかっていく気配がした。
獣だろうか。そういえばしばらく獲物を狩って食べていない。狼獣人の本能がうずいた。
思わず四つ足になり、気配が去って行った方へ駆け出した。
「なんでぇ、ガキかよ」
ジェッツは座りこんで泣きじゃくる少年を前に頭を掻く。
ジェッツはドカリと少年の前に座り込んだ。
「心配すんな。取って食ったりしねぇよ。俺はジェッツ。冒険者をやってるんだ」
少年はそれを聞いて泣き止んだ。
「ぼ、冒険者なの?」
「おう」
「すごい!」
少年は憧れの目でジェッツを見た。
「なんで子供一人でこんなとこにいたんだ?」
「薬草を探しに。うちは貧乏だし・・最近は高く売れるから」
少年が腰につけた袋から薬草を取り出す。
ジェッツは納得した。アイのいるオリジンでは無縁だが、薬草や治療薬が高騰しているというのはよく耳にする話だ。
「そうか。だがもう夕方だ。暗くなる前に帰るんだな」
「うん。でもさっき足をくじいちゃって・・」
「見せてみろ」
ジェッツが少年の足の状態を確認する。骨折ではない。健も傷めていない。2、3日で治るだろう。
薬草は一度乾燥させる必要があるためすぐには使えない。ジェッツはかがんで少年に背中を向けた。
「乗れ。今日は俺が家に送ってやるよ」
少年はしばらく躊躇した。だが思い切ってジェッツの背中に体重を預ける。ジェッツは少年を背負って軽々と立ち上がった。
「うわぁ!」
いつもより遥かに高い視点、それにフサフサの毛の感触に少年が声を上げる。
「坊主、名前は? 家はどこだ?」
「ボクはキール。家はあっち!」
ジェッツはキールを背負い、家まで連れて行く間にダンジョンの話をした。ダンジョンにいる魔物との戦い、意地の悪い罠、そして財宝。ジェッツには日常の事だが、キールはその話に夢中になった。
キールの家だというあばら家の前では、女性が手斧で薪を割っていた。
「あっ、お母さーん!」
キールが声を上げて手を振る。女性はジェッツを見て驚き慌てふためく。
「キール! どうしたの? アンタは誰!?」
震える手で手斧を構える。ジェッツは両手のひらを見せて敵意が無いことを示す。
「落ち着け。この子が森で足を怪我したから連れてきたんだ。よっと」
ジェッツがしゃがみこんでキールを降ろす。キールがびっこを引きながら母親の元に向かうと、母親は駆け寄ってキールを抱きしめた。
「おおキール! 無事でよかった」
「お母さん、ジェッツさんは僕を助けてくれたんだ。凄い冒険者なんだよ!」
母親はキールを抱きしめたままジェッツを見上げる。
「キールを送っていただきありがとうございます。何のおもてなしもできませんが、ぜひ家に寄って行って下さい」
ジェッツが頭を掻く。
「いや、そういうのはガラじゃないんでな。俺が獲物と勘違いして追いかけたから、キールは足をくじいちまったんだろう。すまなかったな、キール。これはその詫びだ」
ジェッツが弾いたコインをキールが思わず受け止める。手を開いて驚いた。金貨だ。
「金貨だ! すごい!」
「こ、こんな大金・・よろしいんですか?」
母親の問いにジェッツが頷く。
「ああ。代わりにキールが取った薬草をもらおうかな。俺が怪我したときに使いたい」
「ジェッツさん、全部持って行って!」
キールが薬草を差し出した。
ジェッツは夕食のため酒場に寄った。ガルデアの住人は慣れたもので、ジェッツが入ってきても気にしない。逆にポカンと口を開けているのは新参だと分かる。
開いている席を探して店内を見回すと、リーファが一人で座っているのを見かけた。リーファもジェッツに気づき手を振ったので同じテーブルに着く。
「今日は一人か。珍しいな」
「たまにはね。ジェッツは訓練の帰り?」
「ああ。これからメシだ」
ジェッツが店員に注文し、それが終わるのを待っていたリーファが口を開いた。
「私は食べ終わったからもう帰るけど・・ちょうどいい機会だし一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「ジェッツにとって生きる意味って何かしら?」
ジェッツは腕を組んで少し考え、口を開いた。
「まぁ・・今より強くなることだな」
「だと思ったわ。人生これ鍛錬ってことね」
「誰だってそうじゃないのか?」
「そうともいえるし、そうでないとも言えるわ。じゃあね」
はぐらかすような返事をして、リーファは去って行った。
「なんだ、フラれたか」
いつの間にか後ろにいたキルシュレドがニヤニヤしている。ジェッツでさえ全く気配を感じなかった。
「脅かすなよキルシュ。そんなんじゃねえ」
キルシュレドがリーファのいた席に座り、二人分の酒を注文する。
「少し付き合えよ。たまには野郎同士で飲むのも乙なもんだろ」
「ああ、悪くないな」
ジェッツは笑った。
ジェッツ 格闘家 レベル9
狼獣人 男性 25歳
HP:108
STR:18
INT:10
PIE:12
VIT:17
DEX:14
LUK:9
装備:拳法着
スキル:挑発




