プランB
「プランBとは何ですか?」
フリージアが尋ねようとした事をアイが尋ね、フリージアは開きかけた口を閉じた。
ヒロが笑って答える。
「簡単にいえば褒め殺しだ。難癖つけて呼び出す、脅しをかけるなんて奴は納得できる説明を聞きたいんじゃない。アイツは生意気だ、俺の方が偉いと言いたいだけだ。正面から正論で対抗しようとするのは愚策だ。あなたの方が上ですと認めて、だが相手の意見は躱す。フリージアも手伝ってくれよ」
ヒロたちが王都に到着した当日のうちに、大臣との謁見になった。
ヒロが先制して声を張り上げる。
「辣腕で名高いヒダリーシュ大臣様にお会いできると聞いて、最速で伺いました!」
ユウも続く。
「大臣の名声は異世界でも聞き及んでおります。お会いできて光栄です」
そんなはずはない。が、大臣は気圧されたようだ。
「そ、そうか・・いや、こんなに早く来るとは感心だの。儂の言いたいことは一つだ。すぐにガルデアのダンジョン探索を中止し、集まっている冒険者たちを解散させよ」
フリージアが頷く。
「ガルデア領主の名代たる私も、もちろん大臣の意見に賛成なのですが・・その異世界人二人が言うには、ダンジョンを封鎖するのは国に危険が及ぶというのです。二人とも、大臣にご説明を」
ヒロが声を顰めて大臣に告げる。
「実は・・ダンジョンを封鎖してしまうと、かなり高い確率でスタンピードが起きてしまうんです」
「スタンピード? なんじゃそれは」
大臣が首を傾げ、ユウが言葉を続ける。
「スタンピードとは、封鎖されたダンジョンの中で魔物たちが繁殖し、それが地上にあふれ出す現象の事です」
大臣が驚愕する。
「なっ!? そんな事は初めて聞いたぞ?」
ユウが言葉を続ける。
「はい。この事を話すのは今日が初めてですから。一度スタンピードが起きるとダンジョン内の全ての魔物が地上に溢れるため、被害はガルデアだけに留まらず、王国の重大な危機となるでしょう。冒険者がダンジョンに入って魔物を狩るのは間引きになり、スタンピードを防ぐために必要な事なのです」
「わ、私も初めて聞きましたよ?」
フリージアの言葉にユウが頭を下げる。
「申し訳ありません。今までは確証が持てなかったのですが、地下3階まで探索して、その可能性が高いと判断しました。これほど大事なことは先に大臣にお伝えすべきだと思い、黙っていました」
「しかし、魔物は無限に湧き続けるのだろう? 永遠に間引きし続けなければならんのか?」
ユウが感心した表情になる。
「さすが大臣は聡明でいらっしゃいます。すぐにそこに気づかれるとは。私たちが調査した結果、ダンジョンの最深部に何らかの元凶があり、それを止めれば魔物も出なくなるだろうという結論に達しました」
「ううむ・・それが本当ならばダンジョンを封鎖する訳にはいかないが・・お前たちの言っている事が本当だという証拠はあるのか?」
ユウが胸に手を置く。
「聞き及んでいると思いますが、私たちは異世界人です。異世界での知識や経験がございます」
「お前たちが本当に異世界人だという証拠はどこにある!」
大臣が怒鳴った。ヒロが冷静に答える。
「では証拠をお見せしましょう。アイ、メンテナンスモードを」
「はい」
今まで一言もしゃべらなかった、小柄なクレリックが大臣の前に進み出る。
「なんだ? この子供がどうかしたか?」
アイは黙ってフードを下ろし、僧衣の前のボタンを外して呟いた。
「メンテナンスモードを実行します」
「ひっ!」
大臣が悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちた。アイの顔面や胸部はパカリと開き、中の電子部品が曝け出されたのだ。
「ご覧の通りアイは見た目は人間ですが、異世界で作られたロボ・・動く人形です」
「いや、さすが大臣は豪胆でいらっしゃいますね。前にこれを見た者は泡を吹いて気絶してしまいましたから」
醜態を晒したことをユウにフォローされ、大臣は咳払いで取り繕って椅子に戻った。
「コホン。いや、分かった。確かにお前たちは異世界人のようだ。スタンピードとやらの話も信じよう。だが冒険者というガラの悪い連中が一か所に留まるのは危険ではないか? いずれ暴動やら謀反やらを起こすかも知れぬ」
フリージアが頷く。
「大臣のおっしゃる事は最もです。なので今後は冒険者に期限を設けたいと思います」
「ほう?」
「一定期間、ダンジョンの探索に進展がない冒険者は資格を取り消します。冒険者でなくなれば定職に就くか、ガルデアを離れなければなりません。ダンジョン探索をした者はそうでない者より遥かに身体機能が増しますから、元冒険者は色んな場で活躍できるはずです。むろん魔物との実戦経験があるので優秀な兵士にもなります」
大臣は膝を叩いた。
「なるほど、それは良い案だ。しかし・・」
大臣が言葉を続ける前に、ヒロが宝石を取り出して進み出た。
「今日はガルデアの冒険者たちを代表して、大臣に贈り物を用意しました。どうぞお納めください」
手のひらに宝石を乗せ、大臣の前に膝まづく。
「おお、これは・・なんと見事な・・」
大臣は思わず宝石をつまみあげる。黄色がかった大粒の宝石の中に、炎のような赤い光が揺らめいている。
「これはつい先日ダンジョンで発見された宝石で、どの鑑定士も見た事がないため値段がつけられないという事です。おそらくこの世界初の、どの国の王も所持していない種類の宝石と思われます」
「どの国の王も・・」
大臣がゴクリと喉を鳴らす。ユウが優しく諭す。
「大臣、冒険者のほとんどは将来に希望の持てない若者たちです。それが皆命がけでダンジョンの探索に挑み、スタンピードを防ぐために魔物を間引きしています。何卒ご寛大な心で、若者に一時の機会を与えていただければと存じます」
宝石をポケットにしまい込んだ大臣はすっかりご機嫌だ。
「うむ、分かった。冒険者の活動を認めてやろうではないか」
「ありがとうございます」
ヒロとユウ、フリージア、アイも揃って頭を下げた。




