激闘
ヒロたちは2階と3階の探索を終えた。地図は全て埋まり、上がったり下りたりを繰り返す複雑な通路の先には、大扉だけが残されていた。
「よし、今日はボスを倒すぞ。他は全部回ったしな」
「ボスはどんな魔物なの?」
リーファが緊張気味に問う。
「それは分からないが、2階と3階を合わせたボスだから、複数いるパターンかもな」
「その可能性が高いね」
ヒロが振り向いて皆に説明する。
「基本戦法はこうだ。俺ら前衛は後衛に攻撃が行くのを防ぎ、リーファは敵が一体だろうと複数だろうと一番強い範囲魔法を使ってくれ。決めてれば迷わない。生き残った敵は各個撃破する。ボスに効くか分からないが、敵がアンデッドならアイは一応ターンアンデッドも使ってくれ。一度だけでいい。あとは回復優先だ」
「分かったわ」
「分かりました」
リーファが杖を握りしめる。
「先に狙う敵など、細かい指示を出すと思います。落ち着いていきましょう」
「大丈夫だ。これ以上ないほど準備はした。俺たちは勝てる!」
「おう!」
「ええ、行きましょう」
「宝箱が待ってるぜ!」
ヒロが発破を掛け、皆がそれに応える。
「行くぞ!」
ヒロが大扉を開け放った。
扉の中、大部屋の中にいたのは6つの人影だった。ヒロたちと同じように、3人ずつで前後に並び、それぞれが特徴的な恰好をしている。人影は無言でヒロたちに襲い掛かってきた。
ヒロが叫ぶ。
「アイ、沈黙魔法を後衛に使ってくれ! キルシュは攻撃魔法で生き残った後衛を優先!」
ヒロとユウ、ジェッツはそれぞれ相手の前衛を迎え撃った。
ヒロの相手はVの字型の大仰な角のついた兜をかぶり、赤と金糸で刺繍された豪華な鎧をまとっている。武器は両手持ちの大刀、侍だ。相手を両断せんばかりの痛烈な袈裟切りをヒロはかろうじて盾で防ぐが、体勢を崩され膝をついてしまう。そこに草鞋履きの足の前蹴りが飛んできた。ヒロは肩口を蹴り飛ばされて後ろに一回転し、すぐに体勢を立て直して立ち上がる。
ユウの相手は同じような板金鎧を着て、頭にはバケツをひっくり返したような無骨な兜をかぶり、巨大な盾と鋭い剣を構えている。騎士だ。装備だけでも凄まじい重量だろう。だが滑らかな動きでユウに突きかかる。ユウは落ち着いて盾で防いだ。
ジェッツの相手は黒一色の薄手の服に黒の頭巾をかぶり、まるで全身を黒い布で巻いているかのようだ。目の部分だけが露出しているが、その表情は伺いしれない。左右の手で苦無を逆手に持ち、音もなくジェッツに切りかかってきた。忍者だ。ユウが警告する。
「ジェッツさんの相手はウサギと同じ特技があります! 気を付けて!」
「げっ!」
ジェッツが顔を引きつらせる。ウサギと同じ特技・・つまり首を跳ね飛ばすというのだ。
だが相手はジェッツの戦い慣れた人型だし、首を切られれば致命傷になりかねないのは同じことだ。
ジェッツは自分に言い聞かせ、雄たけびを上げて相手に殴りかかった。
相手の後衛3人は魔術師とクレリック、それに司教の恰好をしてそれぞれ魔法を唱えている。
一番最初にアイの沈黙魔法が発動し、相手の魔術師の詠唱を途絶えさせた。
「ナイスだ、アイ!」
次に相手のビショップの魔法が発動した。ヒロたちの足元の床が炎の海となる。
苦痛に耐え、相手の侍と切り結びつつもヒロが素早く皆を見渡す。全員にダメージがあったようだが、一番体力の低いアイでも耐えられている。炎は既に消えていた。
次いで相手のクレリックの魔法が発動し、相手の前衛3人を柔らかい光が包む。防御魔法のようだ。
「氷雪嵐!」
リーファの魔法が完成した。一瞬で目も開けられないほどの猛烈な吹雪が部屋に渦をまく。その中には鋭い氷の破片が無数に紛れており、犠牲者の体を突き刺し、あるいは切り刻んでいく。
吹雪が止むと相手の魔術師とクレリックは倒れており、膝をついたビショップにキルシュレドがボウガンを連射してトドメを刺した。
相手の前衛3人にもダメージはあったが致命傷にはならないようだ。
「リーファ、もう一度だ! アイは範囲回復を! キルシュはジェッツの相手から狙ってくれ!」
ヒロの指示に後衛の皆が頷く。
「ヒロ、相手を代わろう」
「ああ」
背中合わせのヒロとユウは一瞬で位置を入れ替え、互いの相手を替えた。侍の強烈な斬撃も、全身を覆うユウの頑丈な鎧を切り裂いて致命傷を与えることはできない。逆にヒロの斬撃も相手の騎士の守りを突破できないが、それでいい。待っていればリーファの魔法が完成するからだ。
「つっ!」
忍者の苦無がジェッツの脇腹を突き刺した。しかしジェッツは構わずに左手で忍者の腕を極め、逃れられない至近距離から飛び上がらんばかりの渾身の右アッパーを繰り出す。
ガゴンと強烈な音がして、忍者の顎が砕けた。束縛から逃れた忍者は飛びのいて距離を取るが、足元はガクガクと震え、口元からは大量の血が絶え間なく流れ落ちる。そこにキルシュレドのボウガンが連射され、黒装束の忍者はまるで影のように床に倒れ伏した。
「範囲治癒」
アイの回復魔法がパーティ全員を包み、
「氷雪嵐!」
リーファの二度目の範囲魔法が侍と騎士を襲った。二体ともダメージは大きいはずだが、防御魔法の影響もありまだ倒れない。ヒロとユウは顔を見合わせて頷き、同時に侍に切りかかった。
「ジェッツ、挑発頼む!」
「おっと、お前の相手はこっちだ!」
ジェッツはすぐに意図を組み、騎士の攻撃対象を自分へと向ける。
侍は弱った体で二人がかりの同時攻撃を捌ききれない。背後からユウの剣を突き刺され、続いて正面からヒロの斬撃を首筋に受け、血しぶきを上げて倒れた。
キルシュレドは騎士にボウガンを連打するが鎧に弾かれ、舌打ちする。
だがもう残るのは騎士だけだ。いくら防御が固いとはいえ、前衛3人の猛攻は耐えきれず、地響きを立てて床に倒れた。相手のパーティは灰になり宙に溶けていく。
「よし、やったぞ!」
「よっしゃ!」
「俺たちの勝ちだ!」
「やったわね!」
皆が快哉を上げる。ヒロとユウは笑顔で互いの拳を突き合わせた。
「範囲治癒を使います」
アイが再び回復魔法を使い、パーティ全員の傷は完全に癒された。ジェッツがドカリと床に座り込む。
「いやー、激戦だったぜ」
「アイの沈黙魔法が効かなかったらヤバかったかもな」
「リーファさんと同じ魔法っぽかったね。ゾッとするよ」
「何か床に残ってるわよ。何かしら」
リーファが拾い上げてヒロに渡す。それは手の甲ほどの大きさの、四角く薄い板状の物だった。
表面に何か模様が描かれているが、意味は分からない。ヒロとユウはピンと来た。
「カードだね。これは多分・・」
「ああ。エレベーターのカードキーだろう。地下4階に行くのに、毎回ここまで歩いてくるのは面倒だからな。ダンジョンの入口近くから4階以降に進めるはずだ」
「そういえば開かない扉があったわね」
「おい! そんな事より宝箱開けてもいいよな?」
いつの間にか宝箱の前にいたキルシュレドが、もう待ちきれないという風に声を上げた。
ヒロ 戦士 レベル8
人間 男性 18歳
HP:69
STR:15
INT:12
PIE:10
VIT:14
DEX:12
LUK:11
装備:切り裂きの剣、胸当て、鉄の盾、兜、鉄の小手、ブーツ、旅人のマント




