ガルデアの興隆
今ガルデアの街に一番必要な施設、それは寺院だった。
ガルデアで一番高レベルのクレリックであるアイも、まだ石化治療や蘇生魔法は使えず、ヒロたちも慎重に探索を進めざるを得ない。ガルデアはクレリックの絶対数が足りず、薬草や治療薬、毒消しの需要が高騰し、品切れを起こしたり、転売する者まで現れている。
ヒロは市庁舎の仮施設で執務中のフリージアを訪ねた。
「ヒロ様! ようこそいらっしゃいました!」
フリージアは椅子から立ち上がり、ヒロに駆け寄って手を握る。
「忙しいところ悪いなフリージア。えっと・・寺院の誘致はどうなってるかと思ってな」
上手い言い回しを考えるが、結局ストレートに訊ねるヒロ。
「お座り下さい。今お茶をご用意しますわ」
ヒロとフリージアはテーブルを挟んでソファに座る。侍女が黙って二人のカップにお茶を注ぎ、部屋を出て行った。
お茶を一口飲み、カップをテーブルに置いてフリージアが口を開く。
「もちろんこちらでも働きかけていますが、寺院の誘致は難航しております。巨額のお布施・・協力金が必要になりますし、建物も用意しなければなりません。それに傷ついた冒険者を回復魔法で直して決まった金額のお金をもらう、というのは聖職者にとって余りに俗すぎると思われているようです」
ヒロが頷く。
「まぁそういう考えの方が健全なのかもな。だがダンジョンのそばに寺院がないと、助けられる命も助からない。中にはダンジョンに興味のあるクレリックもいるだろう。無料の見学ツアーを組んだり、とにかくガルデアに呼んで見て知ってもらうことが大切だな。金についてはそろそろ新しい店の税金が集まってきたんじゃないか?」
フリージアが頷く。
「はい。ガルデアは店も住人もかなり増えましたから、今季はこれまでにない税収を望めそうです。これもヒロ様のおかげです」
「俺は自分のやりたいことをやってるだけさ。寺院の件はフリージアばかりに負担をかけて悪いと思ってる。もっと俺にできる事があればいいんだけどな。何でも言ってくれよ」
フリージアがゴクリと喉を鳴らした気がした。
「な、何でもですか・・?」
「ああ」
ヒロが力強く頷く。
「それでは・・寺院ができたらヒロ様からご褒美をいただけるというなら、今以上に頑張れると思います」
「褒美? 何が欲しいんだ?」
フリージアが頬を赤く染めて両手を振る。
「いえ! それは実際にできてからお伝えしますから!」
「何だか知らないけど、俺にできることなら何でもするよ。じゃあまたな」
ヒロが去るとすぐに侍女が部屋に入ってくる。フリージアは興奮して侍女の手を取ってブンブンと上下した。
「ヒロ様、何でもお願い聞いてくれるって!」
「やりましたねお嬢様!」
「何としても寺院を作るわよ! お兄様とお父様にも動いてもらうわ!」
フリージアのやる気が限界を突破した。
ヒロとユウとリーファはガルデアに新しくできた、冒険者向けの雑貨屋を見に行った。
店内にあるのは背負い袋、ポーチ、水筒、ナイフ。頑丈なコップや食器や鍋、丸めた敷布、方位磁石、地図を書き込む紙とペン。火打石、松明、ランタン、固形燃料、焚火台、携帯食料など様々だ。
「思ったより充実してるわね」
「アウトドアショップはテンション上がるな! まぁこういうのは使うかもと思って買っても使わない事が多いんだけどな」
頑固そうな老人店主からジロリと目線を向けられ、ヒロは思わず自分の口を手で塞いだ。
「焚火台と燃料と鍋は買っておこうかな。スープくらいは作れそうだし」
ユウが商品をカゴに入れ、リーファが笑顔になる。
「それは嬉しいわね」
ユウが商品の代金を払うとき、店主から声を掛けられた。
「あんたら、オリジンだろ?」
「ええ、そうです」
「あんたらがあった方がいいと思う物が浮かんだら気軽に言ってくれ。仕入れるからよ」
「分かりました。助かります」
雑貨屋を出て宿に戻る途中、建築中の店の前を通る。
「いよいよ武器屋ができるみたいよ」
「だんだん施設が整ってきましたね」
「まぁ俺らは装備は大体揃ってるが・・いらない装備でも売れば金になるしな。鑑定屋じゃ安いし」
「そういえばヒロ、寺院はどうだったの?」
「ああ。フリージアに頑張ってもらってる。できたら何でもお礼するなんて言っちまった」
「ええ? 大丈夫なの?」
「迂闊ね、ヒロ。まぁあの娘なら独占したいなんて事はなさそうだけど」
ヒロが困惑する。
「何の話だ?」
「鈍感バカは死ななきゃ治らないって事よ」




