狼獣人 ジェッツ
ダンジョンの噂を聞きつけてガルデアに集まった者は、一定の基準を満たせば冒険者として認められる。だが冒険者登録を済ませた者であってもソロ、一人でダンジョンに入ることは認められていない。
余りにも危険すぎるし、皆が好き勝手に入っては管理しきれないからだ。
推奨は6人のパーティで、最低でも3人からと決められている。
そんな訳で知己のないままガルデアに来た者は、ダンジョン入口前の広場にたむろしてパーティに誘われるのを待っていた。
ヒロたちはダンジョンの入口へと向かいながら、目ぼしい人材がいないかと物色する。
ヒロと目があった勧誘待ちの冒険者は、ぎこちない笑顔になったり自らの肉体を誇示したり、思い思いに自分を連れていけとアピールした。
リーファが眉を顰める。
「なんだかよくない雰囲気ね。言っちゃなんだけど奴隷市場みたいよ」
リーファの言葉にヒロが額を抑えた。
「そうだな。人目もあるし・・冒険者のたまり場、パーティを組むための施設も作るか」
ユウが頷く。
「それがよさそうだね。冒険者ギルドも狭いし。やっぱり酒場かな?」
「それが無難かな」
突然、ユウがアイにクイクイと腕を引っ張られた。
「アイ、どうかした?」
ユウが振り返ると、アイは一人の冒険者の男に視線が釘付けになっている。
男は身長が2mを超える大男で、ヒロたちを見ても媚びを売るでもなく腕を組んで素知らぬフリだ。最大の特徴は・・着古した拳法着から露出した腕や足、頭が全て灰色の体毛で覆われている事だ。それに立派な尻尾もある。リーファが思わず声を上げる。
「へぇ、狼獣人なんて珍しいわね。私も初めて見たわ」
ヒロも後ろが止まったのに気づき振り返る。
「ん、どうした?」
「彼をパーティに入れて下さい」
「ええっ!?」
突然のアイの発言に皆が驚く。ヒロが一瞬で決断した。
「ああ、いいよ。どうせ今日はアイにダンジョンを見せに行くだけだったしな。空きもある。なぁ、アンタ」
「何か用か?」
男が腕組みしたままヒロを見下ろす。
「ああ。よかったらうちのパーティに入らないか? 前衛が足りないんだ」
「お、俺がか?」
男は驚いたようだ。周りがザワめく。
「お、おい。あれは噂の異世界人のパーティじゃないか? 地下3階まで到達したっていう」
「ああ間違いない。エルフもいる」
「どうする? すぐ決めてくれ」
ヒロの催促に男は頷いた。
「分かった。一緒に行こう。俺はジェッツだ」
他に目ぼしい冒険者は見当たらず、ヒロ、ユウ、ジェッツ、リーファ、アイの5人はダンジョンの入口へ到着した。顔見知りの衛兵が声を掛けてくる。
「あ、ヒロさん。今日は5人なんですか?」
「ああ。今日は軽く一階の探索だけする予定だ」
「分かりました。お気をつけて」
衛兵たちはすぐに入口に急ごしらえされた柵を開け、ヒロたちを通す。
「・・有名人なんだな」
ジェッツが呟く。ヒロは否定しない。
「まぁな。簡単に紹介しとこう。俺がヒロ、こっちがユウ。ともに前衛だ。エルフの魔術師がリーファ、ちっこいクレリックがアイ。この二人は後衛だ。俺たち3人で盾になって後ろを守る」
「ああ分かった。俺は素手で戦う格闘家だ。戦いは任せてくれ」
ジェッツがゴツゴツと両拳を打ち鳴らす。
「そりゃ頼もしいな。俺たちの話が聞こえたかも知れないが、アイはダンジョンに入るのが今日が初めてなんだ。だから今日は一階だけを回って何度か戦闘して帰る予定だ。何か聞きたいことはあるか?」
「いや、実は俺もダンジョンに入るのは初めてなんだ」
ジェッツが頭を掻く。
「じゃあ俺やユウの出す指示に従ってくれ。くれぐれも宝箱には触らないでくれよ」
「・・何かいるわね」
リーファの声に皆が耳を澄ますと、通路の奥からキィキィという微かな鳴き声が聞こえてきた。
「ジャイアントバット、3体! 戦います!」
ユウの声で皆が武器を構える。
「魔法は温存しといてくれ。ジェッツ、やるぞ」
通路の奥から現れた宙を漂う黒い影。その目だけが6つ赤く光り、遠くでは闇に溶けて体のシルエットすら分からない。
近づくにつれバサバサと羽音が大きくなり、大きく開かれた口から涎がまき散らされているのが見えた。
噛みつこうと襲い掛かってきた先頭のコウモリを、ユウが盾ではじき返す。フラついたところをヒロが剣で切りつけ、片翼を失ったコウモリは悲鳴を上げて床に落ち、残った翼で懸命にバタついた。だがもう飛び上がれない。ヒロが剣で叩き切ってトドメを刺す。
「おっと、お前の相手はこっちだ!」
2体目のコウモリはジェッツの声に応じて向きを変え、ジェッツに襲い掛かった。
「お、挑発か? 助かるな」
最後の1体にはヒロが自分から走り寄って剣で切りつけた。だがその攻撃は避けられて空を切る。
「ちっ、まだ命中率が足りないか」
「ハッ!」
ヒロの背後から飛び出したユウの鋭い突きが、コウモリの胴体を深々と貫いた。コウモリは剣で串刺しになったまま抜け出そうともがいていたが、やがてくたりと力が抜けた。
「ジェッツ! 大丈夫か?」
ヒロが振り返るとジェッツはコンパクトな構えからコウモリに素早い打撃を繰り出していた。バシンバシンと拳が当たる音はするが、宙を漂うコウモリには効果が薄いようだ。
コウモリはジェッツのむき出しの肩口めがけて噛みつこうと急降下する。ジェッツは肩に止まったコウモリを両手で引きはがすと、そのまま渾身の力を込めて、翼を引き裂いた。
ジェッツは悲鳴を上げる本体を床に叩きつけ、足で踏みつけてトドメを刺した。緑色の血しぶきが床や壁に広がり、ジェッツの胴着や顔にまで飛んでくる。
「やるな、ジェッツ」
ジェッツは袖で顔についた血をぬぐった。
「これくらい楽勝だぜ。しかしこんなデカいコウモリは初めてだ」
消えていくコウモリの死骸を見つめる。
「怪我はありませんか?」
アイの言葉にヒロが頷く。
「ああ。まだ回復は必要ない。先に行こうか」
一行は更に迷宮の奥へと足を踏み出した。
ジェッツ 格闘家 レベル5
狼獣人 男性 25歳
HP:71
STR:16
INT:9
PIE:9
VIT:15
DEX:13
LUK:8
装備:拳法着
スキル:挑発




