宿にて 三者三様
救援を待つ間散々寝たというのに、救出されてからも丸1日、宿の部屋で食事を取っては寝かされるだけの生活を強いられ、さすがにユウも不満を漏らす。
「もう大丈夫だって」
「何言ってんだ。まだ寝てなきゃ駄目だ」
ヒロは起き上がろうとするユウをベッドに抑え込んで布団を掛けた。
「チェッ」
ベッドの隣の椅子に座り果実の皮をナイフで剥くヒロに、ユウが声をかける。
「ヒロ、どうやって2階のボスを倒して、3階まで来たの?」
「いや、2階のボスは倒してない」
「どういうこと?」
ヒロがナイフと剥きかけの果実をテーブルに置き、ユウに向けて座り直し説明する。
「2階と3階は合わせて1つのフロアみたいなんだ。3階に降りて2階に上がってまた3階・・みたいな感じだな」
「ああ、なるほど」
「最初はそれが分からず、3階に行ったのにお前らがいなくて、どこかに隠し扉でもあるんじゃないかと調べてたから時間がかかっちまった。クソッ」
「そっか。じゃあまだボスに会ってないんだ」
「ああ」
「敵は大丈夫だったの?」
ヒロが苦笑する。
「ちょっと反則だが、今回はカズンとフリージアから兵士を出してもらった。全部で15人だったか。けど2階からは毒やらブレスやら、魔法を使う奴もいるし、やっぱり前衛ばかりたくさんいてもしょうがないな」
「こっちもドラゴンフライと戦ったけど、ボクとキルシュレドさんの攻撃はスカスカだったよ」
「さすがに3階ともなるとなぁ・・そろそろクラスチェンジも考えるか」
「あ、いいねそれ。ヒロはどうするの?」
ヒロが拳を握る。
「やっぱり俺はアタッカーだな! ユウはどうする?」
「じゃボクはタンク、壁役かな」
ヒロが頭を掻く。
「なんかいつもタンク役をやらせて悪いな、ユウ」
「ボクはタンク好きだよ。パーティで一番重要な役目になることも多いし」
「そういや俺は声を掛けられないのにお前ばっかり引っ張りだこだったゲームもあったな」
ユウが笑う。
「みんなアタッカーをやりたがるから、少ないタンクの方が需要が高いんだよ。今回はヒロがやってみる?」
「いや・・俺には向かないな。適材適所だ」
ヒロがテーブルに置いた剥きかけの果実に手を伸ばし、皮を剥き終えてフォークに刺し、ユウの口元に近づける。
「できたぞ。ほら、アーン」
「ちょ、止めてよ! 自分で食べれるって!」
二人の笑い声が部屋に弾けた。
同じくリーファも宿の別の部屋で、フリージアの侍女に介抱されていた。
「本当に助かったわ、ありがとう」
リーファの言葉にフリージアが首を振る。
「いえ、私はヒロ様に着いていっただけですから」
リーファが躊躇いがちに尋ねる。
「私のドジでこんな事になってしまって・・ヒロは怒ってなかった?」
「ヒロ様は通過儀礼だとかお約束だとか言って、リーファさんを責めることはありませんでしたよ。さすがにユウ様を心配してるご様子で、3日目くらいからはかなり焦りが見えましたけど・・」
フリージアが両手の指を組み合わせ、瞳を輝かして言葉を続ける。
「不謹慎ですが、ユウ様の事になると冷静ではいられないヒロ様の姿はなんだかとっても素敵でした!」
「それは尊いですねえ」
侍女も頷く。リーファは引く。
「そ、そう・・」
別室ではつまらなそうに寝転がるキルシュレドの傍で、カズンが不平を漏らす。
「なんで俺がお前の面倒を見なきゃならん?」
「お前じゃなくていいぞ。フリージアか、誰でもいいから女にしてくれ。っと、お前結婚してんだろ。奥さんでもいいぞ」
カズンが激高した。
「ふざけんな! 誰が妻をお前なんかに会わせるか!」
「チェッ、つまらねぇ・・だが俺は生きて帰れた。辛抱も今日だけだ。カズン、見ろこれを」
キルシュレドが取り出した宝石に、カズンの目が釘付けになる。
「お、お前・・これをどうしたんだ?」
「地下3階で遭難中、宝箱から手に入れたのさ。俺一人でもらっていいと許可されてるぜ」
「くそっ、上手いことやりやがって」
カズンは嫉妬を隠せず、地団太を踏む。キルシュレドはカラカラと笑って、宝石を懐にしまい込む。
「これで俺の人生もバラ色ってもんだ。助けてくれてありがとよ、カズン」
カズンは嘆息した。
「はぁ、助けるんじゃなかったかもな。全く運のいい野郎だぜ」




