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ユウの後悔

ユウたちが部屋にこもって4日が経過した。食料はとっくに底を突き、空腹が体を蝕んでカードで遊ぶ気も起きない。3人は背中を寄せ合ったまま、朦朧と夢と現実の間を行き来していた。

ぼんやりと目を開けたキルシュレドの視界に、金色に輝く宝箱が目に入る。

「そうだ。もしかしたらあの中に・・食料が入っているんじゃねぇか?」

突然の思いつきに思考が捕らわれた。だがユウが否定する。

「ダンジョンの宝箱に食料が入ってるなんてありえませんよ」

キルシュレドが激高した。

「開けてみなけりゃ分からないだろ! もう思いついちまったんだ。いくらお前の命令に従うと言っても、あの箱を開けずに残すなんて絶対できねぇ」

ユウが嘆息する。

「分かりました。ただし罠にかかったときは助けられませんから、それだけは覚悟しておいて下さい。その代わり、中身は全部キルシュレドさんにあげます」

「心配すんな。食いもんが入ってたら分けてやるよ」

リーファは二人のやり取りに口を挟む元気もないようだった。

キルシュレドは宝箱ににじり寄り、普段の何倍もかけて宝箱の構造や罠の有無を調べる。罠は・・ある。種類は・・毒ガスだ。もし罠を解除せずに開けたり、解除に失敗すれば部屋に毒ガスが充満し、3人とも命を落とすだろう。さすがにキルシュレドは躊躇した。しかし、中に食料が入っているかもという希望、妄想を頭から追い出すことは不可能だった。

キルシュレドは震える手で慎重に、少しでもこうじゃないと思えば手を止めて、何度も罠を解除する手順をやり直した。罠の複雑な仕掛けは薄皮を一枚ずつ剥いでいくように、ゆっくりと、だが確実に解除されていった。

全ての手順をやり終えて、キルシュレドはふぅと大きなため息をつく。そして深呼吸すると宝箱の蓋を開いた。中に入っていた物は・・見覚えのある宝石だった。一階のボス、ミノタウロスを倒して手に入れた、ヒロが領主に献上したのと同じものだ。キルシュレドはガックリと肩を落とした。

「中身は何でしたか?」

ユウの声に振り返り、キルシュレドは宝石を見せる。ユウが笑顔になる。

「おめでとうございます。これで借金も返せるでしょう」

「生きて帰れればな! ヒロはまだ来ないのかよ」

キルシュレドが元の位置に戻り、背中合わせに座る。そして恐ろしい事実に気づいてしまった。

「待てよ・・ヒロは各階にボスがいるって言ってたな。じゃ2階にもいるのか?」

「いると思います」

「敵は潜るほど強くなる。つまり2階のボスは1階のアイツ・・ミノタウロスよりも強いのか?」

「多分そうでしょうね」

「お、俺たちなしでそんなのを倒してここまで来れるのか?」

ユウが首を振る。

「それはボクらが考えても仕方ないことです。ボクらに出来るのは、一分一秒でも長く生きて待つ事だけです」

キルシュレドが再び激高する。

「お高く止まりやがって! 間に合わねぇよ! 助けは来ねぇ! 俺たちはここで死ぬんだよ!」

「キルシュレドさん、ヤケにならないで下さい。大声を出すと体力を使いますから、静かに待ちましょう」

キルシュレドも元気が続かず、すぐに意気消沈する。

「・・悪かったよ。しかしユウ、お前はなんでそんなに冷静でいられる?」

「キルシュレドさん、ボクには後悔があります。ボクが凄く好きだった対戦ゲームで大会に出た事があるんです。その決勝で互いに連続技が一回入れば勝ちというところまで来ました」

「? なんだかよく分からん話だな」

「頭が回らず例えが浮かばないんでそのまま話します。すみません。そして相手の連続技の始動技が入って、ボクは負けたと思って思わずコントローラーから手を放しました」

「ふん?」

「でも信じられないことに、相手が連続技を途中でミスったんです。ただボタンを連打するだけの簡単な物で、普段なら絶対にありえないミスです。そこで反撃すればボクの勝ちだったのに、ボクはコントローラーから手を放していたせいで、チャンスを逃しました。慌てて手を伸ばしたけど間に合わずに負けました」

「分からん言葉は多いが、言わんとする事は分かるぜ。つまりお前さんは、勝てた勝負を諦めたってこったな」

ユウが頷く。

「そうです。ボクがその失敗、後悔から学んだ事は、最後の最後まで諦めない。自分から勝負を投げないという事です」

「分かったよ。まぁ今更部屋を出る元気もないしな・・チクショウ、腹が減ったぜ」

その時、リーファが耳をピクリと動かして顔を上げた。

「足音が聞こえるわ。人の声も」

「何!」

「きっとヒロたちです。どうやら助かったようですね」

足音や声はどんどん大きくなり、やがて扉の外から怒鳴り声が聞こえた。

「ここだ! ユウ無事か! 開けるぞ!」

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