第6話 青と黒
ルシファー
「ねぇデュオン?この葉っぱでいいんだよね?」
デュオン
「うん、あってると思う」
空気の澄んだ山の麓に二つの人影。
あれと、それと…と薬草を小さな籠に摘んでいく。
デュオン
「これで全部だね」
ルシファー
「うん!ソフィアが書いてくれたのは全部摘めたよ」
デュオン
「……?ルシファーこれは?」
ルシファー
「これ?これね、こうやって口で吸うと甘いの」
デュオン
「う…こう…?(あんまり味がしない…)」
ルシファー
「そうそう。自然のお菓子。人が作った氷菓とか、甘味とかも大好きだけど、お花の蜜の味も好きなの」
ルシファーは籠を両手で抱えて、足取り軽く歩き始めた。
風の通り道はいろんな匂いや花びらとか、植物のかけらを運んでくる。
ルシファー
「あ!見てデュオン!桜だよ桜!」
デュオン
「綺麗…!ルシファーの髪の色と同じだね」
桜と同じ優しい髪色が踊る。
知らない人から見たら、桜の木の精に見えるだろう。
ルシファー
「懐かしいなぁ…小さい頃に千年桜を見に行って…」
デュオン
「?ルシファー?」
楽しそうな表情が急に困った表情に変わってしまった。
どうしたのだろうか。
ルシファー
「……誰と行ったかは思い出せないんだけど…どこ…どこだったかも思い出せないんだけどね!すっごく綺麗な桜の木を見に行ったことがあるの!この桜の木よりもすごく大きくてね…」
ルシファーとアスベルはどこから来たのか、帰りかたを思い出せないらしく、各地を転々としていたみたいだった。こうして断片的に思い出す何かがあるのだろう。
舞い落ちる花びらを見上げながら、嬉しさと同時に何かを失ったような影が差した。
大事だった何かと、誰かがいたことは覚えているのに、思い出せない。部分的に霧がかかったようになっているようだ。
ルシファー
「あ!枝が落ちてる…アスベルに見せてあげよ〜っと」
デュオン
「蕾がついてるね」
ルシファー
「お水あげたら咲いてくれるかな」
折れて落ちてしまったその木の枝を拾い上げて、好きな人の顔を思い浮かべる。絶対喜んでくれる!と満足げに。
ルシファー
「この葉っぱ、ソフィアが薬にするんだよね?」
デュオン
「そうそう。ヘスティアの」
ルシファー
「すごいなぁ…葉っぱがどんな効果があるとか知ってるんだ」
デュオン
「ソフィアの部屋、たくさん植物の本が置いてあるよ」
ソフィアの部屋には分厚い本がたくさん並んでいる。
病弱な妹のために使った時間はきっと膨大。
少しでも身体が楽になるようにと思いを込めて煎じているのをみんな知っている。
デュオン
「薬すっごく苦いんだって」
ルシファー
「苦い?」
デュオン
「そう。だからね、苦くなくて飲みやすい薬を作ってあげたいって言ってた」
ルシファー
「へぇ…わたし、薬って飲んだことないからなぁ…」
病気をしない二人が大変だねと話していた。
ーそんな時だった。
リィン…
デュオン
「!」
ルシファー
「わ!?びっくりした…気のせい…じゃないよね」
デュオン
「(鈴の音…?……誰かに見られているような…)」
デュオンがルシファーを自分の後ろに下げた。
近いような、でも遠くから聞こえた鈴の音。
刺さるような視線…急に消えた気配…。
これだけ視界の開けている場所で一体誰が…?
ルシファー
「すごく綺麗な音だったけど…なんだったんだろうね…。ちょっと怖いね」
デュオン
「不気味だね。帰り、違う道から帰ろう。(音を全く出さずに消えたから人ではなさそう…?攻撃してこないからヴァイスの可能性も低いよね…)」
二人は少し警戒を強めて歩いた。
少しずつ木が少なくなって、原っぱになってきた頃、また風が"何か"を運んできた。
ルシファー
「…甘い匂い…」
デュオン
「え?」
ルシファー
「甘い匂いがする」
デュオン
「!」
ルシファー
「デュオンこっち!」
二人は一瞬顔を合わせてから、ルシファーの言う方へ急いだ。しばらく走ると村が見えてきた。
✳︎
デュオン
「これは…」
建物がいくつも崩壊し、怪我人がいるようだ。
デュオン
「大丈夫?落ち着いて」
村人の子供
「い…妹が…!足が…!切れて…!!目も開けてくれなくて…!!」
デュオン
「(息はしてる……)大丈夫。生きてるよ。君も傷が開くから安静にしてて。絶対妹さんは助けるからね」
村人の子供
「ほ…ほんと??」
デュオン
「うん」
キィン……
デュオンが少女の足の傷口に手を近づけた。青緑色の魔法陣が展開されて、優しい光で包んでいく。
村人の子供
「!すごい…!魔法?」
デュオン
「うん。さぁ、次は君だよ。頑張ったね」
村人の子供
「……う…うん…!!」
デュオンが安心させるように優しく声をかけた。
デュオン
「話せたらでいいんだけど、何があったか聞いてもいい?」
村人の子供
「う…うん。急に地面から人が出てきて…村のみんなに攻撃したんだ。建物も壊してきてね…あ、でもでも、聖騎士様が倒してくれたんだよ」
デュオン
「そうなんだ。(聖騎士が居合わせたのか。よかった)」
ルシファー
「その聖騎士はどこにいるの?」
村人の子供
「たぶんあっち!村の中の方がたくさん出てきたんだ。だからあっちにいると思う」
少女を少年に託して、デュオンとルシファーは村の中へ進んだ。瓦礫の下敷きになってしまっている人や、重傷を負ってしまった人たちを助けながら。
村人の老人
「お嬢ちゃん、力持ちだな」
ルシファー
「え!?そ…そうかな?えっと…ちゃんと重いよ!すっごく!」
村人の老人
「そりゃあそうだろう!…あいたたたた…こりゃあ骨いっちまってんな…」
ルシファー
「えぇ大丈夫!?デュオーン!こっちお願い!…あの子が治してくれるから大丈夫だよ!」
村人の老人
「医術師か?あんな小さい子が」
ルシファー
「えっと…うん…!そんなところ!」
幸い、死者は今のところ出ていないようだった。
デュオン
「ルシファー、大丈夫?」
ルシファー
「え?」
デュオン
「臭いとか」
ルシファー
「うん…!大丈夫!ありがと」
デュオンはルシファーの顔色を除いた。少ししんどそうだが、本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。
✳︎
村の中心と思われる広場に出ると聖騎士が数人集まっていた。聖騎士は銀鋼鎧を着ているのすぐにわかる。
聖騎士のリーダー
「だいぶ片付いたな。怪我人の手当てを急げ。無事な者は中央に集まるように声をかけてくれ」
リーダーのような人が指示を出している。
聖騎士のリーダー
「……大丈夫か?」
聖騎士の女性
「私は大丈夫です…すみません足手纏いで」
聖騎士のリーダー
「お前はよくやった。一般人の盾になるのも立派な役目だ」
聖騎士の女性
「……恐れ多いです…」
聖騎士のリーダー
「しかし、傷が深いな…」
聖騎士の女性
「……焼いてください。そうすれば王都まで持ちます。治癒も村の人に最優先で使ってもらわねば…」
聖騎士のリーダー
「……だが…」
怪我を負っているのはどうやら女性の聖騎士のようだ。リーダーはいくら聖騎士とはいえ、肌を焼くことに躊躇しているようだ。
デュオン
「傷、見てもいい?」
聖騎士のリーダー
「?なんだお前は…」
デュオン
「ここの村の者ではないけど…近くを通ったから」
聖騎士の女性
「綺麗…」
デュオン
「?」
聖騎士の女性
「あぁごめんなさい。こんなに綺麗な青い髪見たの初めてで…」
青い髪はどうやら珍しいらしく、それなりの頻度で言われる言葉だ。走った時にフードが外れてしまったようで露わになってしまっていたようだ。
聖騎士の女性
「傷がかなり深いんだ。だから焼いて塞ごうって話していたの」
デュオン
「うん。聞いてた」
聖騎士のリーダー
「しかし焼いた跡が残るぞ…」
聖騎士の女性
「私は騎士ですよ。傷跡など気にしません」
リーダーの男より、本人の方がずっと肝が据わっているようだ。
デュオン
「焼かなくて大丈夫だよ」
聖騎士の女性
「え?」
キィン…
青い光が傷を癒していく。
聖騎士の女性
「!」
聖騎士のリーダー
「傷が…!」
聖騎士の女性
「すごい…!こんなに早く…」
聖騎士のリーダー
「魔法…なのか…?治癒魔法に似ているが」
デュオン
「……教え手が良いから上手に魔法が使えるんだよ」
デュオンが少し誇らしげに言う。みるみる傷が塞がっている様子を聖騎士の二人は口を開けて見つめている。
ルシファー
「デュオーン!この人ちょっと重症かも!」
デュオン
「すぐ行く」
ルシファーが負傷者をおぶって広場に戻ってきた。聖騎士を治療している間に探しに行ってくれたようだ。
デュオンが急いで駆け寄っていく。
ルシファー
「腕が変なふうになってるの」
デュオン
「瓦礫の下にいた?潰れちゃってるね」
ルシファー
「うん。そっとやったんだけど…」
腕の下の方からぐちゃぐちゃに潰れてしまっているようだ。かろうじて繋がっているといった状態。
キィン…
村人
「うぅ…!」
デュオン
「もう少し頑張って。大丈夫だからね」
聖騎士のリーダー
「これも治せるのか…」
青い光が傷を包んだ。
聖騎士のリーダーが恐る恐る覗いた。神経、血管、骨、筋肉、皮膚を修復していく。
聖騎士
「ボスー!重症です!村人の何人かが軽傷者を保護してくれているので、重症者だけとりあえずお連れしました」
聖騎士のリーダー
「結構多いな…」
聖騎士の女性
「あの…頼めた義理ではありませんが、あちらの皆さんも治療していただけませんでしょうか?こちらにも二名ほど治癒魔法を使える者がいますので、分担で…」
デュオン
「わかった。ルシファーは村の人の手伝いしてあげて」
ルシファー
「うん!まかせて!」
状態の酷い人から優先に治療をしていく。聖騎士2人係で一人を治療しているうちにデュオンは二人治療していく。
聖騎士のリーダー
「これだけの治癒は初めて見た…。フォルヴァール(魔法の国)出身か?」
デュオン
「ううん。教えてくれた人がすごく魔法が上手な人で…」
聖騎士のリーダー
「そうなのか…感服だな。君たちが駆けつけてくれてよかった。お礼申し上げる」
デュオン
「犠牲者が出なくてよかったよ。……ヴァイス…が出たんだよね?」
聖騎士のリーダー
「!そうだ。知っているのか」
話しながらも治療を続け、負傷者が減っていった。
聖騎士
「ボスー…!すみません。魔力切れです…」
聖騎士のリーダー
「そうか…よくやった。あと何名だ?」
聖騎士
「あと五名です…!」
聖騎士のリーダー
「(五人か…)」
デュオン
「治すよ」
聖騎士のリーダー
「ほ…本当か?君は大丈夫なのか?治癒は消費が激しいだろう…?それに君の方が大人数治しているし…」
デュオン
「大丈夫」
聖騎士のリーダー
「……では…よろしく頼む…」
聖騎士
「すごいなあの子…」
デュオンが怪我人を治療している間、ルシファーと聖騎士たちは出来る限り瓦礫を退かしたり、村の中を整備した。これから王都から騎士たちも派遣されるようで、村の復興を行うそうだ。
聖騎士のリーダー
「本当に助かった。ありがとう」
デュオン
「死者が出なくてよかったよ」
ルシファー
「本当にね!聖騎士さんたちは残るの?」
聖騎士のリーダー
「あぁ。負傷者はほとんど治してもらったし、一度王都に戻らなくても大丈夫そうだからな。復興を急ぐことにするよ」
デュオンとルシファーは村人たちと聖騎士たちに見送られて村を出て行った。
✳︎
ルシファー
「死んじゃったり、消えちゃったりしなくてよかったね」
デュオン
「そうだね」
帰るの遅くなっちゃったね〜と少し困った顔をしながら遠くなっていく村を後にした。
いつ、どこに出現するかわからないヴァイスという存在。倒しても砂のように崩れ、倒さなくても襲われた村は自然に風化したとでも言いたげな状態になる。被害者の血飛沫だけが残り、加害者のほうは形跡を残さない。酷い時には村の存在ごとなくなることもある。
ルシファー
「……デュオン大丈夫?」
デュオン
「うん。大丈夫。……いつになっても血に慣れないだけ」
膿んだ傷口や、飛び出た骨や内臓。苦しそうな呼吸音。治すことが出来る分、それを一番近くで見なければならない。
デュオン
「ルシファーも大丈夫?」
ルシファー
「うん!わたしは瓦礫動かしたり、人運んだだけだもん」
ルシファーは籠の中の薬草を見つめて小さく笑った。
時間が経って少し萎れてしまっている。
ルシファー
「あ…これまだ使えるかな?」
デュオン
「少し火で炙ってからすり潰してたから大丈夫じゃない…?」
ルシファー
「使えなかったらごめんなさいだね」
デュオン
「一緒にごめんなさいしよう」
少し遠回りになった帰り道を早足で進んだ。
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【キャラクター紹介】
デュオン
142cm/29kg/??歳(14歳くらい)
一人称は僕。
青色で癖のない綺麗な直毛。背中くらいまでの長さ。
青眼。
治癒魔法が使える。聴覚が良い。
ルシファー
157cm/45kg/????歳(20代くらい)
一人称はわたし。
薄桃色で少し癖のある髪。背中くらいまでの長さ。
紅眼。エルフ耳が特徴。
アスベルのことが大好き。でも付き合ってない。
第6話を読んでいただきありがとうございます。
第0話〜第7話まで一気に公開しております。
第7話以降は定期的に更新していきますのでよろしくお願いします。




