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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
日常編
6/21

第5話 双生の紫

生き物が焼けた匂い。

目の前で損傷しても動き続ける、死体だったもの。

休みなく赤い魔法陣が展開され、それを容赦なく攻撃していた。



ヘスティア

「(しぶといですね…)」



ふわり…上空に佇む紫。冷酷な視線を飛ばし、魔法を放っている。



ソフィア

「ヘス〜もういいんじゃない?」


ヘスティア

「まだ動いています。ソフィアは引っ込んでてください」


ソフィア

「……ちょっとやりすぎなんじゃ…」


ヘスティア

「死んでいるのに無理やり動かされているほうが残酷だと思いますが」


ソフィア

「……それはそうだけど…そうじゃなくて…」


ヘスティア

「ソフィア、あれはもう生き物ではないのですよ」

 


ヘスティアが冷たい声で言い切った。

わかっている。わかっているけれど、どう見てもヘスティアが虐殺しているようにしか見えない…。死体相手だけど…。でも、どちらかというと心配しているのは燃やされている死体よりヘスティアのほう。



ソフィア

「ちょっと身体が…」


ヘスティア

「…何を言っているんですか…全く…だから留守番で良いと言ったのに」



もう一撃。高火力の炎魔法で燃やし尽くした。

かなり離れているというのに、炎の熱が全身を伝った。紫色の炎が地面に残っている。



ヘスティア

「(やはり結界を展開すると、火力が劣りますね…。近くになにもないとやりやすいんですが…)」


ソフィア

「ヘス、体調は…」


ヘスティア

「これ以上の湧いてくる前に早く石を見つけて帰りましょう」


ソフィア

「……うん…」



ソフィアが何か言いたげだったが、ヘスティアはぶっきらぼうに遮った。

地面へ降り立ち、静かに歩き出す二人。



ヘスティア

「けほ…けほ…」


ソフィア

「ヘスティア大丈夫!?やっぱり無茶したんじゃ…」



ヘスティアが少し咳き込んだだけなのに、まるで死ぬのではないかというような反応をするソフィア。

血相を変えて背中をさすっている。



ヘスティア

「……大丈夫です…」


ソフィア

「血…!待って、薬を…」


ヘスティア

「…吐血くらいで大袈裟なんですよソフィアは。こんなの慣れっこです」


ソフィア

「……いいから。薬は飲んで。お願い」


ヘスティア

「……わかりました」



ヘスティアは少しめんどくさそうに薬を取り出した。

ヘスティアは病弱だ。満足に走れるような身体ではなく、悪化すると当分は起き上がれなくなる。

そんな身体で魔法を馬鹿みたいに使うものだから、ソフィアは気が気ではない。



ソフィア

「ごめんね。私がもっと上手く出来たらいいんだけど…」


ヘスティア

「…謝るのはやめてと、何度も言っているでしょう…」



ソフィアは魔法が上手く使えないらしい。比べてヘスティアは全系統の魔法に加えて魔術も使える。器用に使えるのに、それに見合った身体の頑丈さがない。

身体を変わってあげられたらと、常に思っているようだ。



ヘスティア

「ソフィアは、わたくしの後ろに隠れていればいいんです」



ソフィアとヘスティアは双子だ。ソフィアが姉でヘスティアが妹。妹に守ってもらう姉などなんの価値があるというのか。しばらく会わない間に、随分と逞しくなってしまった妹をソフィアは寂しく、切なく感じてしまった。小さい頃は甘えん坊だったのに。離れ離れになったから強くならないといけなかったのだ。こんなにも、弱々しい身体で。


✳︎



ヘスティア

「このあたりに村があったのに、無くなってしまったのですね…」


ソフィア

「そうね…。いつ見ても変な感じ」



各地で起こっている喪失の現象。最初は生き物が少ない場所から少しずつ起こっていたが、最近ではお構いなしだ。

喪失した村の中には行ったことがある村もあった。何人か行方不明になったという話も聞く。喪失の影響を直に受けてしまった人がいたのだろうか。



ソフィア

「どこかで元気でいてくれているといいね」


ヘスティア

「……そうですね」



コツコツ…2人の踵の音がバラバラに静かに響く。

2人は"世界の崩壊"を幼いながらに体験している。

その結果、1度はバラバラになってしまったが、こうして時間を経て再会した。

その時の絶望や、無力感を体験しているからこそ、世界の喪失を他人事には思えずにいる。


思い出の品も何もかも無くなってしまった。その中で唯一残ったのは姉妹弟のみ。お互いしか残らなかった。

その唯一のお互いとも離れ離れになってしまった、あの時の失望は今でも忘れられない。



ヘスティア

「いつの日か、この世界も滅ぶのでしょうか…」


ソフィア

「………。」



どこか遠くを見てそう言ったヘスティアにソフィアは何も言い返せなかった。自分たちが経験した世界の崩壊も、突然だった。



ヘスティア

「あ、ありました。結構な大きさですね」



暗い空気を遮るように、ヘスティアが声をあげた。

 


ソフィア

「ヘス、これがほしかったの?」


ヘスティア

「家の魔法道具につけていた魔法石がもう壊れそうだったので…。以前もこの辺りで採ったんです」


ソフィア

「へぇ…道具についてたのもっと綺麗じゃなかった?」


ヘスティア

「加工するんですよ。これは外側の皮のような部分で…」



魔力が巡回しやすい銅が使われた道具に、錬金魔術を使って魔法石を埋め込む。魔法石に蓄積された魔力を一定の仕草で起動するように細工する。魔法を持たない人でも、魔法石が壊れない限りは使えるというもの。



ヘスティア

「前のより状態が良いですね…術式を変えても耐えられますかね…」



ぶつぶつ。魔法石を見つけて嬉しいのか、子供っぽいような、小さい時の面影が見えて微笑ましくなる。



ソフィア

「(楽しそう…)」


ヘスティア

「ソフィア…。ソフィア…!」


ソフィア

「ん?え!?なに?ごめんぼーっとしてて…」


ヘスティア

「ソフィアの足元にも一つあるんですよ。ついてきたならちゃんと動いてください」


ソフィア

「あ!ほんとだ!ごめんごめん。これね」



もう…と呆れ気味にヘスティアがため息をついた。それ採ったら帰りますよと踵を返した。



✳︎



帰り道。家から一番近い町の中を通って帰っていた。

穏やか雰囲気で溢れている。喪失とはまるで無関係と言いたげなくらいだ。



町人

「あらソフィアちゃん!ヘスティアちゃん!二人でおでかけ?」


ソフィア

「こんにちは奥様」



ソフィアの後にヘスティアが控えて小さく会釈した。ヘスティアは人見知り。人当たりのよいソフィアの後ろに隠れて自分の代わりに会話をしてもらう。

 


ヘスティア

「どうも…」



小さな町だが、作物や魚など資源がしっかりしている町だ。近いこともありよく利用するため、ほとんどが顔馴染みだ。



ソフィア

「少し遠くまで行ってきたの。これから帰るところ」


町人

「あらそうなのかい?あ、そうだ、これ良かったら」


ソフィア

「?わぁ立派な野菜」


町人

「今朝採れたのよ。よくしてもらってるしもらってくれると嬉しいわぁ。お荷物かしら?」


ソフィア

「どうもありがとう!みんな喜ぶよ!大家族だからいくらあっても困らないよ!」


町人

「それはよかったわ!…うふふ、仲良いわねぇ」



和やかに話す隣でヘスティアがむすーんとしている。



ソフィア

「またみんなで来るね」


町人

「ありがとうね。気をつけて帰りなよ」


ソフィア

「うん!奥様もね」



ひらひらと手を振って別れた。



ソフィア

「ねぇ見てヘス、すごいね。種が育ってこんなに立派になるの。不思議だよね」


ヘスティア

「…そうですね」


ソフィア

「…あ!ヘスちょっと待って」


ヘスティア

「?なんですか?」



ととと…とソフィアが小さなワゴンに走って行った。

急に離れたと思ったらすぐ戻ってきた。



ソフィア

「はいヘス」



片手で器用に二つのコーンを持ってきた。コーンには赤色と桃色のアイスクリームが乗っかっていた。ヘスティアに差し出されたのは桃色のアイスクリーム。



ソフィア

「ヘスティア好きでしょう?」


ヘスティア

「………。そっちがいいです」


ソフィア

「?そう?(桃の方が好きじゃなかったっけ…)」


ヘスティア

「苺の気分なんです」



ヘスティアは少しだけ。ほんの一瞬、ソフィアの方を見てそう言った。

 


ソフィア

「美味しいよね。私も好き」



甘い物を食べたからか、二人とも表情が緩んだ。

コツコツ…踵の音が揃う。同じ歩幅で同じペースで歩く二人の背中は暖かく見えた。


 

 ✳︎✳︎✳︎


【キャラクター紹介】


ソフィア

155cm/45kg/23歳

一人称は私。

紫髪と金髪のメッシュのゆるふわカール。

背中くらいまでの長さ。紫眼。

透き通るような優しい声をしている。

薬の調合ができる。

右腰にスティックのようなものを下げている。

ヘスティアとは双子。ディンは実弟。ロアは従兄弟。


ヘスティア

155cm/42kg/23歳

一人称はわたくし。わたし。

紫髪と金髪のメッシュのゆるふわカール。

背中くらいまでの長さ。紫眼。

生まれつき身体が弱く、寝込みがち。

たくさんの魔法と魔術が使える。器用。

魔法道具が作れる。

ソフィアとは双子。ディンは実弟。ロアは従兄弟。

第5話を読んでいただきありがとうございます。


第0話〜第7話まで一気に公開しております。

第7話以降は定期的に更新していきますのでよろしくお願いします。

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