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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
日常編
5/21

第4話 黄と白

ここは小さな港町。

規模は小さいが活気に溢れている。

そんな港町の裏通りには煉瓦造りのお洒落な飲食店がある。

 


アスベル

「その髪型いいね」


ラウル

「?あぁ……ロアがやってくれた」

 


気怠げに話すのはアスベル。

隣で低いポニーテールを揺らしているのはラウルだ。

サイドを捻って結い上げた髪型が、いつもより少し華やかに見えた。

 


ラウル

「調子はどうだ?」


アスベル

「んー。まぁぼちぼち。そっちは?」


ラウル

「ぼちぼちだな」

 


からん、と音を立ててグラスが触れ合う。

アスベルは炭酸の効いた果実水を、ラウルは炭酸のない果実水を口にした。

アスベルは顎を上げて豪快にグイッと飲んだ。

ラウルは顎は上げずに上品に飲んだ。

 


アスベル

「どう?味する?」


ラウル

「……しないな」


アスベル

「ダメか。美味しいんだけどな…残念だね」



ラウルとアスベルは穏やかな街角の小さな店で、一息ついていた。

 


アスベル

「んにしても、湖まるごと消えちゃうなんてね」


 

先日、大きな湖が地図から消えた。"破壊"の進行は確実に広がっている。探し物をするのに少し遠出をした先で聞いた喪失の噂。

 


ラウル

「近くにヴァイスはいなかったから、出現からそれなりに時間が経った後なんだろうな」


アスベル

「鉢合わせするよりよかったけど、結構広範囲だったね。お、美味しそう」



アスベルが運ばれてきた料理を頬張る。

ラウルはお通しの野菜スティックをかじり、その食感だけを楽しんでいた。



アスベル

「傀儡型もなんか強くなってきてる気がするし、嫌な感じ…。あ、これ美味しい。なんのドレッシングなんだろ」


ラウル

「アスベル食べながら無理に話さなくても…」


アスベル

「……せやんね」


ラウル

「……。」


アスベル

「……ラウルはなんか喋ってよ。無言で食べてるの見ないで」



アスベルが困ったように笑った。



ラウル

「やっぱり話してくれ」



いつも話を聞いていることが多いからか、いざ自分が話すと話題が出てこないご様子。



アスベル

「んにしても、手がかりが少ないよね。ルークが探してる祠。手記もなし、噂話もなし」


ラウル

「これだけ広い世界で七つほどと言っていたから、簡単には見つからないんだろう」


アスベル

「暇だから、やること分けてくれるのありがたいからいいんだけどさ」

 


食べ終わったと思いきや、ボリボリ……

アスベルはさっきまで使っていた木製のフォークを噛み砕き始めた。



ラウル

「それ食べて大丈夫なのか?」


アスベル

「?使い捨てのだし平気平気。氷菓の棒とか噛んだりしない?」


ラウル

「いや……」


アスベル

「あぁそっか。氷菓食べないもんね」



木だから食物繊維が取れるんすよ。と訳のわからん豆知識を披露されたラウルは困った顔をするしかなかった。

アスベルが最後に水を飲んで、お店を出た。



✳︎



アスベル

「そういえばさ」


ラウル

「うん?」


アスベル

「ルシファーがこの前、花くれたんだよね」


ラウル

「あぁ…それはよかったな」


アスベル

「花も綺麗だったんだけど、それ持ってるルシファーが綺麗すぎて目が潰れるところだった」


ラウル

「そうか」


アスベル

「……話してたら会いたくなってきた。ルシファー今何してんだろ…。てかさ、外に行くたびにお土産見てみてしてくるの愛おしすぎない…?可愛いすぎる」


ラウル

「………はぁ」

 


ラウルは"難儀だな…"と困ったようにため息を吐く。

アスベルがルシファーの惚気をするのは日常茶飯事だ。



ラウル

「……今から会いに行くんだろ」

 


家までの帰路。

アスベルを背負ってできる限り揺れないように歩くラウル。アスベルも眠くなっているのか静かになってきた。

沈黙が許される関係性というのは、心地よい。


だが、次の瞬間。

 


ラウル

「………っ!」


アスベル

「……ラウル、どう思う?」



目の前の草原。その一部だけが色を失い、無音の空白となっていた。


——喪失。



ラウル

「ここもか……」


アスベル

「………!ラウル!ヴァイスが近くにいる!」


 

ラウルはアスベルを背中から下ろした。

二人は同時に身構える。

ラウルの両手に光が灯り、双剣が形を取った。


ゴゴゴ……

黒い影が立ち上がり、二人を取り囲む。

 


???

「鬼……オニだ。こンなとこロに」


ラウル

「話した…!傀儡型ではなさそうだな」


アスベル

「………(妖獣…か?)あれは、おれが相手するよ、ラウルだと時間がかかると思う」


ラウル

「わかった」



狐火を纏い、表情を失った妖艶な影が迫る。

他にも赤い肌で口元には嘴を構える影も出現した。

 


アスベル

「あっちは天狗っぽいな。傀儡も混じってるね」


ラウル

「(数が多いな…)」


アスベル

「妖族ばかり…骨が折れるなぁ」



アスベルの目元に赤い紋様が浮かび、髪の毛先が赤く染まる。ツノが伸び、爪先が鋭く変化していく。

 


アスベル

「天狗は上手く殺してね」


ラウル

「わかった」

 


鎌を作り出し、アスベルが目にも止まらない速さで突っ込む。



✳︎



ブンッ!

大鎌が唸りを上げ、空気を叩き割る。

刃が大地を抉り、妖獣の胴を削ぐ。

しかし、ずるりと肉は寄り合い、裂け目は瞬く間に塞がった。



妖獣

「鬼ノ身体……欲しい……ヨコセェ!」


アスベル

「………。(ほんと、頭ラリってんな……)」



妖獣の喉から轟音が漏れ、ボォオオオッ!っと蒼白い狐火が雨のように降る。

大鎌を振り回して払い落とすたび、ヒュンッと空を裂く音と、狐火の爆ぜる音が交錯する。

 


アスベル

「(傷の治りが異常に早い…おれの鎌で切っても切ってもすぐに戻る……厄介……生きているのと死んでいるのとだとここまで違うのか…)」



脚部を狙い、横薙ぎ。肩口を狙い、縦一文字。

豪快で無遠慮な鎌さばきが連打される。

普段の無気力さとはかけ離れた、戦いぶりは鬼神そのもの。


狐火が再び燃え上がり、炎の環を作って閉じ込めてくる。

アスベルは舌打ちを飲み込み、掌に妖力を込めた。


——ジャラッ。

青白い光が掌を包み、まるで生きているような鎖が出現した。鎖が軋みを上げ、妖獣の四肢を絡め取る。



妖獣

「離セェェ!」

 


ギチギチと骨が悲鳴を上げる。

アスベルは思いきり拳を握り込んだ。


バキィッ!

妖獣の体が捻じ切られる。

断末魔がちぎれ、静寂だけが残った。



アスベル

「(……できれば使いたくなかったけど…)」


 

呼吸が荒くなる。今にも倒れそうだ。



アスベル

「(早く…ラウルのほうに…)」


妖獣

「ギィイイイァアアアアア!!!!」


アスベル

「!」


 

狂ったような叫びと共に、妖獣が全身をひねり上げる。

バキィン!!鎖が千切れ飛んだ。

 


アスベル

「(まだ…!!)」


 

ブチィ!!妖獣の顎がアスベルの左腕に喰らいつき、骨ごと引きちぎった。

鮮血が飛び散る。左腕と同時に妖鎌も持っていかれてしまった。

 


アスベル

「(血が取り込まれる…!)」



妖獣が腕を飲み込もうとぐちゃりと音を立てて咀嚼する。



アスベル

「……っ!!」



アスベルは咄嗟に右手で妖獣の顔を掴んで、握力で握り潰した。

妖力を込めて、破裂させるように。

顔を潰されてもなお、狐火を出したりしばらく身体が動いていたが、修復力がなくなったのかやがて動かなくなった。

アスベルは再生を始めた左腕を眺めながら呟いた。

 


アスベル

「………はぁ…疲れた…」



✳︎



八体の天狗が羽ばたき、ゴォオオオ!!!と暴風を巻き起こす。

岩が砕け、大地が裂ける。


ラウルは一歩、すっと前へ。

双剣を構えて、身を低く沈めた。


ヒュンッ。

一閃。流麗に弧を描く。続く一歩が次の斬撃へと自然に繋がる。

その一連の動きは、まるで舞のようだった。

 


天狗

「殺セェ!!」



槍が突き出される。

ラウルは双剣を一度消し、掌で柄を軽くすくい上げる。

滑るように身を回転させ、天狗の巨体を地に投げ落とす。


ドンッ!土煙。

次の瞬間には双剣を呼び戻し、流れるような一閃で喉を断ち切った。

その動きに無駄はなく、美しい連続性を保っている。

 


ラウル

「(やはり浮いている相手はやりづらいな…)」


 

再び羽ばたきが唸る。ゴォオオオ!!!

 


ラウル

「……っ!」

 


ラウルは雷魔法を撃ち、天狗を地へ落とした。

今度は双剣に雷を一瞬だけ流し込む。

バチィッ!火花が弧を描き、風の流れを捻じ曲げる。

その隙を逃さず踏み込み、刃が舞のように閃いた。


ヒュン、ヒュン、ヒュンッ。

連撃は舞踏会の踊り子のように軽やかで、だが一撃ごとに肉を裂く。

翼が散り、腕が落ち、脚が崩れ……それでも一連の動きは途切れず、舞の調べの中に収束していった。

 


ラウル

「……っ!」



最後の一体が衝撃波を出しながら突っ込んでくる。

ラウルは双剣を再び消し、肩口を滑らせるように受け流す。

そのまま体を捻り、敵の翼を背負い投げのように叩きつけた。


バサァッ……と翼が折れる音。

直後に双剣を閃かせ、舞のフィナーレのように胴を八つに刻む。


——静寂。


舞が終わったあとに残ったのは、崩れ落ちる天狗の骸だけだった。



 ✳︎



ラウル

「……アスベル!待たせたか?」


アスベル

「……うん……」


ラウル

「(ずいぶんと早かったな…さすがはアスベル…)」



安堵も束の間、アスベルがふらりと膝を折る。

 


ラウル

「!大丈夫か……?」


アスベル

「……大丈夫……じゃない……気絶する……」



掠れた声で、最後に言葉を残す。



アスベル

「……なんかあったらさ、おれのことは置いてっていいからね……」


ラウル

「………。わかった」

 


ラウルは短く答える。否定せず、ただ受け止めて。



ラウル

「(俺の方がお前よりよっぽど死にやすいからな…)」

 


次の瞬間、アスベルの身体から音もなく力が抜け落ちた。

ラウルはその体を抱きとめ、静かに背負う。

背に伝わる寝息が"生"を告げているのに、足元の草原は輪郭ごと消えていく。

残されたのは、無音の空白だけ。

ラウルは黙って一歩を踏み出した。

切なさを背負いながら、静かに歩き去っていった。



 ✳︎✳︎✳︎


【キャラクター紹介】


ラウル

178cm/58kg/??歳(見た目は20代)

一人称は俺。

橙色の癖のない綺麗な直毛で背中まで長さがある。

橙眼。丁寧で綺麗な所作や仕草をしている。お上品。

常に体調が優れないアスベルを背負って移動することが多い。尽くし癖がある。

よくロアに髪の毛をいじられている。


アスベル

175cm/48kg/????歳(見た目は20代)

一人称はおれ。

銀髪の直毛ショートヘア。翠眼。エルフ耳が特徴。

無気力なのは常に倦怠感と眠気に襲われているから。

ルシファーのことが大好き。だけど付き合ってない。

第4話を読んでいただきありがとうございます。


第0話〜第7話まで一気に公開しております。

第7話以降は定期的に更新していきますのでよろしくお願いします。

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