第3話 水
ゼナは一人で洗い物を始めた。
ポンプを引いて水を流す。
ジャーっと流れる水の音と、食器同士が当たる音が響く。
ゼナは汚れた食器が綺麗になっていくのが楽しいらしい。かなりの綺麗好きだ。
ゼナ
「(ディンに何時に起こすか聞くの忘れた…)」
そういえば…と考え事をしていると、新しい足音が聞こえた。
ロア
「やぁゼナくん、まだおひとり様?」
ゼナ
「おかえりロア。ディンとルークが帰ってきたんだけど寝ちゃった。戦ってきたみたいで疲れててさ」
ロア
「へぇ…あ、食器洗い手伝おうか?」
ゼナ
「あ〜じゃあ、拭くのお願いしていい?」
懐っこく話しかけてきたのはロア。
ディンとは従兄弟関係である。
活発でよく動くので、水色の髪がふわふわ踊る。
ロア
「急に移動したな〜って思ったんだよね〜」
ゼナ
「数が多かったらしいよ」
ロア
「そうなんだ。それはお疲れ様だね。にしても、ディンが出かけると大体遭遇するよね〜。不幸体質っていうか、何かを引き寄せる力が強いっていうか」
ロアは魔力感知ができるので、誰がどのくらい離れているのか、急に移動したのかがなんとなくわかるようだ。
ロア
「ルークも戦ったぽい?」
ゼナ
「うん。今回はそこまで落ち込んでなかったけど」
ロア
「珍しいね。いつもしばらく落ち込んでるのに」
買い物から帰ってきたロアに軽く情報共有をしながら食器洗いを済ませた。ロアが早く台所を使いたいご様子。
ゼナ
「何か手伝う?夕飯作るんだよね?」
ルーク
「そ。下町のおじさんが持っていきな〜って野菜たくさんくれてさ。シチューにしようかなって。ミルクも使い切りたいし…古くなってきてるからやばい」
話しながら紙袋から野菜を取り出していく。じゃがいもににんじん、たまねぎ。紙に包んでもらった肉も取り出した。
ゼナ
「随分と大きなじゃがいもだね」
ロア
「でしょ〜?あ、ゼナくん野菜洗ってくれる?軽くでいいからね軽くで。ピカピカにしなくていいからね」
ゼナ
「わかった」
ゼナは綺麗好きだからか、なんでもピカピカに磨きすぎるのだ。床だろうが野菜だろうがお構いなし。
ロア
「玉ねぎは末っ子ちゃんたちが苦手だからひとつでいいかな〜」
ロアは料理好きらしく、料理する時はご機嫌だ。
正直、料理店を出したほうが良いくらいの腕前。
ロア
「ゼナくん野菜洗ったら、白ワインとブイヨン出しといてほしい」
ゼナ
「はーい。…あれ?肉買ってきたの?」
ロア
「うん。たまには食べたいでしょ?」
肉は市場に出回りにくいので、頻繁には食べられない。
ロア
「魚も好きだけど、肉は骨抜きしなくていいし、なんせ美味しい!」
ゼナ
「よく下町に置いてあったね」
ロア
「今の時期はそれなりに出回るんだって」
ロアは話しながらも手際よく野菜たちを切っていく。トントントンと心地よいリズム。
じゃがいもは大きめに。にんじんは乱切り。玉ねぎは薄めにスライスする。肉は一口大に。
大きな鍋にバターを引いて肉から順番に火を通していく。
それから白ワインのアルコールをとばして…。
ロア
「(ルークが肉臭いと食べにくいだろうからハーブでちょっと臭い消しを…ベイリーフは…えっと…。!あった!)」
ハーブも入れて肉臭さを消しとばしていく。
鍋の中で野菜と肉がたぷたぷ揺れて美味しくなっていく。しっかりと味が染み込むように蓋もして、出来上がりを待つ。
ゼナ
「ロアこれ洗って平気?」
ロア
「うんありがと。あ、ナイフは僕が洗うから絶対に触らないでね」
ゼナ
「気をつけて洗うのに…」
ロア
「ゼナくん、手切ったら大惨事になっちゃうでしょ」
ゼナは体質上、小さな切り傷でもなかなか止血しないので、刃物に極力触って欲しくないのだ。ゼナは洗い物の手際だけがどんどん良くなっていく。
ゼナ
「いつも洗い物くらいしか手伝えないのが心苦しいんだけどな」
ロア
「洗い物やってくれるだけでも充分助かるよ!僕、洗い物そんなに好きくないし」
弱火でコトコト煮込んでいる間、座って世間話。ロアはお喋りなので、ゼナがうんうんと話を聞くのがいつものスタイルだ。
ゼナ
「すごく良い匂い。ルークがすごく喜ぶだろうな」
ゼナは美味しい香りを肺いっぱいに吸い込む。
ロア
「だといいな〜。ルークはすごく美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるよ」
そんな話をしているとパタパタと足音がした。
ルーク
「良い匂い…!!」
ロア
「お?噂をすれば。起きたね。おはようルーク」
ルークがぴょこっと顔を出した。匂いに釣られて起きてしまったらしい。顔がもう"めっちゃ嬉しい"と言った顔だ。なんて素直で可愛いんだろうか。
ルーク
「おはようロア、ゼナ。晩御飯シチュー?」
ロア
「そうだよ〜。匂いで起きちゃったの?」
ルーク
「うん!すっごく良い匂い…!」
戦いの後でテンションが低かったのが嘘みたいだ。
ルークはロアに胃袋を掴まれているので、ロアが料理担当の日は非常に嬉しそうにする。
ロア
「まだ早いし、みんな帰ってきてからね」
ルーク
「うん!楽しみだな!」
ゼナ
「ご機嫌すぎる」
みんなが帰ってくるのを待ち遠しく思いながら、幸せな匂いでいっぱいになった家の中で過ごす。
早く帰ってこないかなと台所と玄関を行ったり来たり。まるで主人を待つ犬のようだ。
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ロア
「そろそろパン焼こうか。お皿出しといてくれる?」
ゼナ
「バターナイフは?」
ロア
「出して〜!」
分担してお皿を準備したり、カトラリーを並べたり。大きなテーブルに十人分。大家族なので食事の準備が大変なのだ。
陽が落ちてきて外が暗くなり始めたので、玄関灯をつけて帰りを待つ。どうかみんな無事に帰ってきますように。
ゼナ
「あ」
ロア
「うん?どしたのゼナくん」
ゼナ
「ディン起こすの忘れてた」
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【キャラクター紹介】
ロア
168cm/50kg/19歳
一人称は僕。「だよね〜」と伸ばした話し方をする。
水色髪に紫髪のメッシュで少し癖毛。首くらいの長さで ハーフアップやひとつ結びにしている。
料理好き。ディンとは従兄弟関係。
他人と話す時に手を組む癖がある。
【小話】
ディンも料理が出来ますが、男料理。調味料も適当にぶちこむタイプ。適当が一番美味しいらしいです。
ロアはハーブなどを使って臭みをとってくれたり下処理から丁寧にやるタイプです。
第3話を読んでいただきありがとうございます。
第0話〜第7話を一気に公開しております。
第7話以降は定期的に更新していきますのでよろしくお願いします。




