第25話 水源のもりびと
ディンとソフィアとヘスティアは死体を観察した。
男女無差別。年齢も関係ない。衣服はぼろぼろ。
二つだけそれなりの衣服が確認できる。
ディン
「(……服こそボロいけど…骨とかは綺麗に残ってるなぁ…縄とかで拘束されてもない…死んだ後にここに捨てられたって感じかな…)」
ヘスティア
「(獣が貪り喰った…というより、白骨化したように見える…)」
ソフィア
「(偶発的と言うには…説明がつかないよね…)」
3人が観察していると、ロアが痺れを切らして呼びにきたようだ。
ロア
「ねぇ…もういいでしょ?行こうよ…」
???
「どこに行くの?」
ロア
「どこって…え…?」
???
「珍しいね。生きてるのが来るなんて」
ロア
「うわぁ!?」
ロアの悲鳴に全員反応した。
ロアの真後ろには頭に綺麗な花が咲いた、植物のような、人の子供のような何かが首を傾げている。
ルシファー
「…っ…!花精…!」
ロア
「びっくりしたぁ…お…驚かせないでよ…」
ヘスティア
「なるほど…花精の生息域ですか」
ソフィア
「それでこんなにも循環が起こってるんだね」
花精
「?どうして空っぽなのに動いてるの?」
ディン
「前も言われたよ君のお仲間にね。ここじゃない遠い森だったけど」
ソフィア
「これは君たちが食べたの?」
花精
「うん。そこにあるから食べた」
ロア
「うわ…」
ルーク
「……っ君たちの森だったんだね。勝手に入ってごめんね」
花精
「………鬼…いる…」
まずはルークを見てからすぐに視線がずれた。
ルークの隣にいたルシファーを指差した。
花精
「?鬼…だけど鬼じゃない。だぁれ?」
ルシファー
「あの…」
ルシファーは無意識に胸元の首飾りを握った。
ルーク
「森を荒らしに来たんじゃないんだ!だから攻撃しないで」
ルークがルシファーの前に立ち、守る動作をした。
花精
「鬼…の血…ほしい」
ルーク
「ダメだよ」
花精
「………ほしい」
ルシファー
「………。(どうしよう…)」
ルシファーが後退りすると…下の方からも声がした。
花精
「ほしいね。妖力がほしい。もっとちょうだい」
ルーク
「(増えた…!!)」
ロア
「うわ!?」
土の中から、木の上から、木の影から、咲いていた場所からとどんどん花精が増えていく。
頭に咲いている花や身体の色は個体差があり、遠目で見る分には美しいのがまた不気味だ。
ヘスティア
「囲まれてますね」
ディン
「ルーくんとルシファーだけねぇ…。ボクたちすっごく無視されてる」
ソフィア
「無視というより認識されてない…というかできないんだね」
ディン
「失礼しちゃうよね。それ以上2人に近づいたら森燃やしちゃうよ〜?いいの〜?」
ロア
「バカディン!!挑発しないでよ!」
ディン
「2人食べられたらどうすんのさ!」
花精
「?あれ…?動いてる…?空っぽなのに…?」
花精
「空っぽのくせに?どうして?」
花精
「空っぽなのに動く」
ヘスティア
「空っぽ空っぽやかましいですね…喧嘩売られてます?燃やしてやりましょうか」
ロア
「ヘスティア姉さん!喧嘩即買いする癖やめてっていつも言ってるでしょ…!!」
ディン
「ヘスティア姉さん、ここはやっぱり燃やしちゃおうよ」
ソフィア
「やめなよ。2人とも」
花精は、全く同じ角度で首を一斉にがくん、と傾けた。
ロア
「ひっ…!?怖すぎる…!!」
花精の一体がディンの目の前まで近づく。
頭の花弁が触れそうな距離だ。
ディン
「なに」
花精
「……壊れてる?」
ディン
「本当に失礼。てか臭いんだけど。あんまり近づけないでくれる?その大きい花!」
別の個体はルークに近づく。
こちらも花弁が触れそうな距離で。
花精
「こっちはある。獣…美味しそう」
ルーク
「食べられるのはちょっと困っちゃうな…」
ルークの周囲の空気が、わずかに震える。
花精たちがルークとルシファーを再び円になって囲んだ。
花精
「分けて」
花精
「人間だけじゃ足りない」
花精
「ほしい」
花精の舞と呼ばれるこの儀式のような動作。
花が、ひとつ、ふたつ、みっつ。
木の根が蔓のようにしなり、囲んでいく。
花精の声が森の中にこだまする。
花精の、狩だ。
まずい。
ルシファー
「ルーク…!」
ルーク
「どうしよう…!(攻撃…しないと…攻撃を…)」
ルークとルシファーの足元の蔓が絡まり始める。
まるで抱きしめるみたいに。
花精
「もっと森。大きく育てる」
花精
「人間だけじゃ物足りない」
花精
「鬼の血欲しい」
花精
「獣も食べたい」
キィン…!
赤色の魔法陣が展開された。紫色の炎が蔓を燃やしていく。
ルークとルシファーは綺麗な防壁で覆われていた。
ディン
「逃げるよ!!撤退!!急いで!」
ルーク
「うん…!ルシファー!いくよ!」
ルシファー
「うん…!」
花精
「熱い…!!熱い…!!!!熱い…!!」
花精
「痛い…!!イタイイタイ!!!!」
花精
「燃やした…!!燃やしたな!!!!」
燃えてしまった部分が少しずつ再生していく。
体液なのか、樹液のようなものが滴る。かなりグロテスクだ…。
花精たちが叫びながら生き物とは思えない動きで追いかけてくる。
そして木の根っこが地面から大量に出てきて道を塞いだり、根の先端で突き刺してこようとする。
さらに上から、横から、鋭い葉っぱの刃が舞い踊る。
キィン
ザクッ…!!
ロアが全員に防御を展開し、ディンが細剣で切れるものは切り、ヘスティアが風魔法で攻撃を弾く。
ロア
「やばいやばいやばい!!妖に喧嘩売っちゃだめだって!勝てないって!」
ディン
「喰われる一歩手前だったでしょ!しかも話通じてなかったし!」
ソフィア
「今、言い合いしないで!前見て!」
ルシファー
「行動範囲外に出れば追ってこられないはずだから!」
ヘスティア
「やっぱりこのまま焼き払っちゃいません?」
ルーク
「だめだよ!」
全員全力で先程いた場所の反対方向、つまり来た道を疾走する。ルークとルシファー、ディンは走り、ソフィア、ヘスティア、ロアは身体を浮かせて移動する。
ディン
「いたっ…!…うわ!?」
ディンが躓いたのか転けたのか視界からいなくなった。
気づいたルークが爆速でディンを抱えて走る。
ディン
「ルーくん!ありがと!足捻っちゃったぁ」
ルーク
「いいから捕まってて!」
ロア
「そんな靴履いてるからでしょ!!」
ディン
「いいだろヒール履いたって!!」
やっと降ってきた急な坂道差し掛かった。
今度は登りだ。
ルークとルシファーは上手く飛び上がり、壁を蹴り、駆け上がった。
ヘスティアは全員登ったのを確認すると、最後に風魔法で花精たちに攻撃した。
白色の魔法陣が展開される。
それでも花精は追いかけようとしてくるが、坂の上までは追ってこなかった。行動範囲外に出たのだろう。
ロア
「焦ったぁ…死んだかと思った…怖すぎる…」
ルシファー
「自然破壊…っていうか…攻撃したから…」
ディン
「あっちが先にちょっかい出してきたんじゃん」
ソフィア
「私たちが先に領域内に入っちゃったんでしょ」
ヘスティア
「それにしても、あんなに気性が荒い個体は初めてですね。普段は温厚なはずでは?」
ルシファー
「うん…人間の食べ過ぎ…?とかなのかな…わからないけど…」
ディン
「まぁとにかく…離れよう…うげ…まだこっち見てるじゃん…」
ロア
「絶対夢に出てくるよあれ…」
ルーク
「………。」
後ろからの視線が突き刺さる中、水源のほうまで戻った。
まるで生きた心地がしなかったが、全員無事だ。
水源の正体を知ってしまったような、苦い気持ちを抱えながら、森の中を歩いた。
✴︎✴︎✴︎
【ワード紹介】
花精
妖族。植物のような人型の妖族。
森に生息しており、森を育てて循環させる役割を持つ。
見た目は美しく、頭部には綺麗な花が咲いている。
温厚な性格が多く、人間とも共生関係も築いている妖族。
町や王都で販売されている花蜜は、花精が提供している。蜜集めという習性もあり、個体によって甘さなどが違う。
『アルスダリアの祈り』第25話を最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
水源…砂漠の中で異常に育っている森の正体がわかりましたね…悪夢のような体験をしたルークたち御一行。どうなってしまうのやら。とにかく無事でよかったね。




