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アルスダリアの祈り  作者: 瑝覇
???編
25/29

第24話 グレンロック

『グレンロックです。ご乗車ありがとうございました』


小さな田舎駅だが駅の中は活気的だった。

王都は赤い石造りの建物が目立っていたが、ここでは白い石造りの建物が多い。


 

ディン

「思ってたより暑くないかも」


ソフィア

「そうだね。ちょっと離れるだけでこんなに違うんだ」


ヘスティア

「綺麗なところですね」


 

町は石畳で綺麗に整備されていて、ちらほら畑のようなものもある。



ルーク

「なんかいい匂いする。パンみたいな匂い」

 


穀物を加工する場所があるのか、良い香りが漂っている。



ロア

「とりあえず、現地の人にお話聞いてみようか。情報収集から始めよう」


 

デューレブラッドに比べると涼しいが、暑いもんは暑いので、ロアは周りを冷やしながら歩いた。この町の人もかなり温厚で親切だった。



町の人

「森ならこの町を出て、ずーっと北に行くとあるよ。大きな水源があって、水を汲みに行く荷車があるから乗せてもらうといいよ。昼下がりには出るんじゃないかな」


町の人

「そこの突き当たりを曲がると大きな看板があるからすぐわかるよ!」


ソフィア

「どうもありがとう」



水色の塗料が使われた大きな看板は本当にすぐにわかった。さっそくお話を聞いてみることに。


レブラ地方では貴重な水。

この町では自給自足しているようだった。

遠くの水源まで足を運び、持ち帰って分配するのを何年も続けているらしい。



町の人

「旅人さんかな?珍しいねぇ」


ルシファー

「それさっきも言われたね」


ロア

「観光客…とは思わないの?」


町の人

「この環境下で観光に来る方はなかなかおりませんからな。ましてや王都から離れた町にはね。来るとしても、よほどの物好きくらいで」


ディン

「否定はしないね」



軽い笑い声が起きる。

その空気のまま、荷車は水源に向かって進み出した。

 


ディン

「ルーくーん?興味が惹かれるものがあっても遠くいっちゃダメだからねー!?」


ルーク

「わかったよー!じゃ、よろしくね!」


 

ルークが荷台を引っ張ってくれるラクダに話しかけた。全部で四頭。ラクダたちはそれに応えるように鳴き声をあげた。



町の人

ルーク…ラクダと話してる…?けど。めっちゃ楽しそうに…え?まじで会話してる?」


ディン

けものたらしなだけだから気にしないでいいよ」

 


荷台には屋根が付いていて周りはすだれで覆われていた。

ぼーっと退屈そうにしていると、乗り合わせた町の人たちが昔話をしてくれた。



町の人

「大昔は本当に水がないところでしてな…。レブラ地方は呪われているだの、滅びるだの言われていたそうで」


 

雨が降らず、干魃した土地。植物はおろか人が生きるには過酷すぎる場所だったそう。



ロア

「今の姿からは想像つかないね」


町の人

「そうでしょう?ですが、ある時、王家の方が他国からお妃様を迎えられると途端に雨が降ったそうです。それから少しずつですが、人が増え、植物が育ちました」


ソフィア

「すごいね。奇跡みたい」


町の人

「そうですね。王家の方も国民も皆、奇跡だと喜ばれたそうです。ですが、そのお妃様が若くしてお亡くなりになってからまたパタリと雨が降らなくなったそうです」



まるで御伽話を聞かされているようだった。



ルシファー

「雨……って、天気雨だったよね」


町の人

「おや、ご存知ですか?」



ソフィアとヘスティアがルシファーをじと…っと見た。

 


ルシファー

「あ!?ううん!なんでもない!そうかなぁって思っただけ!」


ロア

「あはは…お妃様が不思議な力を持っていた…とか?」


町の人

「そう言い伝えられております。……実際はどうだったのでしょうね。その後何代かは、他国に頼る時代が続いたそうですが、三代前の王様がとても良い方で、国民たちの手で少しずつ土地を蘇らせて行ったのです」


町の人

「当時はものすごく嫌われていたそうですが…」


ルシファー

「どうして?」


町の人

「まぁ言い方が良くありませんが…楽だったからでしょうね。楽をしたいのが人間ですから。苦労せず、楽をして暮らしたいと思うのは当然のこと。他国がなんとかしてくれるのだから頼ればいいと、国王様に反抗していた者も多かったのです」


ヘスティア

「まぁ…わからなくはないですね」


町の人

「誰かの犠牲や、苦労をしないで得た安寧は、絶対に続かないからと、国王様が自ら土を耕したり、水源を探したりしていたそうです。それを見てだんだんと民も協力的になっていったそうです」


ソフィア

「すごくいい王様に思えるけど」


町の人

「随分と泥臭い国王様だったので、良い意味で"泥中の王様"なんて呼ばれていたそうですよ」

 


国民たちが穏やかな性格なのは三代前の王様の影響によるものなのかもしれないと町の人が話してくれた。



ヘスティア

「三代前の…とおっしゃっていますが、現代の王はどうなのですか?」


町の人

「そうですね…国王様…ローグ様は…何をされているのか全然わからないお方で…。あ、でも王子のプロジオン様がとても国民想いの方なんです。こんな遠くの田舎まで様子を見にきてくださったり」



こんなこと言ってはいけないんですけどね。と困った顔で笑った。

 


ディン

「子供が苦労してるパターンね」


町の人

「いえ…ローグ様はプロジオン様の叔父上様でして…」


ロア

「?なんで叔父さん?」


町の人

「プロジオン様は先代国王様のご子息でしてな…ですが先代国王様もお妃様も行方知れずでして…まだ幼いプロジオン様は国王となられるのはご負担になると」


ルシファー

「え?行方不明なの?」


町の人

「異国でのパーティに呼ばれて、それから音沙汰がないそうなのです…護衛の方も誰も帰って来ず…おそらくは…」


ヘスティア

「追求はされなかったのですか。国王が絡んでいるのに随分といい加減な処理ですね」


ソフィア

「ヘス」



ソフィアはヘスティアの肩を言い過ぎ。と叩いた。



ヘスティア

「……不安にはならないのですか?」


町の人

「えぇ…神官様がおりますので」


ルシファー

「シンカンサマ?」


町の人

「えぇ。先代の国王様は病気を患っていたのですが、神官様が熱心に治されて…当時からずっと国に尽くしてくださっていて信頼できるお方ですよ。神官様がいるのでみんな安心して暮らしているのです。ローグ様の代になってからは、王都に水路を引いたとかで」


ヘスティア

「随分と働き者なんですね。(たかが神官が)」


ソフィア

「水路なんてあったっけ?」


町の人

「国の内側だよ!ちょっと前に王都に行った時にそうだったよ!」


ロア

「内側?」


町の人

「そう!二層に分かれてて…外側は生活区域で、内側は商業区域とお城があるの!」


ロア

「お城…なんて本当にあった…?」


ルシファー

「ここ来る前にも言ってたよね…本当にあったよ!大丈夫…?」


ディン

「どうせいつもの妄想癖でしょ」


ロア

「は?」


ヘスティア

「なぜ生活区域側ではないんでしょう」


町の人

「水路の構成上ですかね…?あまり詳しくないのですが」


町の人

「国民は入国審査なしで内側に出入りできるから普通に汲みに行くの」


ロア

「あ、そういえば列車降りてから入国審査なかったね…特定の場所だけするタイプなんだ」


ヘスティア

「……まぁ、一般の方が銃を持っているくらいですもんね」



ヘスティアが荷台の隅を見た。



ディン

「銃なんて珍しいね。ちゃんと使えるの?」


 

ディンはラクダと楽しそうに話しながら歩くルークを見たまま聞いた。



町の人

「ほとんど使ったことありませんよ。随分と前に獣避けで使ったくらいで…昔はアンデッド?かなんかがよく出るからって持たされてましたけど」


ロア

「(アンデッド…ヴァイスのことかな…)」


町の人

「最近はめっきり出ませんけどね…。この銃も2人がかりで使うもので…ほとんど置物です」


ソフィア

「武器の所持制限がないんだね」


町の人

「えぇまぁ」


ロア

「怖くない?町の人が武器持ってるとか…殺されちゃうとかさ…」


町の人

「全然!それに殺人は禁止されておりませんし」



その言葉に周りの温度が下がった気がした。

しばらく、荷車の音が大きく聞こえた。



町の人

「あ…あぁ!!ないですよ!!全然!!デューレブラッドでもグレンロックでも…フレアブレイド(もうひとつある町)でも!殺人なんて聞きません!すみません…異国の方からすると慣れませんよね…すみません」


ディン

「別に?オルデリアでもそうだし。珍しくはないでしょ。いいじゃん?禁止にするほどのことでもないってほど治安がいいわけでしょ?」


町の人

「そうですな…」


町の人

「お兄さんたちオルデリアの方から来たの?森なんてたくさんあるでしょ!」


ディン

「そんなとこ。この辺りの森ってことに意味があるの」



ディンが上手く空気を戻してくれた。



ソフィア

「私刑が禁止されてないってことかな…」


町の人

「いやいや!そもそも殺人はいけないことですので、禁止されていないだけで、しちゃいけないんですよ!倫理的に!」


ヘスティア

「禁止にしたところで誰も文句を言わないのに禁止にしていないんですね」


ソフィア

「オルデリアは私刑ができるって意味で殺人が禁止されていないけど…また意味合いが違うね…」


ヘスティア

「オルデリアは国民同士が監視の目になるって意味で上手くやっているようですが…この国はどうなのでしょうね」


ロア

「(ディンがせっかく空気戻してくれたのに…姉さんたちってば…)」



ロアがハラハラしながら聞いていると、若い女性が話を変えてくれた。



町の人

「みんなで森に何しに行くの?水源見学?」


ディン

「いいや。ちょっと探し物をしにきたの。森の中で祠みたいなの見たことない?」


町の人

「祠…?いやぁ今まで見たことないですな」


ディン

「ないかぁ」


町の人

「あまり危ないことはしてほしくないけど、急な坂になっていたりする所はあたしたちは行ったことがないの。もしかすると、そういうところにあるのかもしれないよ。前に人が落ちちゃって…それから戻って来なくて…」


ディン

「ふぅん…まぁ、未探索箇所があるんだね。可能性は0じゃないってことだ」



グレンロックの町から40分ほど経った頃、森が見えてきた。



ルーク

「え?君もさぼてん食べたことあるの?ぼくもある!美味しいよね!ついさっきお昼ご飯に食べたんだよ!あれって棘のまま食べないんだって。え?そのまま食べるの?」


ディン

「ルーくーん!前!前見てみてー!」


ルーク

「?あ!森だ!本当にある!」



砂漠の中でそこだけ不自然なくらい森になっている箇所がある。なぜあそこだけ生い茂っているのだろうか…。



ヘスティア

「想定より…随分と育ってますね」


町の人

「もともと水源はあったのですが…最初からこんなに大きな森ではなかったですよ」


ディン

「(痩せた土地にこんな森になるほどの養分がどこから来てるんだか)」

 

ルーク

「また後でね」

 


ルークがラクダにバイバーイと手を振った。また応えるようにラクダたちが鳴き声をあげた。

ラクダたちに見送られてみんなで森に入った。


 

ルシファー

「すご〜い!なんか別世界みたい!」


 

ルシファーがすごいすごい!と感動している。

砂漠のような場所に一箇所だけ不自然に思える森林。

背の高い木が生い茂っている。

 


町の人

「この奥に水源があるんだ。俺らは水を汲みにいくけど、君たちはどうする?探索するかい?」


ディン

「そうさせてもらおうかな」


町の人

「了解。2時間ほどで大丈夫かな」


町の人

「気をつけて探索してね!」


ルーク

「うん!ありがとう!」

 


町の人たちと別れて自由に散策させてもらうことにした。

森の中はとても過ごしやすい気温でロアの魔法も必要なさそうだ。



ヘスティア

「……ルーク、ちょっと」


ルーク

「?どうしたの」


ヘスティア

「この水、飲んでみてくれません?」



ヘスティアが湧水が溜まっている場所を指さした。

 


ルーク

「いいけど…なんで?」


ヘスティア

「毒味」


ルーク

「毒味…」


ヘスティア

「わたくし、腹壊すのは嫌なので」


ルーク

「わかった…。……別に変な感じはしないけど…普通に美味しいよ。冷たいし」


ヘスティア

「……そうですか」


ディン

「魔法道具かもって?」


ヘスティア

「まぁ。魔法で出した水は飲めないので、線は薄いなとは思っていましたが…不自然に思えるので。この森。ただの好奇心です」


ルシファー

「ルーク、こっちは?急な坂になってるよ!」


ルーク

「行ってみよう!」

 


ルークとルシファーは身軽に坂を下って行った。

ディンたち魔神族組はふよふよ身体を浮かせて移動した。


 

ルシファー

「ソフィ?大丈夫?」

 


ルシファーがちゃんと着いてきてるかな?と後ろを見るとソフィアが何やら眉間に皺を寄せていた。

 


ソフィア

「うん。ちょっと考えごとをしてただけ。大丈夫だよ。ルーシー(ルシファー)」


ルシファー

「ならいいけど!」


ソフィア

「(なんでこんなに急な坂が出来るんだろう。周りは平坦地だったのに。ここだけ地面がへこんでいるってことでしょう?こんなに急な坂になるのって変じゃない…?)」

 


確かに考えてみると異常に思える。森の周りは平坦地。

部分的にものすごくへこんでいる場所がある。

 


ソフィア

「(流砂……とか…?それとも誰かが…)」



ソフィアは立ち止まった。

どうも、違和感が引っかかる。


 

ロア

「……なんか…静かすぎない…?鳥のさえずりひとつ聞こえないよ…?」


ルシファー

「歌でも歌ってあげようか?」


ロア

「歌!?歌はもっとやばいよ!」


ルシファー

「あぁそうだった…」


ルーク

「なんか…すんすん…なんだろうこの臭い…」


ディン

「…………。」



ディンがルークの前を歩く。

あたりを警戒して歩いているようだ。



ルシファー

「あ、キノコ生えてる」


ロア

「ルシファーちゃん触んない方がいいよ〜…」


ヘスティア

「………(本当に静か…)」


ロア

「うわ!?なんか動いた!?」


ルシファー

「風だよロア…」



ロアがルシファーに引っ付く。



ロア

「ね…ねぇ?もういいんじゃない?帰ろうよ…」


ソフィア

「(動物がいる感じもない…けど…)」


ヘスティア

「気味が悪いですね」



みんなの歩く音だけが響く。

風が吹かなければ無音だ…。

 


ルーク

「う…この辺臭い…臭すぎる…」


ソフィア

「?ラフレシア…?だっけ…確かに臭いきついかも…」


ロア

「これ植物…?大きいね…なんか…怖…グロテスクな…」


 

ルークが鼻をつまんでそう言った。

もう少し進むと何やら空洞になっている場所を見つけた。

ディンが何かを察して一番前を歩いた。



ルーク

「わ!?」


ディン

「ルーくんは見なくていい」

 


ディンがルークの視界を手で遮った。

 


ルシファー・ロア

「っ…!」


ソフィア

「これは…」


 

ロアとルシファーはすぐに顔を逸らした。

少し空洞になっていた場所に転がっていたのは人骨や死体だ。それもかなりの数だった。おそらく、赤子の死体もあった。



ロア

「あ…あっちに行ってよ!ルシファーちゃん」


ディン

「ロア。ルーくんも連れてって」


ロア

「う…うん…」


ルーク

「……ディン…」


 

見なくてもみんなの反応から察しはつくし、何より死体の独特な匂いがした。



ヘスティア

「ここだけ異常に植物が育っているのはこれが理由ですか」


ソフィア

「(死体…新しいものがある…ってことは…)」


ディン

「はぁ……嫌な感じだなぁ…」



ディンは、ふっと視線を上に向けた。

木漏れ日が差し込み、風に揺れる葉は美しい――はずだった。


そのとき、森が、ひとつ息をついた。


……そんな錯覚があった。


木々も、水も、土も、さっきまでと何ひとつ変わらない。


それなのに。


もう、同じ場所には思えなかった。



✴︎✴︎✴︎


【小話】


「魔法で出した水は飲めない」

と、ヘスティアが言っていましたね。


水魔法は、無から水を生み出すものではありません。

大気中や、その場に存在する水分を集め、魔力で指示を出して動かしているだけのものです。


そのため、水は濾過されておらず、目に見えない不純物やウイルスを多く含んでいます。

普通の人が飲めば、お腹を壊したり、最悪の場合は病気になることもあります。


では、煮沸すれば安全になるのかというと…それもできません。

魔力がかかった水は、反属性である火(熱)に強く反応し、相殺反応を起こします。

結果として、水は一気に気化してしまい、飲み水として残らないのです。


そのため、水魔法で作られた水は、浴びることはできても、飲むことはできない。

そういう性質になっています。

『アルスダリアの祈り』第24話を最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。


あらあら…なんだか見てはいけなかったものを見てしまったかもですね…どうなることやら…。

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