第1話 金と緑
世界は、"創造"と"破壊"が交差している。
創造による"祝福"と破壊による"喪失"。
色を失い、やがて輪郭を残すことなく消えていく喪失。
これは消えゆく世界に色を取り戻す物語。
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あたりを見回すと所々、大地から色が欠損し、喪失を引き起こしている。
押し寄せる屍の群れ。首が変な方向を向いていたり、骨が変な方に折れていたりと身体の構造なんて関係ない。まるで操り人形のようなものが押し寄せてくる。
呻き声すら無視して、ディンは一歩、踏み込む。
細剣が美しい軌跡を描く。
頭蓋が割れ、胸が貫かれ、胴が裂かれる。
倒れた肉片は、砂のように崩れて形を失っていく。
表情は変わらない。
躊躇もない。
斬撃のたびに、群れが削られていく。
ただ冷たく、正確に。
迷いも、ためらいも、一切ない。
数十、数百。
やがて敵の波そのものが怯む。
それでもディンは動きを止めない。
崩壊の音が大地に響き続けた。
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コツコツ…ゆっくりと地面を蹴る踵の音。
剣先についた血を払うように空を切った。
ぼろぼろと崩壊していく死体を流し目に、気にも留めず踏み越え、その先の人物へ向かう。
腰に細剣を納めて話しかける。
ディン
「ルーくん大丈夫?」
ルーク
「……うん」
ぽた…ぽた…と返り血が滴っている。
ディンはルークの顔や髪についた返り血を自分の服でそれで拭ってやる。綺麗にはならないけど、少しでもマシになるように。少しだけ震えている手。ルークはそれを絶望した目で見つめている。
ディン
「毎回落ち込んじゃうんだから無理して戦わなくていいのに」
ルーク
「そういうわけにもいかないよ。君が頑張り過ぎちゃうから」
ディンは倒れた死体には目もくれないのに、血に濡れたルークの頬は優しく迷わず拭ってやる。
ルークは表情をこばわらせて、必死に呼吸をして自分を落ち着かせようとしている。
ディン
「……死体相手に情を持っても仕方ないでしょ」
ルーク
「うん…わかってるよ」
ディン
「ルーくんは優しすぎるんだよ」
骨の砕ける音、肉が破ける音、血の匂い。全身に残る鈍い感触。胃がひっくり返ってしまいそうなほど苦手なのに、戦うことから逃げない。
ルーク
「ディンだって優しいよ」
ディン
「そういうとこ。君の思いやりがあって、優しいところは大好きだけど、傷つきやすいところは直してほしいと思ってるんだよねぇ」
ルーク
「……ぼくに優しいみたいに、他の人にもそうしてあげたらいいのに」
ディン
「ボクはルーくんだから優しいの。わかってないなぁ君は」
ディンはやれやれとため息をついて呆れ気味に言った。
ルークが苦手な戦闘を続け、逃げない理由がディンにある以上、強くは言えないだろう。だから互いが互いをわかっている上での、皮肉を言い合う。
ディン
「さ、帰ろ。ルーくん」
ルーク
「……っ!」
ディンが手を取ろうとするとルークは手を引っ込めた。これもいつものことでルークの癖だ。
ディン
「ほら。行くよ」
ルーク
「……うん」
今度は強く掴んだ。ルークの手には鋭い爪があるから、ディンを傷つけないようにと引っ込める。すごく優しい手をしているのに、鋭いのだ。
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静かな森の中をゆっくり並んで歩いた。
風に揺れる木々の葉の音に自分たちの足音が混ざる。
ディン
「にしてもまぁ、どこ行ってもヴァイスと遭遇するね。せっかく楽しい買い物してたのにさぁ」
ルーク
「そうだね」
ディン
「ほらほらルーくん、元気出してよぉ」
ルーク
「うん…」
戦闘後のルークはクリーチャーだ。
しばらくは暗い顔をしてネガティブになる。
ディン
「ん〜。あ、ルーくんの好きなフルーツキャンディあるよ。葡萄のがいい?」
ルーク
「いや…今はちょっと…大丈夫。ありがと」
そうディンたちは今、返り血で汚れているのだ。
空気を吸い込めば、腐った血の匂いが肺を埋める。
ディン
「さすがに血生臭いのにあれか。気持ち悪いか」
失敬失敬。とディンはヘラヘラと笑った。
ディン
「じゃあ、お喋りがいいね。さっきのキャンディね、君が好きだから持ち歩いてるんだけど、意外と美味しくてボクも最近よく食べてるの。ラズベリーのが好きだなぁ。君はやっぱり葡萄と林檎のが好き?」
ルーク
「うん。いつもハーブのやつ食べてくれてありがと」
ディン
「あ〜ハッカね?結構好きだからいいの。ルーくん、あれ匂いが苦手なの?味?」
ルーク
「匂いかな。鼻にツンとくる感じ」
ディン
「鼻が良すぎるのも大変だねぇ」
少しずつ、少しずつ、ルークが戻っていく。
暗い顔よりふわっと笑った顔の方がよく似合うのだ。
ディンはルークが暗い顔をすることに憤りを感じている。だが決してルークに怒っているわけではない。
ディン
「(ヴァイスなんていなきゃいいのに)」
ヴァイス。先ほどディンとルークが戦闘していた相手の総称。死体を何かが傀儡のように操っているように見える。その死体の意思もディンたちの意識も関係なく、"強制的"に戦わされるのだ。中には生きていて自分で動いてくるヴァイスもいるけれど。
ディン
「(馬鹿馬鹿しくなるよねぇ…こんなの)」
身を守らなければいけないから、必要であれば戦う。
今回は周りに人がいたから巻き込まないように、出来るだけ死なせないように戦った。
自分たちだけなら戦わずに逃げ切ることだってできる。
でも、ルークには見捨てられるほどの度胸がない。
ルーク
「ごめんねディン。ぼく、いつもこんなになっちゃうけど大丈夫だよって言ってくれてありがと…」
ディン
「はは!なにそれ。君は謝らなくていいんだよ」
不機嫌なのが少し顔に出てしまっていたみたいで、ルークに気を遣われてしまった。ディンは別に他人なんてどうでもいいから、剣を向けることは苦じゃない。今回だって近くにいた人は何人か死んだだろうけど、気にしていない。
ルークのほうがずっと、他人の死を悲しんで傷ついている。なぜルークが謝る必要があるというのか。
ディン
「帰ったらすぐに洗おうね」
ルーク
「ディンって小さい時から潔癖だよね」
ディン
「嫌なものは嫌なの。それに言っとくけど君のほうが返り血すごいんだから先に洗いなよ」
ルーク
「そうする」
ディン
「ていうか、返り血とか潔癖関係なく嫌でしょ」
話をしながら歩いてしばらくすると見慣れた風景になってくる。少し人里離れた丘の上。大きな木の家がひとつ。
そこにはディンとルークを合わせて十人で住んでいる。大事な帰る場所。家が見えてくると自然と足早になる。
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ドクン
ルーク
「?」
ディン
「?どうしたの?ルーくん。またあの音?」
ルーク
「うん…また…」
目線の遠くに見える不思議な建造物。虹の塔。
見る場所によって色が変わって見えることからそう呼ばれている。
侵入を許さず、何のための塔なのか誰も知らない。
そこにあるのに誰も近づけない謎の建造物。
古の時代より…それよりも前から存在しているなど噂されている。
ルークにだけ聞こえるらしい、まるで"心臓の鼓動"のような音。
ルーク
「変な感じ…」
不気味で、でも少し神秘的なその音に警戒する。
ディン
「ルーくん、早くお家に入ろう」
ディンがおいでよと手招きした。
ルーク
「うん」
ディンがゆっくりとドアを捻った。
ルークとディン
「「ただいま」」
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【キャラクター紹介】
ディン
162cm/55kg/18歳
一人称はボク。「だよねぇ」と伸ばした話し方をする。
金髪に紫髪のメッシュの直毛ショートヘア。
金色と紫色のオッドアイ。
女顔で童顔。身長はヒールで5cm盛っている。
右手を腰に当てて立つ癖がある。少し潔癖らしく、常に黒手袋をつけている。
ルーク
166cm/52kg/16歳くらい
一人称はぼく。
緑髪の癖毛で長めの前髪に、首が隠れるくらいまでの長さがある。ふわふわ。
赤眼。優しいハスキーボイスが特徴。
手には鋭い爪がある。嗅覚も良い。
手を後ろに組む癖がある。
第1話を読んでいただきありがとうございます。
第0話〜第7話まで一気に公開しております。
7話以降は定期的に更新していきます。
よろしくお願いします。




