第13話 なんでもない日
暴走列車事件から数週間経った頃。
ここ数日天気が良かったが、今日は少し曇り空。
空気が少しどんよりしている。
ディン
「はぁぁあ…」
アスベル
「………。(クソデカためいき…)」
ロア
「うるさ」
トントントン…貧乏ゆすりをしたり、指先で机を叩いたり、机に頭を突っ伏したりとディンは随分と忙しいようだ。
ディン
「………やっぱり行って来る…」
アスベル
「いってら」
その場にいたゼナ、アスベルは慣れているようで何事もないように返事をして過ごしている。
ロアとヘスティアは弟の奇行に心配が募る。
ロア
「……大丈夫なのあれ」
アスベル
「大丈夫大丈夫。ルークとデュオンのストーカーしに行っただけだから」
ヘスティア
「ストーカー…」
ゼナ
「割とよくある」
ロア
「あるのかよ」
ルークとデュオンは二人で買い物に行ったようで、心配性のディンが耐えられずにストーカー…見守りに行ったというわけだ。
ゼナ
「一緒に行きたいって言えばいいのに我慢してああなる」
ロア
「心配性の度が過ぎるとああなっちゃうんだ…」
ヘスティア
「わからなくはないですけど…」
アスベル
「まじで面白すぎ」
ゼナ
「最近調子良かったのに…大丈夫かな」
いつまでも子供じゃないし、ずっと自分がつきっきりというのも二人にとって良くないんじゃないかとかはきちんと考えているらしく、送り出したは良いものの心配性が限界突破してしまうそうだ。
アスベル
「暇だからディンストーカーしようぜ。ゼナおんぶ」
ゼナ
「え?うん」
ロア
「待ってアスベルくん。僕も行くよ」
アスベル
「?」
ロア
「僕、ディンのこと追跡できるよ。魔力探知してあげる!ね?ね?僕もいたほうがいいでしょ?」
ヘスティア
「待ってくださいロア、わたくしも行きます。弟の頭のおかしい行動は姉として見ておかなければ…」
ゼナ
「そんな包み隠さずに…。二人とも気になるんだ」
ロアとヘスティアの二人は弟の奇行が気になって仕方がない様子だ。
アスベル
「めっちゃノリノリじゃん。行きたいなら行きたいって言いな」
そうと決まれば!とみんなで家を空っぽにした。
ちなみにソフィアとラウルとルシファーは朝からお出かけ中です。
✳︎
デュオン
「陽が出てきたね。曇ってたのに」
ルーク
「ね!お散歩日和になった。風がいい感じ」
先ほどまで陽が隠れており、薄暗いくらいだったのだが、晴れてきた。歩いているとぽかぽかしてくるほど。
ルーク
「だいこん、にんじん、じゃがいも、かぼちゃ、とまと、きのこ、りんご…」
デュオン
「あと、豆」
ルーク
「それだ」
るんるんと軽い足取りで道を歩いた。
下町まで後もう少しだ。
✳︎
ルーク
「?なんだか賑わってるね」
デュオン
「何かあるのかな?」
下町に着くといつもより人が多く、賑わっていた。
周りを見てみると見慣れない張り紙がしてあった。
ルーク
「?なんだろう。あーこれ見たことある。なんだっけ名前」
デュオン
「王都とかで見たことあったよね…えっと…」
見たことあるけど名前が出てこない現象に頭を悩ませるルークとデュオン。うーん…と頭を傾けてしまう。
ルーク
「なんて書いてあるんだろ…すごくモヤモヤする…ここまで出てきてるのに」
デュオン
「ディン近くにいないかな…?すごく読んでほしい…。……サーカス…?ルーク!サーカス!」
ルーク
「!それだ!サーカスだ!よくわかったね」
デュオン
「あっちで話してる人がいて、サーカスって言ってた」
すっきりした〜と二人で満足。今夜はサーカス団が来るらしい。それで賑わっているようだ。こんな田舎町にも来るんだなと町の人たちも喜んでいるようだった。
✳︎
ディン
「!いた!良かった無事だぁ…」
ロア
「…本当にストーカーしてるじゃん」
ディン
「!わ!?びっくりした…ロア…?なんでいんの」
ロア
「僕だけじゃないよ〜」
後ろ見て。とジェスチャーしてくるロア。
ディン
「……みんなで来たんかい」
ヘスティア
「心配なのは分かりますよディン」
ルークとデュオンをストーカー…追跡に来たディンを追跡しに来た四人も合流したようだ。
ロア
「そんなに心配?もう大人じゃんあの2人」
ディン
「大人なのはわかってるよボクだってさぁ…でも見てよ。あんなに可愛いんだよ?誘拐されるかもしれない」
ロア
「確かに可愛いけど」
ゼナ
「小さい頃に経験があるとね…」
ロアに意味わからないと言われるディンをそっとフォローするゼナ。小さい頃から面倒を見て来た二人に対して過保護になるのも分からなくはない。それを間近で見ているから余計に。
ディン
「ハッ!?こんなことしてる場合じゃない。ルーくんたちは…。あ、いた!何買ってるんだろ…。かぼちゃのアイスクリーム…?ルーくん今のブームかぼちゃなのか…これは大収穫だ…!」
ロア
「キツイってまじで」
ロアが笑いながらツッコミを入れるが、ディンは大真面目にルークの好きなものをサーチしているようだ。
ロア
「てか、よくここから何頼んだか見えるね」
ディン
「ボク目めっちゃ良いんだよね」
ヘスティア
「これが毎回ですか?」
ゼナ
「毎回っていうか、心配症が発動する時はこうなる」
アスベル
「絶対二人にバレてるのが余計におもろい」
通りすがる人たちにヒソヒソされながら末っ子二人を追跡する五人。周りから見るとすごく怪しい集団です。…うん、かなり怪しい。
✳︎
ルーク
「ブルーベリーも買っちゃった…怒られるかな」
デュオン
「絶対怒られないと思う」
ルーク
「なかなか置いてないからつい…」
デュオン
「今日は町に人は集まるから置いてたのかもね」
紙袋の中にはたくさんの野菜と果物が詰まっている。
求めていたものが無事に買えたようだ。
ルーク
「デュオン早く帰ろ!ディンが爆発しちゃうかも」
デュオン
「ついて来てると思うんだけど」
ルーク
「今日はもしかしたらお留守番してるかもしれないでしょ?もしかしたら」
高確率で着いて来てると思うけど…と。
ついてくるなら一緒にくれば良いのにねと2人で笑った。
✳︎
家までの帰り道。人気がなくなったころ、前から二人の人が歩いて来た。
ルーク
「………人…?こっちから…?」
デュオン
「珍しいね」
ルークたちが住んでいる場所はロスト地方。ロスト地方は治安も悪く無法地帯なため、基本的に人が住まない場所だ。なので、そちらの方向から歩いて来る人はそうそういないはず。頭から布を被っていて、明らかに怪しい。
ルーク
「デュオン、少し下がって歩いてね」
デュオン
「わかった」
ルークはデュオンを自分の後ろに少し下がらせながら歩いた。不自然に思われないように少しずつ。
すれ違いそうになった瞬間、その一人に声をかけられた。
???
「あの…もし…」
ルーク
「………。」
デュオン
「………。」
優しい声だった。
敵意はなく、ただ何かを確かめるような声色。
ルーク
「なにか用?」
???
「あの…そちらの…」
ルークが返事を返すと、デュオンの方へ視線が移った。
デュオン
「………?」
しばらくデュオンの方を見て黙り込んでしまった。
後ろにいるもう一人もデュオンのほうを見つめている。
ルーク
「………!(あれ…この臭い…)」
ルークはあれ…?とその人たちの臭いを意識して嗅いだ。
ルーク
「(……似てる…気がする…)」
???
「不躾に見てしまって申し訳ありません。随分と…綺麗な青い髪だったもので…」
デュオン
「いえ…」
その人は少しだけ泣きそうな声で話す。まだ続けて何かを話そうとしているが、声が出てこないようだった。
そしてようやく必死に声を出しかけたその瞬間、風が強く吹いた。
ルーク
「………!え…」
風で覆い(おおい)がめくれて二人の顔が顕になった。話しかけてきたその人は、綺麗な薄紫色の髪。後ろにいるもうひとりは灰色の髪だった。
薄紫色の髪をしたその人が、デュオンと雰囲気が似ており、ルークは思わず声が出てしまった。
???
「覆いが…急に風が吹いてくるなんて…」
???
「大丈夫か?」
二人は風に動揺したようだ。ずっと黙っていた灰色のほうが薄紫色のほうを支えている。
デュオン
「大丈夫?」
???
「!は…はい…!大丈夫です…ありがとう」
デュオンもそっと声をかけた。それにも驚いたようで、おどおどしている。
そんな隣でルークが、別の動揺を始めた。
ルーク
「(この人たち…もしかして…)」
✳︎
ロア
「あれってたぶんさ…」
ヘスティア
「………家族?…っぽいですよね」
アスベル
「雰囲気がめっちゃ似てる」
後ろから着いてきていた五人。
遠目で見ていてもわかるほどのことだった。
アスベルとヘスティアとロアが少し楽しそうに話している横で、ディンが絶望したような顔で黙り込んでいる。
ゼナ
「……ディン大丈夫…?」
ディン
「……うん…」
ゼナがディンに寄り添い、落ち着かせる。
ディン
「……最低だよねボク…」
ゼナ
「そんなことないよ」
ディン
「……一番最初に連れて行かれたらどうしようって思っちゃった。素直に良かったねって言ってあげられる自信ないなぁ…」
ゼナ
「うん…オレもだから大丈夫だよディン」
頭の片隅ではいつの日か、こういう日が来るかもしれないとは思っていたけれど。まさかこんな、なんでもないいつもの日に急に現れるだなんて誰が予想出来ただろう。
心の準備も何もできていない。
✳︎
ルークは少しずつ、デュオンの後ろに控えて見守ることにした。二人が、出来るだけ近くになるように。
???
「……初対面でこんなこと聞いて申し訳ありません…。その…今、貴方は幸せですか…?」
祈るような声だった。
胸の前で手を握って、デュオンの言葉を待っている。
デュオン
「うん。とても」
デュオンはまっすぐ目を見て、はっきりと返した。
???
「そう…ですか…。それは良かったです」
愛おしそうに微笑んで返した。
まるで昔に会ったことあるような目でデュオンを見ている。
???
「……………。」
???
「大丈夫か?」
灰色のもうひとりが、寄り添い、声をかけた。
薄紫色のほうが今にも泣いてしまいそうだ。
???
「大丈夫。……奇妙な事を聞いて申し訳ありません」
デュオン
「ううん」
???
「…それでは…失礼いたします…」
そういうと、二人はお辞儀をして歩き出した。
デュオンとルークは静かに見送ったが、また振り返ってきて戻ってきた。
ルーク
「あれ?戻ってきた」
デュオン
「うん」
???
「あの…その…。一瞬で良いので…抱きしめても…良いでしょうか…?こんな…初対面の相手に嫌でしょうが…」
きっとダメ元で聞いてきたのだろう。それでも真剣な顔で願うように言ってきた。
デュオン
「いいよ」
???
「え…!?良いの…ですか?ありがとう…ございます…!」
割れ物を扱うように、恐る恐るその人はデュオンを抱きしめた。デュオンも静かに腕を回した。
何かに耐えるように震える全身で、最後には心臓の鼓動が伝わるくらい強く抱きしめてきた。
???
「……ありがとう…ございました。もう大丈夫です」
デュオン
「うん」
???
「……どうか、元気でお過ごしください」
デュオン
「ありがとう」
???
「…はい…」
デュオン
「………。またね」
???
「!……っ……はい…!」
名残惜しそうにデュオンから離れて歩き出した。
デュオンには、その人の嗚咽が聞こえた。
少しずつ遠くなり、姿が小さくなるまで見送っていた。
ルーク
「……デュオン、あのさ…あの人…」
デュオン
「ルーク。大丈夫。わかってる」
ルーク
「……そっか。会えてよかったね」
デュオン
「うん」
随分と急だったね、とルークとデュオンは顔を合わせてから静かに歩いて家に着いた。
ルーク
「鍵空いてない…。多分今のどこかで見てたな」
デュオン
「そうだね」
ルーク
「帰ってきたら大変だ」
鍵ないと入れないね、とディンたちが戻って来るのを待った。少ししてから二人を見守っていた五人が戻ってきた。
✳︎
ロア
「えぇ?じゃあ分かってたの?」
デュオン
「うん」
ディン
「本当に!?」
デュオン
「うん…」
帰宅早々、ディンがデュオンに引っ付いて離れなかった。絶対離さないからな!と言わんばかりに。
ヘスティア
「親って分かってたならもう少し話したら良かったのに」
デュオン
「あっちも何も言わなかったから、何か理由があるのかもって思って」
アスベル
「子が親に気遣わんでいい」
アスベルがデュオンの偉いねと頭を撫でた。
ヘスティア
「一緒に行こうと思わなかったのですか?」
デュオン
「うん。もし何か言われても断る気だったし」
ヘスティアが鋭い質問を投げかけたが、デュオンはサラッと答えた。
ディン
「本当ぉ…?本当ぉに…??嘘じゃない…?」
デュオン
「本当だよディン」
ディンがうりゅりゅ…デュオンに抱きついた。
デュオンがディンをよしよしと落ち着かせる。
どっちが年上なんだか。
ディン
「ボクさぁ…最低なの分かってるんだけどデュオンが一緒に行っちゃうかもって思っちゃってさぁ…喜んであげないといけなかったのに…ごめんねぇ…」
ロア
「泣き顔ブサイクすぎ。落ち着きなよ」
ロアが笑いながらディンをデュオンから引き剥がそうとする。
ディン
「行かせないことないけど、百年くらいは引きずっちゃうところだったよぉ…」
ロア
「重すぎる…」
偉く冷静なデュオンと、泣き喚くディンの温度差がすごくて風邪を引きそうになる。
ルーク
「でも、よかったねディン」
ゼナ
「そうだね」
ルーク
「きっとぼくも素直に喜んであげられないと思うし。ディンの気持ちもわかるよ」
ゼナ
「ね。それにディン、よく我慢してたよ。真っ先に飛び出して行きたかっただろうに、その場から動かなかったんだから。いつもだったら飛び出していくのに」
ルークとゼナはディンとデュオンを見てそう呟いた。
小さい頃から今までずっと面倒を見て、守り続けたディンの気持ちもとても良くわかるから。
デュオン
「何があっても離れたりしないよディン」
ディン
「…ボクの可愛い弟がこんなにもかっこいい…」
ディンが好きになっちゃうとかなんとか言っていたそんな時。
ガチャリ。
アスベル
「あ、おかえ…り…??何どしたんラウル」
ヘスティア
「顔色悪」
ルシファー
「ただいま!なんか…知り合い…?を見かけたとかで急にこんなになっちゃった」
朝から出かけていた三人も帰ってきたのだが、明らかにラウルの様子がおかしい。ソフィアとルシファーもお手上げなようでどうしよう…と困ってしまっている。
ソフィア
「ラウルにそんな見ただけで具合悪くなる知り合いがいたの?…ねぇ本当に大丈夫??」
ラウル
「まさか…見間違い…?いやでも見間違えるわけ…」
ずっと独り言をぶつぶつ言いながら様子のおかしい状態が続いている。ソフィアはとりあえず背中をさすってやっているが、状態が良くならない。
ソフィア
「ところで、みんなはどうしたの?特にディンが様子おかしいけど…。ルークかデュオン絡み?」
ゼナ
「デュオンのおかあさん?っぽい人たちが来てそれで…」
ソフィア
「おかあさん?あらぁ親御さんに会えたんだ!お話できた?」
ロア
「姉さん状況飲み込むの早」
ラウル
「!お…おやごさん…???」
ルシファーとソフィアの会話から、聞いてはいけないような言葉を聞いてしまった気がするラウル。
ラウル
「シ…シオン様とグレイス様は…デュオンの…親…」
ディン
「シオン…?え?誰?」
ラウル
「お…お…俺は…なんて大それたことを…???」
ソフィア
「ねぇ本当に大丈夫??気は確か?」
ラウル
「だ…大丈夫じゃない…」
シオン、グレイス。聞き慣れない名前に全員がハテナを思い浮かべた。こんなにも動揺しているラウルも初めてで、みんな心配する。
ラウル
「ま…まずはそうだな…腹を切るか…?いや首か…首の方がいいか…?」
ソフィア
「…………。ふふ…」
ロア
「ちょっちょ!何してんの!?今日以上におバカなラウルくん見た事ない!あぁどうしよう力強い…。ソフィア姉さん笑ってないで止めてよ!なんで笑ってんの!」
ソフィア
「ごめんごめん」
さっきまで大変だったディンが可愛く見えて来るほどに、変な気を起こしているラウルをみんなで落ち着かせる。
ロアの代わりにアスベルがラウルの腕を掴み、首から刃を遠ざける。果たしてラウルは大丈夫なのか。
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【小話】
ルークとデュオンは文字が読めないので、町に飾ってあったサーカスの張り紙を読めませんでした。
張り紙には大きく"きらきらアルティメットハイパーサーカス"と頭の悪そうなネーミングのサーカス団が来るよと書いてありました。
いつもは誰かしらが読んであげたり書いてあげたりしているので、こういう時以外は特に困っていません。
だいたいディンが真っ先に対応してどうにかしてくれるため、文字が読めないことに特に劣等感なく生きています。
また、ディンは心配症が災いし、ルークとデュオンにストーカーする癖があります。精神的に調子が良い時はストーカーしませんが、良くない時はストーカー行為に走ります。ルークとデュオンは知っています。
✳︎
【ワード集】
ロスト地方。どこの国にも属していない地方です。
無法地帯で治安が悪く、土地も痩せているため人が住むには向いていない場所の名前です。
ですが勝手に家を建てようが、何しようがお咎めなしです。
アルスダリアの祈り 第13話
最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
一体誰なんだ。グレイスとシオンって…
どうしてラウルさんは知っていたんだ…




