第11話 お祭り
陽が落ちはじめ、灯りが柔らかく町を染めていく。
屋台の提灯が一つ、また一つと灯り、人々の笑い声が風に混ざる。
いよいよお祭り本番。
その独特の熱と光が、城下町全体を包み込み始めていた。
アスベル
「ルシファーなんか食べたいのない?」
ルシファー
「うーん…」
アスベルとルシファーが手を繋いで歩きながら屋台を眺めている。
ルシファー
「削り氷!」
アスベル
「いいね」
ルシファー
「え?見てアスくん!こんなにいろんな色の味があるよ!前は三種類くらいだったのに!」
アスベル
「何色のがいいの?」
ルシファー
「うーん…この紫色の!葡萄味かな?」
アスベルが店主にお金を渡すと、店主は慣れた手つきで氷を削りはじめた。
ふわふわの氷が盛られたカップをアスベルが受け取る。
アスベル
「はいどうぞルシファー」
ルシファーが紫色のシロップを慎重にかけていく。
かけすぎず、でも味が薄いのは嫌だから程よく。
ルシファー
「はいアスくん」
アスベル
「んー葡萄味ですね。美味しい」
ルシファーがアスベルに匙ですくった氷を食べさせる。
ヘスティア
「ちょ、ロア!ちょっと、見ました?今の」
ヘスティアがロアをブンブン揺らした。
ロア
「痛い痛い……見てたよヘスティア姉さん」
ヘスティア
「お幸せに…」
ヘスティアは胸元で合掌し、感謝するように拝んでいた。
アスベルとルシファーのイチャつきは、彼女にとって最高の栄養源らしい。
ロア
「しっかりしてヘスティア姉さん」
ヘスティア
「なんであれで付き合ってないんですか?」
ゼナ
「え!?オレに聞かれても…」
ロア
「急にキレるじゃん…情緒どうしちゃったの」
ヘスティアの情緒の起伏にロアとゼナが振り回されている。こちらの三人は綿飴をシェアしながらヘスティアの追っかけに付き合っているようだ。
ルーク
「ディン!ディン見て!りんご飴だよ!あ、いちごもある…!どうしよう」
ディン
「どっちも買ったげるよ。デュオンは何が良いの?」
デュオン
「あのお芋揚げたやつ」
ディン
「美味しそうだね。ボクは串焼きにしよっかなぁ」
ルークは普段あまり食べられない甘味にテンションが上がる。屋台をあっちこっちと忙しいようだ。
ソフィア
「ラウル、風船釣りしようよ」
ラウル
「?おぉ綺麗だな。あれを引っ掛けるのか」
小さい子がやってるのを見て、なるほど…とやり方を覚えているようだ。
ラウル
「ん…結構…難しいな…」
ソフィア
「んふふ…ラウル…手震えすぎじゃない?」
ソフィアは希望の色と模様の風船がもう取れたようでラウルを高みの見物。慎重になりすぎて手元が震えているようだ。
ラウル
「そんなに簡単に出来るものなのか…?あ、お…?紐が切れたが」
風船の中に水が入っているのか…と不思議に見つめている。
店主
「あんちゃん、不器用だなぁ…ほらもう一本やるよ」
店員のおじさんが笑いながら"頑張れよ"と、こよりをもう一つ渡してくれた。
ラウル
「申し訳ない」
ソフィア
「ラウル見て。あの小さい子二つ取ってるよ」
ラウル
「すごいな」
ラウルは一つ掬い上げることができるのか。まだまだ時間がかかりそう。
✳︎
空が真っ暗になり、周りの人が空を見上げ始めた。
そろそろ花火が打ち上がるようだ。
ルークたちは十人でまとまって腰をかける。
ロア
「デュオンちゃんとラウルくんどう?音」
デュオン
「まだ結構聞こえる」
ラウル
「俺はだいぶ聞こえにくい」
ロア
「おっけい。デュオンちゃんだけもう少し強めようか」
デュオンとラウルは耳が良いので、花火の爆発音がものすごい爆音になるのでロアが付加魔術をかけて上手く調節しているようだ。
ヘスティア
「ラウルは一つしか取れなかったんです?」
ソフィア
「いや一つも取れなくて、お店のおじ様が情けで一つくれたの」
ゼナ
「……ソフィアはそんなに取れたのに?」
あの後、結局ラウルは一つも取れなかったらしく、お情けでくれた風船を大事に両手で持っている。ソフィアは自分の手に二つ。ヘスティアとゼナに一つずつお裾分け出来るほど掬い上げた。
ヘスティア
「不器用ですね」
ソフィア
「ほんとね」
ソフィアは手元にある風船をヨーヨーのようにクルクル回してみせた。
ゼナはそれをすごい…!と釘付けになる。
しばらくするとヘスティアがソフィアにお酒の入ったカップを渡した。
ソフィア
「ありがと。……良い香り。ワイン?」
ヘスティア
「オルメリーという地酒だそうで」
ゼナ
「…なんか入れ物大きくない?」
ヘスティア
「一番大きいサイズです。度数が高いらしいので店主の方もびっくりしていました」
少し引き気味のゼナを横目に二人は乾杯とカップを鳴らした。その音にロアが反応する。
ロア
「いいな〜!僕にもちょうだい」
ロアがヘスティアのカップを取ってグイッと勢いよく飲んだ。
ロア
「ん〜。なんかいろんな味がして美味しい。花蜜が入ってるのかな?後味好きかも」
ソフィア
「ディンは?飲まない?」
ディン
「ボクは大丈夫!ありがと」
ヘスティアはロアにあげること自体は良いんだけど、減ってしまいました…と複雑な顔をしているのでソフィアがカップを取り替えてあげていた。
✳︎
ドーン!ドドーン!!
花火が打ち上がると同時に歓声が上がった。
一つ、また一つと夜空に花が咲く。
大輪が光を撒き散らし、続いて小ぶりな火花が連写のように弾けた。
ルシファー
「わぁ…!綺麗!」
アスベル
「(花火うるせぇ……)」
ルシファーは打ち上がる花火に夢中のようだが、隣に座っているアスベルはルシファーに釘付け。
ロア
「(アスベルくん花火見ろよ…)」
花火に魅入って静かに見ている人もいれば、気に入った花火にすごいと歓声を上げる人もいる。
最後の大輪が咲き、夜空に青白い光が広がった。
空気に熱が残るなか、誰もがしばし言葉を失う。
三十分ほど上がり続けたようだが、体感では短く感じた。
ルーク
「すごかった!」
デュオン
「綺麗だったね!」
ルークとデュオンが並んで見上げたまま、きらきらした瞳で顔を見合わせる。ディンが幸せを噛み締めるような顔でそれを堪能しているようだ。
きゃっきゃっと楽しそうにはしゃぐ姿が大変微笑ましい。
その近くでゼナは静かに息をつきながら、ぽそりと。
ゼナ
「なんか…すごくよかったな…」
隣のラウルが"わかる"と首を縦に振った。
二人はしばらく、言葉もなく夜空を見上げていた。
ソフィア
「美味しかったし一本買っていく?」
ヘスティア
「良いですね」
地酒が気に入った姉妹は、買って帰りましょうと目線を合わせた。花より団子だったようだ。
空になったカップからお酒の残り香がする。
ロア
「アスベルくん花火見てよ!ルシファーちゃんのことガン見してるの気になっちゃって全然集中できなかったんだけど!」
アスベル
「ちょ、声でかいってロア。さすがに本人にガン見してたのバレるのは恥ずい」
ロア
「何を今更」
ルシファーに聞こえるだろとロアをススス…とルシファーから離れるように誘導した。
各々が余韻に浸っているところでディンが現実に引き戻した。
ディン
「はぁい撤収撤収!!帰るよ!」
視線がディンに集まった。
ディン
「これからボクたちは家に帰らないといけません!歩いて一時間!」
アスベル
「しんどい現実突きつけないでもらって」
ディン
「早いうちに現実に引き戻さないと帰るの嫌になっちゃうでしょうが」
ディンとアスベルがやいのやいの。
アスベル
「しゃーないな…帰るか」
ラウル
「おう…」
やれやれ…といった雰囲気でアスベルは当たり前のようにラウルの背中に引っ付いた。おぶわれるんかい。
ロア
「ラウルくんそっちの持つよ。アスベルくん背負って荷物持つの大変でしょ」
ラウル
「悪いな」
アスベル
「おれのために…かたじけない」
ロア
「構わんよ」
みんな花火の話や、気に入った屋台の話をしながら夜道を歩いた。王都から離れると灯りが減っていき、あたりが真っ暗になっていく。
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【キャラクター紹介】
ソフィア
ディンの実姉なので同じく種族は魔神族。
魔法以外はものすごく器用な人。
魔法以外は上手に出来るのに…と気にしているようだ。
ヘスティア
ディンの実姉なので同じく種族は魔神族。
アスベルとルシファーの恋をめちゃくちゃ応援している。二人の甘さは自分の持病によく効くらしい。
推し活で忙しい。早くくっついてほしいと思いながらも、もどかしい今を見ていたい気持ちと戦っているようだ。
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【小話】
アスベルとルシファーは幼馴染で幼少期から一緒にいるようです。手繋ぎは幼少期の延長線上で現在も続いており、意識せずに手を繋いで移動することが多いです。食べさせ合いっこも特に意識せずにやってます。
手繋ぎは平気なのに腕組みは意識してしまうそうです。
ロアくん19歳で飲酒していますが、お酒は20歳からです。魔神族はまぁ人間とは違うので…19歳で飲んでますね。ディンくんも18歳ですがお酒飲みます。
何度も申し上げますが、人間の皆さんはお酒は20歳から。
魔神族組はお酒好きです。嗜み程度に飲みます。




