第六十二話
「セレナードの行きつけの千明さんの勤め先のお店の場所を教えてくれませんか? スマホが電池切れなもので、アルバイト先の千明さんなら知っているでしょうし―――」
籬がそう質問すると千明が察したのか―――。
「あ、電池切れだったんですか? ついてないですね? じゃあ口頭で道を教えます」
「ありがとうございます。またお会いするかもしれませんね」
「あ、あはは~。当店をよろしくお願いします」
千明がスマホで一応自分のアルバイト先の店を検索する。
道案内アプリを起動して、口頭で駅に乗る電車の方面なども詳しく教えた。
「度々ありがとうございます。お代はいくらになるでしょうか?」
籬が財布を取り出そうとすると千明が手で制する。
「こんなことタダでも良いですよ。あっ、あの時の千円札返しますね」
千明が財布から千円札を取り出す。
「いいのでしょうか?」
「構いませんよ。常連客のセレナードさんに紙渡しただけだし、ただもうこういうことは本人に直接言ってくださいね」
千明がそう言って、籬に押し付けるように千円札を渡す。
「そうですか、わかりました。焼き鳥余ったのですが、食べますか? 未開封ですよ?」
籬がそう言って、パックに入った焼き鳥を千明に見せる。
「えっ? でもそちらが買った焼き鳥ですよね? 要りませんよ」
千明が遠慮がちに答える。
「いえいえ、そちらの焼鳥屋のお姉さんが多めに買ってくれたからっとオマケでくれたのですよ」
籬がニッコリとしながら右手で焼き鳥パックを千明に近づける。
透明の輪ゴムで止められた焼き鳥パックには様々な鶏肉が入っている。
ねぎま、砂ぎも、ハツやつくね―――そしてレバーの串に刺さった焼き鳥が二本ずつ入っている。
辛子味噌が焼き鳥達の端に多めに塗り付けられている。
塩味も焼き鳥に良い感じに盛り付けられており、温かさからくる匂いが千明の鼻に入る。
「籬さんが持って帰って食べれば良いんじゃないですか?」
「私はこれからセレナードのいるファミレスに向かって、電車に乗るので食べれないですよ。それに焼き鳥は温かいうちが美味しいではありませんか?」
「そりゃあそうですけど―――良いんですか? 貰いますよ?」
千明が観念したかのように問う。
「ええ、どうぞ。この世界で焼き鳥という食べ物の発明は偉大ですね。塩味と味噌が鶏肉とネギに合って素晴らしい味です」
籬がそう言って、立ち上がる。
「焼き鳥ありがとうございます。外国の人なんですか?」
千明が焼き鳥パックを持って、質問する。
「ええ、ここに来て二年ほどになりますかね」
「日本語上手いですね。籬っていうからアジアの方面の方ですか?」
「まぁ、そんなところです。では私は千明さんが教えてくれた場所に向かうためにまずは駅に向かうのでこれで失礼します」
「ああ、はい。私も急いでいるので―――」
二人は会話を終えて、別れる。
そのまま焼き鳥の前で別々の方向に歩いていく。
千明が焼き鳥のパックをカバンから出した透明のコンビニ用のビニール袋に入れる。
(なんとなく持ってたコンビニ袋がこんな時に役に立つとは―――いつもレジで有料のコンビニ袋代をケチってた習慣性が役に立ったわね)
千明がアパート近くまで歩いていく。
(それはそれとして、天文部の危険が伴う世界に片足突っ込んでんだから気を引き締めないとね)
千明の住んでいるアパートが見えてくる。
(まずは母さんに入部のことや記録を残すために電話しないとね)
そのまま千明が住んでいるアパートに着く。




