第六十一話
千明がバスから降りて、学生たちが駅に移動する時間。
千明が自分の住んでいるアパートに向かう。
人の少ない道に入り、左右に二階建ての民家が並ぶ中―――。
あんまり人のいない小さなコンビニで千明は見たことのある男を見る。
「あっ! あの時の!」
千明が思わず声を漏らす。
緑がかったグレー色のダブルの上着と黒色のズボンの大男。
前髪立ち上げたショーヘアーのその男はコンビニ横の焼鳥屋で椅子に座っていた。
「おや? いつかの駅で出会った方ではありませんか」
男が焼き鳥を食べるのを止めて、椅子から立ち上がる。
「ああ、どうも……ええっと、名前はなんでしたっけ?」
千明が小さな焼き鳥の前で大男に話す。
大男が微笑する。
「私の名前ですか? 籬と申します」
大男は自分の本名を言って、コンビニと焼鳥屋の間にある自販機から買ったジュースを飲む。
「マガキさんですね? ここで何をしているんですか?」
千明が大男にやや離れつつ話す。
「今夜は赤い雨が降りそうな天気なので―――食べ終えたら電車に乗って、ファミレスの彼女を待つことにしているんですよ」
籬はそう言って、焼き鳥を食べ終える。
「そ、そうなんですか。私のアルバイト先のファミレスにですか?」
「ええ、そうです。あの時は言伝を伝えてくれてありがとうございます。山本さん」
籬がそう言って、空になった半透明の焼き鳥の入っていたケースをゴミ箱に捨てる。
「―――なんで私の名前を知っているんですか?」
千明があの時の違和感を思い出し、尋ねる。
「セレナードが知っていたんですよ」
「セレナードさん?」
千明が疑問に疑問が降りかかったのか困り顔になる。
「言伝の相手だったファミレスの常連客の名前ですよ。金髪の内巻きのワンカールの髪の伊達眼鏡をかけた伏せ目の女性です」
籬が椅子から立ち上がり、返答する。
「ああ、あの謎の常連ですね。伝言の紙を私がアルバイト先で渡した」
「あの時はありがとうございました。感謝していますよ」
籬が軽く一礼する。
「ああ、いえ―――それは別に良いんですけど―――お二人とも私の名前までは知らないはずですよ?」
「ファミレスで言伝を頼んだ彼女があなたの名前をそう言っていたので―――」
「ああ、なるほど―――」
千明がウェイトレス服の胸の部分にネームプレートがあることを思い出す。
「ですが、本名は書いてませんよ? 名字だけしかネームプレートにはないんですけど、どこで知ったんですか?」
千明が次の疑問を籬に伝える。
「金辺さんというウェイトレス服の方があなたの下の名前を呼んでいた、とセレナードが以前私に話していました」
籬がそう答えて、席から離れる。
「あっ、そういうことか」
千明が納得する。
(金辺に後で怒りたいくらいね)
千明がふとそう言う気持ちがよぎり―――。
「今度からは伝言を頼まずにセレナードさんに直接話してくださいね。スマホでも良いですから―――」
そう籬に伝える。




