第六話
間を置いて、千明が口を開く。
「教授も学説が出来そうとか言って、講義の気分転換に話すわね。なんであたしらのいる大学の駅やその周辺の駅にも降るのかの謎もままよね」
千明の言葉に吉澤も少し酔いがさめたのか、話す。
「千明と同じで私も去年から埼玉に来たけど、二年くらい前から定期的に降るから―――私はもう慣れちゃったわよ」
「でも先輩。赤い雨の降る夜って、人が襲われて病院に入って無気力病と呼ばれる言語及び行動喪失の状態で入院してるっていうし―――私、怖いですよ」
吉澤が少し震えながら、言葉を話す。
彰美がハッと笑って、吉澤の方に手を回す。
「ひゃん!」
吉澤がビクッと驚く。
「吉澤、襲われてるって言っても襲われた後は病院からほとんど一カ月で退院して、元の生活に戻っているじゃない? 死んだわけじゃないわよ」
彰美がそう言って、吉澤に回した手を戻す。
「でも狙われるのは大学生と高校生ばかりって言うじゃないですか―――襲われて元の生活に戻った人もいつもの生活で襲われたことを覚えてないとか、絶対に怖いですよ」
吉澤がそう言って、酔いの覚めかかった彰美を見る。
千明が不安になる吉澤に心配を解くように話す。
「大丈夫よ。赤い雨の降る日には警察もパトロールが増えてるし―――襲うのは人ではなく獣って噂もあるけど、集団なら襲われる心配もないわよ」
「千明の言うとおりね。赤い雨の降る日や場所は解らないけど、こうして時間的にも安全な人の多いこっちの駅じゃまだ降りもしないんだから―――こうして新入生歓迎会も出来るのよ」
彰美がそう言って、吉澤が少し安心する。
彰美が千明にいつものトーンで話す。
どうやら酔いが完全に冷めた様子だ。
「千明。夕方とは言え―――あんたも気を付けんのよ」
「はいはい、それでも店のバイトはしないとあたしが経済的な意味で事件どころか世の中の経済に殺されるわよ」
千明が意地の悪そうな笑みを見せる。
「あんたもブラックジョークが雨の降らない今だと、楽しそうなことで―――」
彰美が笑うと千明がカバンから二枚の券を出す。
「ほれ、あたしの働いている飲食店のビールとサイドメニューの割引チケット。今度のサークル活動で幹事やるなら二次会で使えるからさ」
千明の言葉と割引券を彰美が貰う。
「サンキュウ、千明。私の憧れてる管弦楽団サークルの先輩と二次会でこっそり飲みに行くから助かるわ」
「毎度~。んじゃね」
「千明もサークル入ればいいのに―――」
彰美がそう言って、気だるそうな少し半眼のツリ目が常の千明に話題を変える。
「山本先輩。何かサークル以外で熱中出来る趣味とかあるんじゃないですか?」
吉澤が助け舟を出すように二人に話す。
「ネットで趣味の一つの囲碁を打ってるからサークル代わりになってるって、将棋のサークルは大学にあるけど柄じゃないのよね」
千明がそう返答する。
「囲碁も将棋も同じテーブルゲームでしょ? 私らの大学の将棋サークルって、ホームページでスキー合宿とかあるから、入ればいいのに……」
彰美が心配そうに千明を見て、そう告げる。
「あっ、私も将棋サークルか管弦楽団のサークルどっちにするかカタログで迷っちゃいましたね」
吉澤が楽しそうにそう言って、彰美にまた肩を回される。
「ひゃん!」
吉澤がビクッっとする
「吉澤~。ラクロス部は文科系サークルと掛け持ちできるほど甘くないわよ」
「す、すいません。山田先輩。ラクロス部一筋で頑張りますから―――」
二人のやり取りを見て、千明がスマホの時間を確認する。
(まだ時間余るわね。念のため早めに駅について、アルバイト先で同じ大学の友達と話そうかなって思ったけど―――)