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第五十八話

「サークルの部長とか会計や交渉に幹事とかの名前教えてくれますか?」


 千明がコーヒーカップを両手に添えて、北沢に話す。


「個人情報になるから教えられないわね。山本さんが天文部に入るわけ? まあ問題は今のところ起こしてないサークルだけどね」


 そう言い終えて、北沢がコーヒーを半分ほど飲む。


「私は入部テストに受かれるらしいです。けれど入るかどうか悩んでます」


 コーヒーを飲み終えた千明がそう答える。


「サークル自治委員会の私から言えることは飲みサーや駄弁りサークルでも溜まり場でもない問題のない予算の少ないサークルってことだけ」


「わかりました。お忙しいところありがとうございます」


 千明がそう言って、立ち上がる。


「コーヒーはそこに置いてていいから、私が紙コップ捨てて片付けるしね。明日の自由科目の論理学の講義の復習もしたいしね」


 北沢がそう言って、席から立ち上がる。


「論理学ですか? 私もその講義受けてますよ。八号棟の四階の大教室の自由科目ですよね?」


 千明が意外そうな表情で北沢に答える。


「ああ、あの講義は人数多いもんね。まあ、席が隣になったらよろしく」


 北沢がそう言って、千明の空になったコーヒーを左手で持つ。


「コーヒー美味しかったです。北沢さん」


「講義の時は北沢でいいよ。千明さんでいいかな? 天文部に入部するなら入部届ちゃんと書いてね。じゃあ、せいぜい頑張んな」


「あっ、はーい。お仕事中に失礼いたしました」


 二人の話が終わり、千明が部屋を出ていった。

 北沢がコーヒーを飲んで、書類を机に再び広げる。

 サークル自治委員会の仕事は千明が来る前の状態に戻っていた。



 四限の講義が始まっている時間―――。

 四限のない千明は図書館に戻って、パソコンで講義のレポートを書いていた。

 一階の多くのデスクトップパソコンの置かれているフロアでは半分ほどの席が大学生のタイピング音であふれかえる。


(結局、彰美やサークル自治委員会の北沢さんから天文部に関しての有益な情報も出なかったわね)


 千明がレポートを打ち込みながら考える。

 パソコンの横に置かれている上の階から取ってきた参考文献を読む。

 必要な箇所だけを読んで、パソコンの文章ソフトに書き込む。


(天文部のことは聞き込んだけど、ほとんど赤い雨の件では情報が出なかったわね)


 千明がレポートの最後の項目に参考文献を書き終える。


(それでも入部するか―――引き返すか? 迷う所ね)


 データを保存して、デスクトップパソコンに繋いでいる記憶媒体のUSBにデータを移す。

 データの移動が終わって、デスクトップパソコンから保存していたもう一つのデータを消す。


(暗示をされて記憶が消されていたとはいえ、命は助けられてるのかな?)


 そう思った千明がある映像を脳裏に浮かべる。

 いつかの赤い雨の公園での時雨の姿―――。


(それに今日図書館で話した二人の天文部の話じゃ私には彼女たちの知らない出来事や言葉があったし―――)


 千明がUSBをパソコンから外す。


(このまま謎を謎のまま終わらせていいの? また暗示をかけられて、記憶をなくしたまま卒業ってのも後味が悪いわね)


 ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 図書館の出入り口に移動して―――。


(しゃあない。入部するだけしてみるか―――赤い雨の事件を解決まで日々警察の手も借りれずに戦っている連中だろうしね)


 千明が学生カードを出入り口の改札に入れて、図書館を出ていく。

 この時に千明は天文部の入部を決意した。





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