第五話
(あたしが今住んでいるところは駅以外はほとんど民家で畑ばっかりなのに、たった五駅電車で乗ったら小都会のここに変わる)
エスカレーターの終点を歩いて、二つの電車の乗り換えのみの上の階の構内を歩いていく。
人ごみは東京に比べると非常に少なく―――。
それでいてそれなりに人が改札などを抜けていく駅の光景だった。
その中に見慣れた自分と同じ大学の女子大生に出会う。
改札のやや手前でその女性も千明を見て、近づく。
「よっ! 千明。これからバイトなの?」
同じ学部の同級生が声を掛ける。
「まぁね。あんたはサークルの友達と遊んだ帰り? あんま飲んでないみたいけど―――」
千明がそう言うと―――彼女が二ッと笑う。
その通りだという意味の笑みであった。
その隣に後輩らしき別の学部の一年生の女子大生が挨拶する。
「どうも、えっと―――山田さんのお友達ですか?」
一年生の女子大生がそう言って、小動物の様に周りをチラチラ見る。
千明が二人に挨拶と簡単な自己紹介を一年生にする。
「ああ、どうも初めまして、同じ学部で彰美の友達の山本千明っていうの。彰美とは去年の大学のガイダンスから声を掛けられて、その頃から一緒なのよ」
「山本千明と私が山田彰美で教育学部の山々コンビってわけよ」
彰美が楽しそうに千明の言葉を返す。
「はいはい、一年生の五月あたりに周りにそう言って絡んだのここで再現しなくていいからね。それであなたは? 彰美と同じ学部の後輩?」
千明が彰美そうツッコミして、別の女性に質問すると―――後輩らしき女子があたふたしながら自己紹介を始める。
「山々コンビ―――そうなんですか。同じ学部ではないです。ええと―――初めまして、彰美さんと同じラクロス部のサークルの吉澤です」
吉澤と言った後輩の女子がそう言い終えて―――軽く頷く。
「同じ自由科目の講義や学内で見かけたら気軽に話してね。二人の運動系のサークルは飲み会や遊びが多くて、楽しそうね」
千明がスマホをチラリと確認して、改札のやや手前で話し込む。
(ま、バイトはまだ時間あるし、軽く話してさっさといくか―――)
「千明。遊びの飲み会じゃなくてサークルの歓迎会の帰りだよ。四月もまだ半ば過ぎた頃だし、部員も随分集まったし、部費で歓迎会やってきたのよ」
彰美がそう言って、ニシシッと笑う。
「あんたは何だかんだで飲みたいだけでしょ? 今月の四月に入ったばかりの後輩を困らせないようにしなさいよ。飲みサーと間違われたら部内で問題なんだからね」
千明がそう言って、吉澤に話す。
「吉澤さんも彰美に二次会だーとか言って、アパートで騒いでたら単位うっかり落としちゃうかもしれないから、断るときはちゃんと断っておいてね」
「は、はい。まだ大学生活は慣れないですが、頑張ります」
吉澤が控え目に両手でグーの形を作り胸元に拳をあげる。
(さ、さすが体育会サークル。一年生とは言え、ちょっとノリが違うわね)
千明がやや苦笑する。
千明が吉澤と彰美に話題を出す。
「一年生の内はここでも埼玉では都会に入るみたいだから、吉澤さんも新生活に慣れるまで頑張ってね」
「山本先輩はそのここの人の多さに戸惑ってませんか? 私は群馬から来たから、色々……その……埼玉県の都会のような人ごみに驚いてて―――」
吉澤がそう言うと、千明が返答する前に―――。
千明の友人の山田が吉澤に肩に手を置く。
「吉澤。千明は高校まで東京育ちだから、全然動揺もしちゃいないわ。むしろ埼玉の畑見た時に驚いて、新鮮味を感じていたわよ」
「それはそれで新生活の新鮮さを感じるベクトルが私と違いますね。ところで山田先輩」
吉澤が腰に手を当てて、話す。
「この埼玉に来てからニュースでも見たんですが、なんで私たちの大学の周辺やその二、三駅離れた場所には赤い雨が時々降るんですか?」
―――赤い雨。
吉澤が気になり発した単語。
千明と友人の彰美が一瞬、黙り込む。