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第四話

 千明が目を覚ました時には―――。

 そこは赤い雨の降る公園だった。

 黒い獣が上半身を真っ二つにされ、燃えながら消えていく。

 千明がその黒い獣を見て、動きが止まる。

 状況が理解できず―――しかし、もう襲われないという不思議な安心感に包まれる。

 黒い獣が燃えカスになって、消えた時に―――。

 炎を纏う剣を持つ大学生風の女性を見上げる。

 赤い雨が止んだ後に映る月に照らされ―――。

 

「…………」


 お互いの沈黙の後に―――。

 剣を持つ女性が月明りと共に赤い眼を千明に見下ろすように向ける。

 どこか寂し気で、強さを持つ優しさのある赤の色の輝きを放つ瞳。

 幻想的な光景と不釣り合いな女性の姿。

 赤を基調としたカジュアルな服と黒のブーツに紺のロングスカートに違和感のある炎を纏う剣―――。

 それが千明にとっては初めての彼女との接触。

 始まりを告げる出会いだった。

 女性が口を開いたときに―――。

 泥だらけの千明が起き上がる。


「貴方に無事な朝が来るように―――この夜の赤の記憶を消させてもらうね」


「―――えっ?」


 女性の声と主に周りの景色がぼやける。

 まるで女性に催眠術でもかけられたかのように映像と思考がブツリっと消えた。

 千明にはこの夜の出来事が何が何だか分らぬまま―――。

 気付けば自分の学生専用アパートの玄関でドアを閉めていた。


「あたし―――? 何だろう? 思い出せないけど、ああ―――アルバイトから帰ったんだけ?」


 千明が自問自答しつつ、ドアを閉める。

 ここまで歩いたことや泥だらけの服を洗濯機に入れて―――。

 何かを今日の夜の大事な出来事を思い出せないように―――そのままベッドに寝付く。



 時は戻り―――千明が黒い獣に襲われる日の夜―――。

 千明がスマホの曜日を確認する。

 表示されたのは四月の二週目の日曜日の午後だった。


(まったく日曜日なのにバイトせんと来月からの生活に満足な食事が食えないとは―――あたしも苦学生ね)


 電車に揺れながら千明はスマホで同じ大学の女子友達とコミュニティでやり取りする。

 車内でアナウンスが鳴り、目的の駅に電車が停車する。

 大学生の多い電車を降りていく。


(一年間過ごしてみると―――埼玉って、高層ビルとかやっぱあんまりないわね。地元の東京と違って、なんか呑気な小都会って感じ)


 千明が電車を降りて、駅内にある蕎麦屋に目を向ける。

 サラリーマンと大学生が蕎麦屋から出ていく。


(本当にこの辺りはある程度は大学生の財布で持っているって感じだわ)


 そう思い、駅のエスカレーターを上がっていく。





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