第三十三話
「何を言っているの? 私の中に誰か?」
千明は意味が解らずに少女を見て、戸惑う。
少女が言葉を続ける。
「推測―――推測―――二つの命を持つ者。いずれ誘われる二つの剣を持つ男女に誘われる―――彼ら揃いし時―――」
少女が淡々と機械のような言動で話していき―――。
少女の頭の上に二本の剣が対になって浮かび上がる。
一つは刃先に氷のようなつぶてがいくつかある剣。
そしてもう一つは刃に炎を宿す剣―――。
「あの剣はどこかで―――」
千明が炎の剣を見て、頭を抱える。
千明の脳裏に何か忘れている最近の出来事が浮かぶ。
謎の黒い犬のような大きな獣の映像。
千明のいる駅の周辺にあった建設中のビルの上にいた人影。
炎の剣を持った赤い目の亜麻色の髪のラフな外ハネのショートヘアーの少女。
そして―――。
「認証確認―――ストッパーと断定―――ストッパーの二つの命を持つ者よ。儀式の公平さを保つため―――媒体の私が接触する」
少女がそう千明に伝え―――。
ストッパーという言葉で千明が苦悶するような表情になる。
無意識に血が出ていたであろう胸の部分を両手で触る。
痛みも血も流れてはいなかった。
少女は頭上に浮く二つの剣の上で言葉を続ける。
「ストッパーの始まりの体に刺さる過去の刃の力を持って―――儀式はいよいよ永きを持って果たされん」
少女がそう言い残し、幻影の様に消えていく。
残った二つの剣も炎と氷を放って、蒸発するように無くなっていく。
消えていった煙の中で―――。
最後におぞましい姿の大型の獣のシュルエットが映る。
黒い影だけの獣はやがて、灰色の世界を取り込むように世界に色を戻していき。
赤いヒビの入った地面も灰色の世界も黒い獣の影に吸い込まれていく。
「我は儀式の最終段階の実行者の真の姿。ストッパーよ、いずれまた儀式の終わりに現れるであろう―――」
黒い影の獣のシュルエットがそう話し、うっすらと消えた。
千明が何かを言う前に―――。
景色は普段と同じ色合いに戻り、車も人も動き始めた。
雑談や信号機が青に変わった日常の光景の中―――。
(何がどうなっているのよ? 何か大事なことを忘れているのに断片的にしか思い出せないわ)
千明が遅れて、横断歩道を渡っていく。
(あの非現実的な存在の幼い少女はなんだったの? なんで私はあの時に胸が痛むと思ったのかしら?)
千明が横断歩道を渡り終え―――。
(そもそもストッパーとか儀式とか訳の分からないことを少女と何か恐ろしい獣が言っていたわね)
千明が近くの人が多くいる駅まで歩いていく。
(それとあの炎の剣はつい最近どこかで見たような気もする。けど、映像でしか思い出せない)
自分に何か重要なことが映像でしか思い出せない千明が改札を通過する。
(一つ解るのは―――)
千明が駅構内の食堂の傍にある階段を下りていき。
(さっきの女の子―――あれは夢でも幻でもない。何か私の過去や今の赤い雨に関する大事な出来事ってことなのかしら?)
千明が階段を下りて、電車を待つまでの間に奥の席に座り込む。




