第三十二話
「赤い雨の犠牲者の話―――ウチの従業員に来ないためにも。気をつけて、さっさと帰ってくれよな」
店長がそう言って、客フロアの電気を消していく。
「はーい、金辺。さっさと帰るわよー。ありゃ? 金辺いないじゃない?」
千明がスタッフルームに移動すると金辺の姿は無かった。
「陽美ちゃんなら―――皿片付けたら早く帰るように指示したから、もう裏口出ちゃったんじゃないのかな?」
店長が愉快そうにそう言って、厨房スタッフに指示を出していく。
「千明ちゃんもタイムカード押して、早く帰るんだな」
「はい、お疲れ様でした」
千明が店長にそう返信して、更衣室に向かう。
暗くなったファミレスで店長が車のキーを持ち。
「ほれ、厨房スタッフで居残り組は俺の車に乗って駅まで送ってやるからさっさと済ませるぞ」
そう残った厨房スタッフに伝え―――。
返事をした残りの3名のスタッフが片づけを終えていく。
千明のファミレスは今日も営業を無事に終える。
※
私服に着替え終えた千明がファミレスの裏口から出ていく。
千明のいる駅は大学生達の多い駅とは違って、街に娯楽施設が目立つ。
警官隊の異様な人数を除けば町全体は都会の中では、せいぜい下町と言った印象だ。
駅周辺にはコンビニとハンバーガー屋。
書店にレンタルDVD及び中古ゲームショップ―――床屋や自転車屋、一円パチンコ店がある。
昼や雨の降らない夜はそれなりに賑わうが―――埼玉の地元恒例の夏祭りがあるときは出店がチラホラと並ぶ。
(都会慣れしてるのか、ちと寂しい光景ね。駅から離れると普通に自家用の畑とかあるし、道路に草が生い茂っているし―――)
そう思う千明が駅前の横断歩道で止まる。
会社帰りのぐったりしたサラリーマンやスマホを弄るセレブな女性の横に並び。
(まぁ、一年経っても慣れなものは慣れないわね。でもなんか呑気そうな空気が自然と馴染んでるのかも?)
そんなことを思い、空を見上げる。
空は曇りで覆われて、月も見えなくなっていた。
雷こそ鳴らないが雨が降りそうな夜の雲行き。
(あの謎の一万円貴族女性の言うように今夜あたり降りそうね。昨夜に続いて―――あれ? 昨夜も赤い雨が降った?)
千明が空から視線を外して、考え込む。
(なんでアタシは昨夜の雨のことを知りながら、何か大事なことを忘れている気がするんだろう? この違和感は何?)
千明が自問自答する中で―――。
たまたま前を見た時に―――。
「―――えっ?」
異様な光景を赤の信号の横断歩道で見る。
この場に似つかわしくない宙を浮く少女。
その場の人も車も停止している。
停止というよりもまるで一枚の写真の様に動かない。
あたりが灰色のモノクロのような色合いで支配され―――。
ただ一人動ける千明と横断歩道の真ん中にいる少女のみが動いている。
灰色の景色の中で赤い色のヒビが地面に刻まれている。
「何なのよ―――これは?」
千明が困惑して、光の無い赤い目の少女を見る。
幼さのある少女は黒のゴスロリの服を着ており―――。
「起動―――起動―――言語適応―――貴方の中に誰がいるのですか?」
ピンク色のショートボブの髪型を揺らす少女が千明に話しかける。




