第三話
「あたし、高校生の頃に―――殺され、て? そんな記憶、無かった、はず―――!?」
戸惑いながら大学生の千明が同じように倒れ込む。
「胸が焼けるように痛い。血が止まらない―――」
千明の眼がぼやけた白の世界から、黒い闇の世界に閉じていく。
そのまま景色が黒に染まる。
※
千明の眼が再び開く。
目の前には眩しい照明が映る。
場所は白を基調とした病室のようだ。
医療室で治療を受けているようなアングルだった。
「先生。外傷の胸の傷がどんどんなくなっていきます」
女医の声が聞こえる。
どうやら千明自身が集中治療室で手術を受けている映像だ。
持っているメスには血が付いている。
「信じられないわね。確かに刃物で刺されたはずだが、臓器はどうなっている?」
医師の声が聞こえ、心電図の音が響く。
「それが―――傷も無くなり、極めて健康な状態になっています。先生こんなことってありますか?」
他の医療スタッフが驚きの声を上げる。
「手術がこれほどうまくいくとはな―――」
医師の声が段々歪んで、何か禍々しい声に変わっていく。
「これは……成、功す……べ、き手―――術、だっ―――た」
声がノイズが走りながら、変わっていく。
「最初は戸惑ったが、生命反応が普通の人間と同じに、な、って、もと、の人間―――」
周りの医師たちが時が止まったかのように止まる。
どこからともなく耳元で囁くように男の声が聞こえる。
「これより盗み出した逃亡者のゲームが始まる」
千明が動けないまま、その声に耳を預ける。
老練の男のイメージがある声が再び耳元で聞こえる。
「これから世界は破滅よりも質の悪い歪みの世界の操作を一人によってされる」
男の声と共に周りが黒く歪んでいく。
「いかなる絶望的状況でも―――その状況を止める者―――それは我々の世界ではストッパーと呼ばれた」
言葉と共に周りが黒に包まれ、視界が無くなる。
「世界の変貌の流れを止めるストッパーよ―――今こそこのゲームという名の儀式に立ち向かうがいい」
男の声だけが耳元で聞こえる。
「時は満ちたのだ、選ばれた適正者よ―――この過去から始まったゲームに今こそ立ち向かうが良い」
男の最後の言葉と共に糸が切れるような音が脳に響く。
千明はそこで夢から覚める。
※