第二十一話
千明が大男から視界を外した時に―――。
「では地面に置いて置くので頼みましたよ―――山本千明さん―――」
大男から突然自分の名乗ってもいない名前を呼ばれ―――振り向く。
改札には人はいなく、大男もどこかに消えていた。
駅構内の地面には伝言用の紙と千円札が小石と共に置かれていた。
千明が大男を情報量の少ない田舎の駅構内で探すも見当たらない。
(まさか幽霊? この紙ほっといても何か祟りありそうだし―――あの謎の常連客に渡すしかないか)
怖がらないように冷静になる千明が地面に置かれた紙と千円札を拾う。
(今時紙媒体って―――しかも私を伝言係りに報酬付きで頼むとか―――平成初期かな?)
千明が大男の言伝にある言葉が書かれた紙を確認して、いやいや階段を下りていく。
(なーんか、あたし最近変な出来事ばかり関わっているような―――知らないうちにヤバい橋に渡ってる感あるわね)
千明が脱力して、すぐに着いた電車に乗り込む。
伝言が書かれた紙に書かれた大男を示すであろう名前は籬という文字だった。
※
千明が電車に揺れている間―――。
建設中のコンクリートと建設中の個所が目立つビル内で男の声が聞こえる。
「確かに渡したのか?」
男の声に千明が先ほど出会った大男の声がどこからともなく聞こえる。
「ええ……今回だけ彼女が機嫌が悪いのかスマホを切っていましてね。調べたところセレナードが話していた例のウェイトレスが今回の駅でいたので言伝を確かに渡しました」
「セレナードにも困ったものだな。紙媒体で早めに伝言を伝えるほどにこちらは最終段階に近づいている大事な時期だというのに―――」
ビルの影で男の声が響き、大男とスマホで会話をしている。
「長丁場の儀式ですからセレナードにも気が緩むのでしょう。パスタリアは冥約の儀を得て今回も力を引き出しているのでしょう?」
スマホ越しの大男の声で男が影の奥の光を見る。
建設途中の人のいない廃ビルに似つかわしくない場所に少女が映る。
少女はピンク色のショートボブの髪型で目が赤い色で光がない。
外見は黒のゴスロリの服装で人形のように宙に浮いている。
浮いている少女の足元には赤い魔方陣が輝きながら何かを少女に送り込んでいる。
男がその少女から視点を外して、電話に応答する。
「力はここに来て、増えている。儀式に問題は無い。お前は鏡志咽規に会っておけ」
男がスマホ越しに行った言葉に大男がフッと笑う。
「協力者にしてこの世界の裏切り者の鏡志咽規―――彼に会うまでもないですよ。例の神社の巫女の封印した場所の捜索は続けさせています」
「ここにある以上―――それを見つけ解放すれば、最終段階に入る。あの殺人癖のある男に作らせたスマホもそろそろ電池切れだ」
男が冷たく言い放つ。
「―――それはそうとパスタリアの調整頼みましたよ」
大男がそう言って、スマホを切る。
ビル内の男が再び宙に浮く少女を見る。
「パスタリア―――あと少しで儀式が最終段階に入るのだな?」
男の声が少女に呼びかけるように問う。
パスタリアと呼ばれた宙に浮く少女が機械的に口を開く。
「―――起動―――起動。適切な言語で伝達―――外界からのエネルギーを算出するに残り半年以内に可能―――」
パスタリアの言葉に男が退屈そうに電池切れのスマホを見る。
「まだ半年か―――念のために次の雨の降る場所にあいつと会うか―――あの大学の離れた場所にいるだろうしな。この世界の人のいる電車は嫌いなのだがな」
男が不快そうに呟き、ビルを出ていく。
(儀式の為とは言え、仮初めのパスタリアの顔を見るのは辛いものだ。だが、復讐の為でもある。もはや見慣れた光景でもある)
男がそう思い、自分に言い聞かせる。




