第二十話
バスが山を下りて、まだ昼頃の駅前に着き。
千明がそのままバス停前の駅の階段を上っていく。
定期を改札に当てて、そのまま駅構内に入ると―――。
「失礼。そこの綺麗な女性の方―――」
千明を呼び止める男の声が聞こえる。
駅構内には千明以外には男の大学生ばかりなので、千明が声の方向に振り向く。
緑がかったグレー色のダブルの上着と黒色のズボンを着た大柄な男性がいる。
前髪立ち上げたショートヘアーから若さが見えるが年は千明よりも上に見える。
外見は鍛えられており、服装越しから筋肉がある程度主張している。
「な、なんでしょう?」
千明が恐る恐る話す。
(うわー! 埼玉だからって、気軽に返事しちゃったけど都会だと全力で逃げるタイプの大男じゃない! 変なビルに連行されて、野球帽とか5000円で売りつける気なのかしら? でも地元の東京と違って、埼玉だし、あううーーーー!)
千明がある程度距離を取って、男性に離れる。
25、6歳に見える大柄な男性が気にせずに話を続ける。
「あるお客に言伝を頼みたいのですがーーーー」
「はい? 伝言ですか? っていうか、お客?」
男の急な説明不足なぶっきらぼうな言葉に―――千明が笑顔で首を傾げる。
その笑顔には拒否への威圧が込められていたが、男にはまるで通じなかった。
「―――貴方は森越支店のファミレス『アルトリウス』のウェイトレスさんですよね?」
大男の言ったワードは千明のアルバイト先の店名だった。
後でクレームを入れられるのも厄介なので千明が無言で頷く。
「そのファミレスに夜頃に赤い雨が降る中で、金髪の内巻きのワンカールの髪型の伊達眼鏡をかけた伏せ目の女性が常連で来てますよね?」
名前を名乗らない大男から千明が印象に残った常連客が浮かぶ。
「……あ、ああ……あの外人さんっぽい―――ピンクのニットを着ている。柄入りのタイツが特徴で黒のハイヒールのいかにもキツそうな人ですね……?」
千明が仕事の時間によく客として一人で必ず紅茶を頼む女性を思い出していた。
(ってか、あの客注文多いけど―――金払いが良くてお釣り要らないとかで万札出してるから嫌でも印象に残るのよね)
千明が段々と職業不明の謎の常連客を思い出して、苦笑する。
大男が気にせずに話を続ける。
「今日もファミレスに来ると思うのですが、仕事のオーダーの時で良いので『媒体に完全に適応出来た。約束の時は近い』とだけお伝えください」
大男の遠慮のない一方的な頼みに千明が困り顔になる。
「あの……あなたが直接言ったらどうですか? オーダー取るのいつも私という訳でもないですし、お金を払ってくれるお客さんですから私からも強くは言えないんですが名前を名乗ってはいかがですか?」
千明が退かずに言うだけ言って、一歩下がる。
「私の名前はその紙に書かれています。言伝が無理ならこの文字で解りますので―――」
大男がそう言って、黒色のズボンからメモ紙を千明に見せる。
「いや、当店ではそう言ったサービスは無いんですが―――」
千明が一歩下がりつつ断る。
メモ紙の他に千円札も千明に男が渡そうとしていた。
周りのたまたま見ていた男子大学生が千明と大男を見る。
その光景は紙と千円札を千明に渡す光景であり―――。
「こんな大学生しか通らない時間帯の駅中で売春とか? これもうわかんねぇな!」
男子大学生がそう言って、千明をねっとりと見る。
「こら! あんた! そういう汚らわしいことじゃないわい! 貴方も貴方で―――」
千明が男子大学生を威圧しながら、怒鳴る。
男子大学生がそのまま階段を下りて去っていく。




