第二話
千明の視界がぼやけていく。
白いボカシの入ったフイルムのように映像が再生される。
まるで夢を見ているような光景だった。
千明の胸の下に大量の血が流れている。
「これは―――私だけど、高校生の制服を着ている?」
千明が過去の自分を離れた位置で見ている。
過去の自分も見ている千明も胸に血が流れる。
しかし千明に痛みは感じない。
代わりに高校生の頃の千明が痛がるように倒れ込む。
少女の頃の胸には黒の柄と赤の刃のナイフが刺さっている。
その刃物から胸に刺さった傷口から血が流れいく。
ロングパーマスタイルの狐のように細い眼をしたフード姿の男が倒れた千明に近づく。
「ひゃっはっはっはぁ~! まさかこんなに上手くいくとはなぁ―――チェックメイトてやつだ女子高生ちゃ~ん」
フードの男が高笑いと共に高校生の千明を蹴り上げる。
転がる千明が反対側に倒れ込み。
胸の刃物が押し出されるようにさらに深く刺さる。
刃物が高校生の千明の背中にまで貫通する。
それを見ていた大学生の千明が胸に広がる血を両手で抑え込み―――。
「うっ! ああっ! この痛みは―――」
そのまま膝をついて、痛みに耐えていく。
千明に刺さった胸の刃物を男が蹴りばして、前を向かせ―――刃物を抜く。
高校生の千明は血が広がり。光を失った目で空を見上げる。
「おい、リザット。これで良いんだろう? あー、俺様もあんたの計画に半信半疑だが―――」
男が警官服の男に声を掛ける。
膝をつく千明が警官の男を見る。
顔がぼやけて、輪郭すら映らない警官服の男を見る。
「ああ、これで儀式は始まる。お前にも能力が与えられる」
「けどよー、なぁーんでその辺の女子高生殺ってみる必要あるわけぇ?」
「儀式には処女の血が必要不可欠だからな。その刃を持ち、他ならぬ人間同士の殺人によって、成立する」
警官服の顔のぼやけた男がフード姿の男にそう告げる。
「あー、その儀式の力で雨を降らすには処女の血が無いと触れないんだっけ? 盟約の儀式とかう網の儀式で悪魔は処女の血を~とか?」
「ああ、そういうことだ。俺達が悪魔かどうかなんてこの際どうでもよいだよ。現に刃物を宙に浮かせたろう?」
「まあ、アレには手品もなしで魔術か魔法なのか驚いたけどよ。けど、脱獄出来て助かるわー、ひゃはっはっはっ!」
大学生の千明は流れていく血を抑えながら―――二人のやり取りと死体の様に動かない顔の自分を見る。
「お前に渡した刃物を俺が指示して、偶然居合わせたこの近くの高校の少女を殺させた。おかげで無事に儀式の始まりが出来た。後は数年ほどの歳月を待てばいい」
警官服の男がそう告げて、フード姿の男が血で濡れた刃物を渡す。
「あー、そうかぁ。んじゃあ、俺は決められた日の約束の場所で落ち合うぜ。えーと……あんたの名前なんだっけ?」
フード姿の男が倒れ込む千明を踏みつけながら、話す。
男の警官服から胸に銃弾の跡があり、血が流れている。
それでも平然と立っているのが、異常である。
「何度も言わせるな―――リザットだ。一度この肉体の主を殺して、この体を俺自身も誘惑の効果もあって、完全にものに出来た。後はしばらくして門を開くだけだ」
顔のぼやけた警官服の男がそう言って、そのまま去っていく。
フード姿の男がニヤッと微笑して、反対方向に去っていく。
「ひゃはっはっはっ! いやー、俺様にとっては都合が良いぜぇ! この世の者じゃないとか言われた時にはキメてんじゃねぇかと思ったが―――あんな状態で生きてるんだもんなぁ……やべー、超ウケる……」
フード姿の男の言葉の後に―――赤い雨が降り始める。
男が驚きと喜びで赤い雨を見上げる。
「復讐の為かぁ―――俺様にとってはどうでもいいけど、儀式はあながち嘘でもないみたいだしなぁ。この赤い雨が降るってことは―――最高に面白いゲームが始まるってことかぁ!」
男がそう言って、去っていく。
後にはサイレンの音が響き、赤い雨が倒れている高校生の千明に降り注ぐだけだった―――。