第十八話
謎の美青年はそのまま顔を背けて、人ごみの通路に移動していく。
「ああ、理系の理工学部のドレッド君ね」
彰美が千明に青年の名前を伝える。
「ドレッド? どこの国の人よ?」
「アメリカ人らしいわよ。理工学部で二年生。イケメンで流暢な日本語を話す一部の女子学生には人気よ」
彰美がそう答えて、おにぎりを食べ始める。
吉澤が少し顔を赤らめておにぎりを落としかける。
「山田先輩は文系クラスなのに理系クラスの生徒よく知ってますね。ドレッドさんって、彼女いるんですか?」
吉澤が質問すると彰美が首を横に振る。
「面食いの千明や吉澤がドレッド君に一目惚れするも解るけど、案外彼って謎が多いのよね。そういうミステリアスな部分もあって、モテるわけ―――他の文系女子との争奪戦したきゃご自由に―――」
彰美がおにぎりを食べ終えて、ジュースを飲み始める。
「彰美先輩。別に私は面食いってわけじゃないですよ? 白いお肌の細マッチョな人が好きなんです!」
吉澤が焦って、頬を赤らめたままニヤッとする彰美に話す。
千明がスマホに目を向ける。
スマホのアプリでニュースが流れる。
『昨夜の赤い雨の事件で壊れた自販機から獣のような爪跡! 夜に山から降りたクマが襲って来た? 警察が事件を捜査中』
吉澤が同じニュースを見ていたのか、千明のスマホを偶然覗く。
「襲われた人は大丈夫なんですかね?」
吉澤が何気なく言った言葉に千明が胸を無意識に抑える。
「千明どったの? 胸なんか抑えて―――狭心症?」
彰美が最後のミニ生姜焼き丼を食べる手を止める。
千明の胸がドクンッとなる。
吉澤達が心配そうに千明を見る。
「な、何でもないわよ。その子きっと逃げ切ったんじゃない?」
サークル勧誘が忙しい昼休みの四月の騒がしい時期に―――。
千明が雑踏の中の雑音の一つの様に言葉を二人に添える。
遠くで誰かが見ている気配があるも、千明が振り向くと気配が無くなる。
彰美が納得したのか話題を変える。
「千明。去年も言ってたけどさ。今度こそ夏に一緒に免許取らない? 良い教習所見つけたんだ」
「免許ですか。なんか大人ですね。羨ましいです」
吉澤がそう言って、来年受けたいと話す。
「今度その教習所をメッセージで送ってね。あっ、四限の自由科目の囲碁の講義終わったら、バイト行かなきゃ! んじゃこれで」
千明がそう言って、芝生から立ち上がる。
周りで座り込んで話している大学生達も減ってきた。
「付き合ってありがとう。今度は学食にしとくわ。生協の半額メニューを晴れの芝生で食べてみたいって言うのもアリかなっと持ったけど、やっぱ今度から学食にするわね」
彰美がそう言って、食事を終える。
吉澤が他の学部の知り合いに手を振って、三人の話から離れる。
「それじゃあ先輩。私はこれで―――」
吉澤がそう言って、彰美も頷いて貯水池近くの七号棟に移動する。
千明ものんびりとオーバーブリッジの階段のある七号棟の階段を上っていく。
金髪の美青年がオーバーブリッジに同じく上がり、千明の背中を見る。
(あの女の子の消したはずの記憶が残っている。もしや適正者か? 時雨の暗示が深く効いていないところを見ると間違いないかもな)
金髪の美青年がそう思い、反対の第二研究棟に向かう。
謎の適正者っという言葉を頭に残して―――。
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