第百九話
―――三限の講義まで時間がまだある昼休み。
千明はサークル棟の天文部のドアをノックする。
「はーい、誰ですかー」
ドアの奥から時雨の間延びした声が聞こえる。
「時雨、あたしだよ」
「あ、千明ちゃんかー、入って入ってー♪」
時雨の楽しそうな弾んだ声で千明が部室のドアを開ける。
部室には机に講義のプリントなどを読んでいる金辺と同じく必修科目の教材をおさらいしていた時雨がいた。
「自主トレとか瞑想しないの?」
千明がそう言って、ドアを閉める。
「自主トレはさっきしたから四限まで金辺ちゃんと講義の勉強して、瞑想かなー」
時雨がそう言って、机に広げられたプリントを閉まっていく。
「何も部室で勉強することはないんじゃない? まぁ、でもテスト期間中とか家庭教師のバイトしてたら部室で勉強するのは当たり前かもね」
千明がそう言って、時雨の隣に座る。
「アパートの部屋以外にここだとなんだかんだで静かで落ち着く。人目もないしな」
金辺がそう言って、プリントとノートを見ながら対面する二人の前で話す。
その時に―――。
「……あっ」
千明が声を漏らす。
金辺と時雨―――。
二人の頭上に青色の13の球体が外側にある王冠の紋章が浮かぶ。
(この二人も13の王冠の絆に起因するのね。絆を深めればあたし以外の二人のレガシーウエポンも強化されるってことか―――あの巫女の言うように黙っておこう)
千明が二人の頭上の紋章を見て、考え込む。
「どうした?」
金辺が千明の顔を見る。
「あ、いや、何でもないわよ。瞑想だけでもしようかなって思ったんだけどやり方解らなくてさ」
千明がとっさにはぐらかす。
「あっ、そういうことなら屋上で話そうか―――鍵開けてるし私が説明しながら瞑想について教えるよ」
時雨がそう言って、椅子から立ち上がる。
その時に金辺と時雨の青色の王冠の紋章も消えていく。
(この二人とも絆を深めるってことか―――おいおい話していかなきゃいけないってことね)
「千明ちゃん? どうしたの?」
「ごめん、ボウっとしてた―――瞑想のこと頼むわ。時雨も屋上に行こうか―――」
千明がそう言って、勉強に集中する金辺を除いて時雨と一緒に部室を出る。
二人はそのまま屋上の階段を登っていく。
※
晴れの日の風が少し暖かい屋上。
時雨と千明が網の張ってある屋上で目立たない場所に移動する。
「じゃあ、レガシーウエポンの精神力を鍛える瞑想について説明するね」
時雨がそう言って、屋上に無造作に置いてある椅子に座る。
千明も時雨にの隣の椅子に座り込む。
時雨がニコニコしながら説明する。
「瞑想の仕方なんだけど、まずは目を瞑ってみてね」
時雨の言葉に千明が目を瞑る。
それを見た時雨も目を瞑る。
「次に赤い眼の時と同じように念じて、頭の中にあるレガシーウエポンをイメージするの。それだけで後は集中するだけ」
その言葉と共に千明が赤い眼を出す時の感覚のように念じる。
頭の中にレガシーウエポンを思い浮かべる。
千明が持つレガシーウエポン―――エルドラドランス。
黄金郷の槍と呼ばれたレガシーウエポン。
それをイメージしていく。
槍の形がぼやけながらも輪郭を見せていく。
暗闇の中で金色の槍が細分化され、確かな武器として千明の脳に正確にイメージされていく。
途端に風が吹くような音が千明の耳に響いていく。
風は強くなり、千明の体全体を押すような感覚になっていく。
そのまま正確にイメージされたレガシーウエポンがまたボヤけていく。
「―――くっ!」
千明がそのまま耐え切れずに目を開ける。
時雨が目を開く。
「はいっ、これで瞑想はおしまい。イメージしてる中で風が吹いてたでしょ? それが出ると限界が見えるから目を開いて瞑想を止めるしかないんだ」
時雨がそう言って、立ち上がる。




