第百二話
「そういえば時雨先輩を第二厚生棟の売店で見かけたんっすけど―――なんの雑誌読んでたんっすか?」
真城が時雨に自然な動作で問う。
「あははっ、星座の本だよ。天文部だし、天体望遠鏡も部室に閉まってあるから夜の日に星座見たくてね」
「まぁ、赤い雨の無い日に天文部らしいことしたいってのもあるっすよね。俺は大型二輪バイクで海辺まで走って、浜辺で夜明けや星空を見るタイプっすけどね」
「真城君も粋な趣味あるねー」
「そうっすか? 正月とか夜に混んだ神社行かずに海で初日の出を下りたバイクと一緒に砂浜で見るのが俺の新年の始まりっすね」
「そういうとこが粋なんだよー」
雑談する真城と時雨が屋上に向かって階段を上がっていき。
佳代子は千明の後に遅れて階段を下りて、サークル棟を出ていく。
千明と佳代子に四限から講義を受けているドレッドは別々の号棟で次に始まる五限の講義を受けに行き―――。
金辺がファミレスでアルバイトをしている時間に素子はゲームセンターで射撃訓練と遊びをしていた。
そんなそれぞれの大学生の日常の中で―――。
―――夜が近づいていく。
※
彼女達のキャンパスライフが終わり。
―――赤い雨の降らない夜。
一度家に帰った千明が最後の便の学生バスに乗って、大学へ向かう。
ガラガラのバス内でスマホの天文部のコミュニティを見る。
天文部のメンバーが揃っているのでサークル棟の屋上に来てほしいっと書き込んであった。
バスが止まり―――千明と数人の大学生がバスを降りていく。
バス停前でサークル棟に向かう学生が数人移動していく。
千明も屋上に向かって、サークル棟に移動する。
途中のバス停奥の駐車場で白い目立つバンが止められていた。
千明がチラリと見て、気にせずに部室に向かう。
星空の綺麗な夜空の下でサークル棟内部の天文部のドアをノックする。
「誰だじぇ? 暗号を言うじぇ」
ドア越しから年下の大学生の声が聞こえる。
「あほ。山本さんだろ? コミュニティで来るってさっき返信あったろ?」
ドアの奥から男子大学生の声が聞こえ―――。
千明が暗号という言葉に困惑していると―――カチャリとドアが開く。
ドアを開けたのは時雨だった。
「あっ、千明ちゃん来てくれたんだね。屋上にはドレッド君と金辺ちゃんが身体訓練してるから入ってっていいよ」
「ありがとう、時雨―――もう私の入部は決まってるんでしょ? 暗示を完全に解いてくれない?」
千明がそう言って、部室に入る。
ドアを閉めた後に時雨が頷いて、眼を閉じる。
机に座っているメンバーは素子と真城―――そして佳代子だった。
時雨が立ったまま目を開く。
赤い眼のまま千明をジッと見る。
―――瞬間。
千明がグラリっとよろける。
千明が頭を抱え込み。
そのまま床に座り込む。
「千明ちゃん。ごめんね。暗示を完全に解くとしばらく体に負荷がかかるんだ。そこで休んでてね」
時雨がそう言って、眼を閉じる。
念じた後で目を開き―――黒い目に戻る。
千明が座り込んだまま―――頭を抱えて話す。
「わかったわ。あいたたたっ……天文部の夜の活動は大学ではどうなってるの?」
千明が問うと―――時雨が千明と同じ位置に座り込み。
「血は繋がってないけど―――ウチのお義父さん―――学園長の許可で夜間に大学に入ること天文部の部活動として守衛たちにも協力してもらい黙認しているの」
「お義父さん? 学園長って?」
千明が疑問に思い、フラフラッと立ち上がる。
「ああ、まだ立ち上がっちゃダメだよ。暗示は固いから―――もう少し休んでて―――あったかいお茶出すからね」
時雨がそう言って、千明を抱きかかえる。
真城が机に置かれた電気ポッドから湯吞みの食器にお茶を注ぐ。
「山本先輩。ここの大学の学園長は時雨先輩の義理の父親なんっすよ。天文部の設立も学園長の一押しもあって、部費もそれなりにあるし、文化祭や学園祭で天文部が使い古しの祭典しても問題ないってわけっす」
真城がそう言って、時雨にお茶の入った温かい湯飲みを渡す。
「お義父さんは高校の頃に両親が事故で無くなった私を引き取ってくれんだ。お義父さんの大学に憧れて、合格して入学したんだ。―――はい、お茶」
時雨が千明に湯飲みを渡す。
「そ、そうなの。学園長―――時雨のお義父さんはレガシーウエポンや天文部の特別活動は知ってるの?」
千明が湯飲みを両手で持ち。
ゆっくり飲み終えて、問う。
「ううん。レガシーウエポンのことも知らないみたいだよ。ドレッド君が学園長に外出の活動報告を言うくらいだよ。大学の事務局に言わずに学園長に報告するから、それで夜の特別活動やパトロールも認可されてるわけ」
「学園長は怪しまないわけ?」
続いて問う千明がお茶を飲み終えて、体を温める。




