テンアゲ少女、電波ジャック!
その日、放送室はいつもより張り詰めていた。
“声の罠”作戦──シグナの逆探知計画が、いよいよ始まるからだ。
「この周波数で声を飛ばせば、傍受側が反応する。位置を絞り込めるはず」
シグナは落ち着いた手つきでアンテナを調整していた。
あやはやや緊張ぎみに朗読の準備をしている。
ノイズは発電機を調整して、レンジはマイク前で深呼吸。
「じゃ、いくか」
そのとき──。
「へぇ〜〜! ここが噂の無法地帯ってワケ〜!?」
突然、放送室のドアが蹴り飛ばされる音とともに、ギャルが現れた。
「ちょっ、どなたです!?」
「あっぶねっ! マイクに靴当たってるって!」
その子はまるで、世界がEMPで沈黙したことなど一切関係ないかのように明るかった。
金髪にパーカー、スカートの裾は限界ギリギリ。スニーカーには自作の発電装置が巻きつけられてる。
「名前は〜? 波多マル! テンション高めのバッテリーガールって覚えてね!」
「……は?」
「情報、渋滞しすぎだろ……」
「あんたら、電波飛ばしてたでしょ? 聞こえたわよ〜ん、あのゆるトーク!」
「え、マジで? 聞こえたの?」
「うん、うちの手巻きラジオで! 音だけはバッチリよ。てかあんたらマジ最高!」
なぜか親指を立ててくる。
……ノリは軽いが、彼女の装備はガチだ。発電デバイスは自作、足踏み式で二系統、送信側にも拡張可能。
こいつ、やべー才能の塊じゃね?
「あの〜、電波って、飛ばしていいんですかね……?」
「うちの高校、今たぶん国ごと沈黙中っしょ? 法律とか、もはやノーカンってことで!」
「……まあ、それは、そうかも」
「つーわけで、マルちゃんも混ぜて? 放送とか、超やってみたかったの!」
「な、なんでそんなテンション高いんですか!?」
「逆よ、逆。こういうときこそ、テンション下がったら終わりじゃん? だから、あたしは電波アゲアゲ!」
……波多マル。
うるさい。うるさいけど、たぶん“このチーム”に、必要な熱量だった。
「てかさ、あんたらの声、マジやばいって。世界終わっても、耳が恋しちゃうレベル」
「急に褒められると、返し方に困るな……」
「じゃ、自己紹介がてら、あたしにも一本しゃべらせてよ!」
そう言ってマルは、ノイズの止める声も無視してマイクに飛びついた。
「マイクジャック、成功! あたしがこの街の電波を支配しまーす☆」
電波に響くその声は、馬鹿みたいに明るかった。
でも、その“明るさ”がこの部屋に差し込んだ瞬間、たしかに──俺たちはちょっとだけ、救われた。
「あ、てかさ、あんたたちの放送、どっかで“勝手にコピー”されてるっぽいよ?」
「……え?」
「え?」
マルの言葉に、全員が固まった。
「だってさっき街歩いてたら、誰もいないビルの中から、レンジくんの“声”が聞こえたんだよね。マジで本人だった」
「……それ、俺しゃべってないけど」
「え? うそでしょ?」
放送の“模倣”は、ますます現実味を帯びていた。
──誰かが俺たちの“声”を複製して、別の場所で使っている。