何が起きたのか、誰もわからない
「EMP。Electro-Magnetic Pulse──電磁パルス。
それが、すべてを“黙らせた”んだよ」
あの“沈黙”が始まって、3日目。
日常は崩れたけれど、体感的にはまだ“壊れきった”感覚はなかった。
ただ、何かが妙だった。
スマホが死んでいた。テレビも、ラジオも、すべての電波が沈黙していた。
「これ、さすがにただの停電じゃないよね?」
ユキが口を開いたのは、旧市民防災センターの倉庫跡。
物資を漁りに入ったそこで、シグナが小さなノートPCを開いていた。
「たぶん──EMP、だと思う」
「EMPって……あれ?」
レンジが眉をひそめる。
「なんか映画で“電子機器が全部ダメになる爆発”とか出てくる、アレ?」
シグナは頷いた。
その顔はいつになく真剣だった。
「EMP、正式には“Electro-Magnetic Pulse(電磁パルス)”。
強烈な電磁波を一瞬でばらまく現象。
それにさらされた機械は、配線がショートして壊れちゃう。
──特に、マイクロチップが入ってるやつは壊滅的」
「……ってことは、スマホも?」
「もちろん。
ラジオも、車のエンジン制御も、交通網も──全部アウト。
電子制御に頼ってた現代の都市機能が、“丸ごと黙る”の」
「でもさ」
ノイズが口を挟んだ。
「それって“自然現象”じゃないでしょ?
誰かが、意図的に……」
「──高高度核爆発」
シグナの声が、わずかに震えた。
「EMPを最大限に起こすには、核を高度30km〜400kmの成層圏で爆発させる。
その結果、爆風や放射線じゃなく、電磁波だけが地上に降り注ぐ」
「上空で核爆発……」
レンジが言葉を失った。
「街が吹っ飛ばなかったのは、それが理由か」
マルがぽつりとつぶやく。
「じゃあ、この“沈黙”って、誰かが意図的に起こした戦争……?」
「わかんない。でも、そう考えるのが自然。
ただの事故で、EMPが日本の都市機能をピンポイントで沈黙させるなんて、あり得ない」
その瞬間、ユキが古いカセットテープを見つけた。
「これ、……再生できるかな?」
「アナログなら、たぶんいける。
EMPはデジタルを殺すけど、真空管とか古い回路には影響が少ないんだ」
レンジが頷いた。
「だったら、ラジオも……古いやつなら、声が届くかも」
沈黙の中に、**“届くかもしれない声”**がある。
それはまだ、誰にも知られていなかった──