真空管と俺の関係について
真空管って、知ってるか?
世の中のほとんどの人間は知らない。
「古くてでっかい豆電球?」とか、「おじいちゃんのラジオに入ってるやつ?」とか、そんな扱いだ。
でも俺にとっては、それは“神の声”を通す道だった。
「……おかしい。送信機は生きてるのに、出力が弱い……?」
旧第二放送室。俺は機材に囲まれながら、埃と汗にまみれていた。
見た目はただのオンボロ機械。でも、中には骨太な配線と、銀色に鈍く光る真空管が並んでる。
俺がガキの頃、じいちゃんに叩き込まれたやつだ。
「電気は魂。流れを読め。触れば、お前の鼓動が機械に乗る」
子ども心に「厨二かよ」と思ってたけど、今は違う。
この静寂の中で、唯一“応答”してくれるのが、こいつだけだったから。
「……くそ。外部電源は全滅だ。なら、残ってるのは……」
俺は給湯室から引っ張ってきた古い自転車のダイナモを改造して、ハンドルをぐるぐると回した。
自転車発電。冗談みたいなやり方だが、これが案外、効いた。
ランプが明滅し、真空管が赤く染まる。
「よし。声を届けてやる……」
マイクを手に取る。スイッチを押す。
「こちら旧・第二放送室。昨日から、街の電気系統はすべて沈黙しています。スマホも、テレビも、全部使えない。もし、この放送が聞こえている人がいたら、何か──何か、合図をください」
返事はなかった。
たぶん、当然だ。
今どき、真空管ラジオなんか、誰も持ってない。
……でも。
俺は知ってる。
じいちゃんみたいな人間が、少なくともこの国に数人はいるってこと。
誰か、いるかもしれない。俺みたいな変人が──。
そのとき。
ブツッ。
……また、音がした。
ガリガリ……ジ……ガ──
「あれ? これ……ノイズか?」
違う。明らかに、人工的だ。
もっとこう、意図的に“混ぜてきた”感じ。
ジッ……ピ……ピ──
「……なんだこれ、応答? てか、誰かいんのか!?」
マジかよ。
まだ、誰かが生きてる?
その瞬間、ドアが軋んで開いた。
「──おーい! お前、今の信号飛ばしたやろ!?」
現れたのは、黒のツナギに工具バッグを下げた、眼鏡の男。
高校生には見えないけど、俺と同じ制服のネームタグ──『伊賀 ノイズ』。
「お前、ヤベーな。機材で生き残るタイプか。おもろいやん」
レンジとノイズ、運命の出会いである。