沈黙の設計図
「沈黙は、傷を癒やす。
でもそれが、世界のすべてになったら──もう誰とも繋がれなくなる」
その少年は、深夜の空港跡にひとりいた。
飛行機は飛ばない。人もいない。あるのは青白い電光表示のモニターと、風の音だけ。
彼はモニターの前に座り、何かを確認していた。
正確には──“点火”を待っていた。
「本当に、やるのか?」
通信機越しに、年上らしき声が問いかける。
少年は短く答えた。
「この国は、沈黙を忘れすぎた。
すべてが“伝えすぎて”壊れた。なら、ひとまず喋るのをやめるべきだと思った」
「本当に“それ”が正しいのか、君はまだ判断できる年齢じゃ──」
「なら、代わりに誰が判断する?
口だけで人を殺す国で、誰かが喋るのを止めないと、ずっと止まらないよ」
彼は、点火キーを手に取った。
それは本物の核の発射装置ではなかった。
けれど──“核としての構造”を、十分に模倣したシステムだった。
彼が独学と仲間の技術を駆使して組み上げた、「声を止める装置」。
「高高度に、非弾頭式の負荷ブーストロケット。
その中に、“構造だけ本物”の核起爆装置を詰める。
臨界までの時間は、残り18秒──」
静かな秒読みの中、少年の目は静かに光を湛えていた。
「名前を聞いてもいいか?」と、通信の声。
少年は一瞬、何かを言いかけて、やめた。
代わりにこう言った。
「僕の名前は、いずれ誰かが“声を取り戻す時”に、自然とわかるはずだよ」
そして、トリガーは静かに押された。
──その直後、世界中の電子機器が、一瞬で沈黙した。
この少年の名は、奏汰。
“沈黙の起点”として記録されることもなかったが、彼が世界の音を断ち切った。
そして、物語は、彼の“正反対の少年”が声を取り戻す話となる。