ロボットたちに囲まれて
ちょとだけホラーを書いてみました。
よろしくお願いします。
21××年ロボットやITやAI産業も進歩し、高齢者施設、障がい者施設にも介護ロボットが配置された。性能も良く、人間とほとんど変わらないケアを入居者に行っていた。
また、一人暮らしの老人や障がい者にも介護ロボットが配置され、人手不足を解消していた。
ななみには家族持ちの子供が二人いるが、どちらの家族とも同居はしていない。
父親が亡くなってから、子供たちに危うく施設に入れられるところを、ロボットを2台入れて一人暮らしが可能になった。
介護ロボットは国や都、更には市町村からの補助があるが、2台目は全額負担となり、子供たちがその費用を負担している。
子供たちは同居するよりは、経済的な負担を選択したのだろう…。
まぁ。遠くの親類(家族)より近くの他人と言うし、ななみは大きな不満もなかった…。
イヤ、ロボットたちと暮らす事には大きな不満はないが、ここに至るまでに関しては少々不満があった。
ななみには5人の孫たちがいる。長男には3人。次男は2人の子供がいる。
どちらの子供にも、孫の出産後、その都度時間を置かず会いに行き、お祝いも渡し、更には就学時孫たちに通学かばんも買い…(結構お高い)。
ななみたち夫婦は、決して裕福ではないが、経済的や時間が許す限り出来る事はしてきたつもりだった。
長男は、結婚して直ぐ、ななみに相談することなくお嫁さんの実家に、二世帯住宅を建てお嫁さんの両親と同居している。お嫁さんの実家の祖先は豪農なので、孫たちの家も敷地内に建てると、お嫁さんのお父さんは豪語している。
次男は、今は次男家族だけだが、お嫁さんの実家の傍で暮らしている。
そもそも父親が亡くなる少し前まで、子供たちはそれまで5年間もななみたちに連絡もせず、会う事もなかった。
父親が亡くなる直前、ほんのひと月くらい頻繁に会いに来ていたが、それっきりだ。
久しぶりに会った孫たちの変貌は大層なもので、本気で誰だか分からなかった。
もう少し、孫たちの成長を見ていれば、分かったかもしれないが、成長期に何年も会わないのはとても残念な気持ちになった。
別に、何か見返りを期待して行ってきた訳ではないが、だからと言って何も期待していない訳でもない。
もう少し気にかけて貰いたいなぁ。と思っていた。
こうした事が、ななみの不満になって行った。
父親の通夜の時、
「母さん、一人じゃ不安でしょ?」と、やおら長男に言われた。
「福祉制度は充実してるから大丈夫よ。介護ロボットの申請とか役所の人がしてくれるみたいだし。本当は、かかる費用全額の一割負担なんだけど、色々ケースワーカーの人が工夫してくれたみたいで、無料になったの。母さんラッキーだった。」
「でも、防犯とかは? 母さん騙されやすいし、その尻拭いなんてイヤだよ。」と次男に言われた。
「防犯用のロボットもあるんだって、こっちは助成されないけど、そんなに心配なら防犯ロボット入れてよ。」と勢いづいて言った。
そしてめでたく施設に入る事もなく、介護ロボットと防犯ロボットと、1人+2台の生活が始まった。
それから4年が経った。
最初の1人暮らしを始めた月に1回、子供たちから電話があり、その3ヵ月後に1回、更に半年後に1回、そして凡そ1年後に1回電話があった。
防犯ロボットはとても優秀で、電話を使っての詐欺や、いわゆる押し込み強盗などにも対応している。ここは高齢者専用マンションなので、さすがに押し込み強盗はないが、電話での詐欺のやり取りなど、ななみの代わりに対応してくれるのでばっちり機能している。
ほとんどの電話はななみが出ることもなく、スムーズに処理されていた。
「おはようございます。ななみさん。今日の予定は何もありませんが、どのように過ごしますか?」
機械的な声が聞こえる。
ベットから車いすに移乗される。
だが、ななみからの返事はない。
「では、今日もいつものように過ごしましょうね。編み物などいかがでしょう。お孫さんの誕生日が近いですよ」と、機械的な声が続く。
介護ロボットと防犯ロボットを入れたため、人間の手はいらなくなった。
生存確認は防犯ロボットが家族に定期的に行い、介護ロボットは病院に定期的に連絡し、ななみを画面越しに主治医が診察し、介護ロボットが日頃の生活を口頭で伝え終了する。
緊急時などは、緊急時でしか使えないピクチャーを利用し、詳細な画面で顔色などが分かる仕組みで、体全体を映せば触診もできる優れものだ。
そして薬などは病院の薬局と直接繋がっているので、ななみにはよく理解できないが、三次元宅配で送ってもらっている。
こうした事は体調が悪い中、わざわざ対面の診察で街中を移動し、診察の待ち時間や、薬を受け取る時の待ち時間で更に体調を悪化させるのを防いでいた。
電話が鳴った。
「もしもし、母さん?」と長男から電話があった。
「はい、今ななみさんは車いすに移られたばかりですが、どうしますか?」
「あっ、いいや。別に用はないから。母さん元気?」
「ええ、お元気ですよ」
「じゃ、よろしく言っておいて」と電話が切られた。
前回の電話からおよそ2年経った位だが、ななみと直接話さなくなってからは、3年が経った所だ。
ななみは午前中編み物をし、昼食を摂った。
「随分残されましたね。これでは体に栄養が回らないので、全部食べられようにもう少し食事の量を減らし、全ての栄養が賄えるようにしましょうね。食事ももう少し柔らかくしましょうか。」と介護ロボットがななみに言った。
「午後はどのように過ごされますか?お天気が良いので散歩に行きましょうか?」と介護ロボットと外出した。
「今日お風呂はどうされますか?入りますか?」
ななみからの返事はない。
「では。今日は止めておきましょうね。」
そしてベットに移乗しこの日は終わる。
防犯ロボットは、この日の出来事を主治医、家族に知らせて終わる。
こうしてななみの毎日は繰り返されていく。
そして更に3年が経った。
ななみの夫が亡くなってから丁度7年が経った事になる。
電話が鳴った。
「母さんいる?」と長男の声がした。
「はい、いらっしゃいます。」
「ちょっと変わってくれる?」
「ななみさん、ご長男さんから電話ですよ」と遠くに聞こえる。
「もしもし…」
「あっ母さん。そろそろ父さんの七回忌だよね」
「もしもし…。父さんの七回忌だよね…」
「えっ。聞こえてる?」
「…聞こえてる?」
「なに、具合でも悪いの?」
「…具合でも悪いの?」
「…介護ロボットに代わって」
しばらくして介護ロボットに代わった。
「母さんどうしたの?」
「分かりませんが…」
「とにかく行くよ。今度の休みに行くから」
「はい、お待ちしています」
長男は電話を切ってから嫌な予感がした。
そして次男に連絡を取った。
「おまえさぁ。母さんに最後に電話したのいつ?」
「えっ、いつだったかなぁ~。2年くらい前じゃん?」
「母さんと話した?」
「どうだったかなぁ。なんでだよ。そんな事聞く兄ちゃんはいつだよ」
「俺は、色々思い出してたんだけど、最後に電話で話したのは多分5年位前で、直接会ったのは7年位前だったかなぁ…」
「えっ!? そんな前かよ。あっ、じゃあオレもおんなじだ。あれから母さんには会ってない。ってか、オレ電話も一回くらいしたかなぁって感じだ。そっかー、そんなになるのかぁ」
「この間電話したら母さんおかしくてさ」
「どうおかしかったの?」
「認知いってんじゃないかってさっ」
「介護ロボットや防犯ロボットからそんな事聞いてないね。ってか、定期的に送られているヤツ、見てもいないや」
「俺もだ。そんでちょっと気になって、今度の休みに母さんの家に行こうと思うんだけど、お前も行かないか?」
「オレ? オレ先約があって…。」
「なに?」
「イヤ、どうしてもって訳じゃないけど…。」
「あっ、じゃいいよ。俺一人で行ってくるよ」
「悪いな。にいちゃん。母さんによろしく」
そして休みの日、長男は一人でななみの家に出かけた。
高齢者専用マンションで、どの家にも介護ロボットが常駐している。
因みに受付もロボットだ。
受付のロボットに母親の部屋を訪ねる旨を伝えると、
「前回お越しになったのは、21××年×月×日午前×時から×時まで、滞在時間は2時間。およそ7年前ですね。」と機械的に伝えられた。
「それではこちらからお部屋に連絡しておきますので、お部屋の前でお待ちください」と受付ロボットは言った。
気が重いまま、ななみの部屋に行くと扉があけられ、「お待ちしていました」と介護ロボットが言った。
そのまま部屋に招き入れられ、車いすに乗ったななみと会った。
「母さん、ひさし… うゎ!!! ぎゃーーーー!!!!」
腰を抜かしそのまま後ずさった。
車いすに座っていたのは、ななみの洋服を着た白骨死体だった。
読んでいただきありがとうございます