【童話】この世界は冒険しているようなものだ
※公式企画【冬童話2025(冒険にでかけよう)】参加作品
旅人さん、ようこそ。
ここは素敵な世界にある、ひと休みする場所。
お茶でも飲みながらゆっくりしていってね。
ん? なになに、お話ですか?
「では、この世界は冒険しているようなものだというお話をしましょう」
ぼくらはまぁるい世界の中で、みんなと通じ合って生きている。
一生でたった一度しか出会わない人もいれば、一日に何度も出会う人もいる。
とっても不思議で、とっても新鮮なんだ。
えっ? 冒険なんてない、同じような毎日だって?
じゃあ、目をつぶってみて。
いままで歩いてきた人生のみちを、少しだけ旅してみましょう。
◇
いっぱい泣いて初めて見えた、明るい世界。
いっぱい泣いて初めて聞いた、世界の音色。
いっぱい動いて初めて見えた、ちいさな手。
いっぱい感じて初めて触れた、見えない顔。
いっぱい歩いて初めて自分の力を知った日。
いっぱい音を鳴らし自分の力を見つけた日。
甘いも苦いも酸っぱいも辛いも、味わって。
話ができない、人それぞれ生まれながらに。
優し嬉し悲しみ苦しみの中で、歩いてきた。
――ひとりひとりが進んできた、冒険のみち。
◇
「お帰りなさい、旅人さん。いままで歩いてきた人生をもう一度歩く旅は、どうでしたか?」
同じような毎日に感じていても。
きっとそれは、違ったできごとが、かくれんぼしているだけかもしれない。
少しだけ、耳をすましてみて。
少しだけ、遠くを見てみれば。
いつもより明るくキラキラとした、冒険のみちが見えるかもしれません。
「おっと、そろそろ出発のお時間のようです」
さぁ、また。
ゆっくり、自分で歩き始める人生の『みち』へ。
――『道』は『未知』だからこそ、その希望は必ず『満ち』ていく。
「だいじょうぶですよ、旅人さん。おいしいお茶を飲んで、ひと休みもしたことですし。ここからまた、自由に、自分らしく、ゆっくりと歩けばきっと
――素敵な冒険になることでしょう」
見てきたものや見なかったものが、聞いてきたことや聞こえなかったことも。
これからは違う毎日が待っているのかもしれない。
目の前にひろがっていた景色が変わるかもしれないから。
――自分の心を信じて、進んでみようか?
そして、この素敵な世界を旅する者の冒険にはきっと、地図も『みち』案内もいらないのです。
お読みくださりありがとうございましたぁ。