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ショートショートの小宇宙

3032年

作者: 駿平堂

「2098年。第四次世界大戦で使用された核兵器により、地球上の生命の遺伝子情報が傷つき、人類を含む全ての生物は、通常の生殖活動による繁殖が困難となった。人類は、既に保存されていた生殖細胞を用いて新たな人類を生み出すことで何と絶滅を免れたものの、大きく力を落とすこととなった。また、その他の生物の大多数は絶滅し、食糧確保もクローン家畜を利用することを余儀なくされた。この年以降、地球はこれまでとは全く違った姿に様変わりした」

 よりによってこんな長いところに当たるなんて。ついていない。これだから歴史の授業は嫌なんだ。

「はい、長文のところありがとうございました。このように人類は、繰り返される人類同士での戦闘の末、自分たちはおろか、他の生物の遺伝情報をも傷つけてしまったわけです。地球上の生命は自然繁殖ができなくなってしまった、ということですね。そのことが一目でわかる、こんな資料があります」

 そう言って先生が手元の端末を操作すると、教室の前方に何かしらのグラフが投影された。90度傾けた棒グラフを左右に配置したような形をしている。

「これは3008年の地球の人口ピラミッドの図です。グラフの下の方、10歳以下、つまり2098年以降に生まれた人口がガクンと減っていることがわかりますね。」

 先生の言う通り、グラフは下部で極端にやせ細っている。バランスが悪く、なんだか不気味で嫌な感じだ。

「そして実際の写真があるので、そちらも見せます。まずこちらが恐らく皆さんもよく目にする現在の地球の画像です」

 グラフの次に投影されたのは、暗い青を基調とし、その表面をまだらっぽく黒色が覆い隠す惑星。地球、と言われた時にイメージする画像そのものだ。現在は一応再開発をしているらしいが、移住できるようになるのはまだ当分先とかなんとかニュースで言っていた気がする。

「そしてこちらが2095年、戦争が起こる前に撮影されたものです」

 そこに映されたのは、先ほどまでとは文字通り別の惑星だった。黒はどこにも見当たらず、清々しい青色を白色や茶色、緑色が鮮やかに彩っている。地球はもともと美しい星だった、とはよく聞く話だったが、これほどまでとは知らなかった。

「青は海、白は雲、茶色や緑は大地です。それまでは自然豊かで美しい星だった地球ですが、核やその他の兵器の乱発によって生じた有害物質が地球全体を黒く濁してしまった結果、現在のような姿になってしまいました。そして、このような環境汚染、自然繁殖ができなくなったことによる社会バランスの悪化、他の大多数の生命の絶滅などの要因から、人類は一気にその力を落としていき、その後の未来に繋がっていきます」

 そこまで先生が話したところで、授業の終わりを告げるベルが鳴った。解放の時だ。

「さて、少し中途半端ですが、時間のようなので今日はここまでにします。ありがとうございました」

 ふう、それにしても今日は運が悪かった。年表を見返しても、自分が当たった2098年は一番長い項目のような気がする。一番最後の3032年なんて、たったこれだけなのに。

 3032年。我々の勝利で人類との戦争が終結。人類は滅亡した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いどんでん返しでした。 人類を滅ぼすまでじっくり観察してきたのであろう冷徹さが、あとからじわじわ怖くなってきます。 「終末ものの語り手は誰なのか?」って話でもありますね。 一部始終を見届…
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