理性と言う名の感情論
そして僕はあることに気づいた
不可能という言葉の呪縛に囚われて
やる前から諦めていたことを
自分の研究が何一つ進んでいないことを
君は成果を認められ助教に昇格した
僕は相変わらず博士論文に追われている
やばいやばいやばいやばい
僕は慌てて自分の研究課題に取り掛かった
何度もやり直し躓きながら夢中で研究に取り組んだ
そして10年ほどが経過した今は
僕は君と同じ壇上で学生達に
ゲーテルやアインシュタインを教えている
学会後の飲み会で君に聞いた
不完全性定理や不確定性原理を知った時に
どうして絶望せず研究を続けられたのか
どうしてそんなに理性的でいられるのかと
君はフフフと可笑しそうに笑う
"全くあんたは感情的な男だねw"
小馬鹿にしたような態度に僕は少し怒った
"僕のどこが感情的だって?"
"僕はいつでも理性的であろうとしてるさ"
"ほらほら、そういう所だってばw"
理性的でありたいなんて固執する奴は
理性という名の感情に支配されてるのさ
"そうだね、もし私に理性があるとすれば
理性的でありたいという感情の強さが
あんたより少しだけ大きかっただけだよ"
"元々はあんたに教わった感情だけどね"
君は僕が思う以上に僕をみていた
僕の悩む姿をみて君も同じく悩んでいた
君は僕より少しだけ先に答えが出せただけだった
君の忠告を僕は聞いちゃいなかったみたいだが
"研究なんて所詮人間の所業だ"
"人間のやることなんて不完全で当たり前だ"
"未来が不確定性な事実は決して
未来を知ろうとする努力とは矛盾しない"
君も僕も自分の未熟さを自覚できたから
世の中の矛盾や不条理を経験できたから
今もこうして夢を追いかけることができる
限界に挑戦することができる
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かつて僕は信じていた
無理難題に直面しても
どこかに答えはあるはずだ
努力さえすれば辿り着くはずだと
その仮説は肯定的に証明された
なぜなら僕は現に挑戦できている
どこにも答えが無かったとしても
努力した分だけ真実に近づける
かつて僕は信じていた
神はきっとサイコロを振らない
その仮説は肯定的に証明された
サイコロを振るのは神ではない
どんな結果でも答えを出そうとして
必死にもがく自分自身だ
箱を開ける前は観測できないけれど
猫は必死に生きようと足掻いている
そして僕達は信じている
君は確かにそこに実在する
僕も君と同じ瞬間を生きている
その仮説は肯定的に証明された
限界に挑戦している限りは
僕らの存在理由は明白だ
2人掛かりで挑戦しているのならば
2人がそこに実在するのは明確だ
そして僕達は信じている
かつて見た夢を叶えることを
迷信や陰謀に騙されない世界を
不安と後悔を取り除くAIの開発を
その仮説が肯定的に証明されるまでは
僕は足を止めることは無いだろう
例え僕の寿命が尽きたとしても
僕らの子供達に夢を託そう
かつて僕が語った拙い夢を
君も子供達も認めて協力してくれる
僕が信じる理由はそれで十分だ
これほど強い根拠があるだろうか
将来もしも新たな定理が発見されて
信じているものがまた崩れたとしても
真の意味で負けることはない
理性という名の感情論がある限り
Q.E.D.