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05:大石モモの場合。

 金曜日のお昼休み。俺は決まって屋上に来ていた。


 まあ金曜日じゃなかろうと火曜日以外の平日の昼休みは屋上に行くんだが、金曜日以外は必ず連絡が来る。


 でも金曜日は連絡が来なくても行かなくてはならない。金曜日以外だと連絡が来なかったからと言い訳できるのだが、いや連絡が来なかった試しはないが、金曜日は行かなかったらかなりヤバいことになる。


 屋上に入ると、スカートなのに片足を座っているベンチにあげて黒のパンツが見えている少し先端が黒の長い金髪の女子生徒が、眉間にしわを寄せて焼きそばパンを食べていた。


「おい! おせぇぞ!」

「いや無理を言うなよ。さっき授業が終わったばかりなんだぞ?」

「は? そんなことあたしが知るわけないだろ」


 これですよ。この不良女子生徒、大石モモは自分がサボっているから早くここに来れるだけで、こちらの都合なんて聞いちゃくれない。


「ほら、そこに立ってないでこっちに座れ」


 バンバンと自身の隣を叩く大石に渋々従って、大石と少し距離をあけて座った。


「ふざけてんのか? こっちに来い」

「……はい」


 距離をあけて座ったことで大石は人を殺しそうな目をして俺にそう言ったから、大人しく大石との距離を詰めた。


 というか、佐倉、椿先輩、日向、木間、大石の全員が距離をあけて座ろうとしたら詰めて来るか詰めさせるかのどちらかなのだが、距離をあけて座らせてほしいんですけど。


「大石、また授業をサボったのか?」

「当たり前だろ。どうして授業なんて受けないといけないんだよ」

「卒業するためじゃないか?」

「でもダンジョンに潜って成果を出せば、卒業させてくれるんだから授業に出るだけ無駄だろ」


 大石の言う通り、ここは冒険者を育成する場所であるから、積極的にダンジョンに潜りそれ相応の成果を上げていれば授業をサボったとしても単位は貰えるのだ。


 それはゲームの時でもそういう制度があって、俺はダンジョンにかなりの頻度で潜って、レベルも上げて単位ももらえていた。


 まあその代わり知性が育てられないのが欠点だったな。それに友人たちも離れて行くという恋愛ゲームではありえない選択肢だ。


 ほぼダンジョンに向かう修羅ルートなら、冒険者ランクもSが簡単に取れる。大石もSだ。


「レンも一緒にダンジョンに行けばいいだろ」

「バカ言うな。俺はちゃんとモブをしているんだから授業は真面目に受ける」

「またそれかよ。いい加減に諦めろよ」

「俺はモブとして生きてモブとして死ぬんだ。それ以外認められないな」

「こうしてあたしと話しているからもうモブじゃないだろ」

「そんなことは周りが認識してなかったら意味がないんだよ」

「そうか」

「言っとくが、無理やり周りにばらすのはやめろよ」


 俺と密かに合っているゲームヒロイン五人の中で、一番モブライフを脅かす危険性があるのはこの大石だ。


 あれだな、何をするのか分からないから怖いんだよな。


「もう無理やりバラしていいか?」

「そんなことをしたら学校をやめるから」

「けッ! それはつまんねぇからな」


 何をするのか分からないが、こうして何とかやめてもらえている。


 でもいっそのことこの学校をやめれば彼女らとの関係が消えるのではないかと思っているまである。


 それは本当に最終手段で、学校をやめたらモブじゃなくなる可能性が高くなるからな。だって学校辞める奴ってモブじゃないやん。


「ま、そのうち気にならないように何とかしてやるよ」


 あー、背筋が凍る感じを大石からはあまり感じないのにひしひしと感じるなー。


 本当に皆殺しとかしそうで怖いんだが、そこはちゃんと倫理を持っていると信じたい。


「そんなことよりもメシだ」


 大石は片手で持っていた食べかけの焼きそばパンを俺に向けてきた。


「……またするのか?」

「何か文句あるのか?」

「いやぁ、文句しかないと思うが……」

「それでも食え」


 大石の鋭い眼光に耐えれるわけもなく、大石が向けている食べかけの焼きそばパンを一口食べた。


「〝あたし〟の焼きそばパンはうまいか?」

「普通にうまい」

「あたしの味はするか?」

「どんな味だよ」

「エロい味?」

「そっちの方が意味不明だぞ」


 特に大石の味とかするわけもなく、焼きそばパンの味がする。でも間接キスというものは童貞の俺が妄想するほどには危ないものだ。よく分からんな。


「あむ……ほら、もう一回食べろ」

「何でまた食べるんだよ。この件何回目だよ」

「あたしも腹が減ったからだよ。てか、レンが何回もごねてるだけだろ」

「ごねてるわけじゃない、誰でもそう思うだろ。てか別々に食べたらいいだろ。半分にするとか」

「は? あたしの食べたものがイヤだって言いたいのか? あ?」

「そんなことは言ってないだろ」

「なら食えよ。それとも、童貞丸出しでドキドキしてんのか?」


 ニヤニヤと俺の顔を見てくる大石。


 だがそれは当たっているから否定できない。


「そうだよドキドキしてんだよ。だから勘弁してくれ」

「無理に決まってんだろ。さっさと食べろ」


 こうやって大石とご飯を食べるようになって、毎回間接キスやあーんを強要されている。


 だけど俺は全く免疫が付くことはない。これはあれか、俺が童貞だからこうなっているのか?


 いつもより多くパンを用意していた大石と間接キス込みで食べ終えた頃には、お昼休みは終わり、授業が始まっていた。


 お昼休みが終わりそうだから、という理由では大石は解放してくれず、食べ終わるまで解放してくれなかった。


「はぁ、途中で入るのは目立つよなぁ……」

「目立つだろうな。だからここであたしと一緒にサボっていればいいんだよ」

「ダンジョンに行かないのか?」

「お前、あたしがずっとダンジョンに行っていると思ってんのか?」

「実際俺と会う以外ダンジョンに行っている印象はあるな。ダンジョンから帰って暇だったら俺のところに来てるのか?」

「そういうことじゃねぇよ。レンに会えなかったらダンジョンに行ってんだよ」

「俺に会えない時ってどういう時だ? そもそもそんなに会わなくていいんだが」

「お前がモブをしている時は会えないだろ?」

「まあ、それはそうだが」


 一応大石も俺がモブをすることに配慮してくれていることに最初は感動したなぁ。


「あ~、ちょっと眠たいからあたしは寝る」


 そう言いながら大石は俺の膝に頭を乗せてきた。


「これ、普通は逆じゃないのか?」

「どっちでもいいだろ。それとも何か、あたしの膝を使いたかったのか?」

「そういうわけじゃない」

「あ? あたしの膝枕はイヤだって言ってんのか?」

「そういうことじゃねぇよ。俺の膝を使っても硬いだけだろ」

「あたしはこの硬さがちょうどいいからな。というわけであたしは寝る」


 振り回してくるのは椿先輩と木間後輩だけで十分なのに、大石同級生まで振り回して来たら一年生から三年生までコンプリートしてしまった。


「えっ……早くないか?」


 いつの間にか大石が寝息を立てていた。


 さっきまでの時間で数十秒も経っていないのに寝るとか、のび太君かよ。でももしかしたらウソかもしれないから、試しに頬を少し触ってみる。


「んっ……」


 起きない。なら胸を、とかそういうことをできない俺は童貞なのだ。


 そもそもそういうことをやって起こしてキレられるのが見えているから俺はやらない。


 まあ、ためにはこういうこともいいか。こうして心地いい風に当たるのも悪くない。


 不意に大石の頭を撫でたい衝動に駆り立てられ、優しく頭を撫でる。


 少しびくっとして大石が起きたかと思ったが、そうではなくホッとしながら続行する。


 こうしていると前世で飼っていた犬が、コタツに入っていると膝の上に来て撫でを要求してきて満足するまで撫でる光景を思い出した。


 こっちは要求して来てないが、まあ同じような物か。


 ☆


「んっ……?」

「よく寝たか?」


 目を開けるといつの間にか横向きで寝ていたし、何だか柔らかいものが頭の下にあった。そして上から大石の声が聞こえてきた。


 どうなっているのか一気に覚醒した頭で理解して、恐る恐る声の下方向に顔を向けた。


「あたしの膝を使うとは、高くつくぞ?」


 どんな顔をしているのか分からないがおそらくニヤリとしているのだろう。そしてなぜ見えないのかと言えば、大石の大きな胸が遮っているからだ。デカすぎだろ、こいつ。


「……何で大石に膝枕していたのに大石に膝枕されてるんだ?」


 いつの間にか位置が変わっていたのは疑問だ。


「それはレンがあたしを膝にのせているのに寝ていたから、可哀そうに思ったあたしが寝かしてあげたんだよ」

「寝てたのか、俺。それは悪いな」

「そう思うなら言うことを一つ聞け」

「俺ができる限りのことならいいが……」

「明日、あたしと一緒にダンジョンに行くぞ。それなら問題ないだろ?」

「……あぁ、ないな。でも俺はモブだから大石に付いて行けないぞ?」

「そういうのはいいから」


 俺はモブとして生きたくて、それに日向以外の彼女らには俺の実力を見せていないはずなのに大石はこう言ってきている。


「ま、あたしが行けるところまでしか行かないから、遠慮なくあたしについてこい」

「それは頼もしいことだな」


 特に土曜日は予定もないし、いいか。

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