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03:日向瑞希の場合。

 この学校、国立冒険者育成学園は名前の通りダンジョンに入る者たち、冒険者を育成するためにダンジョンの真上に建てられた学校だ。


 何で真上なんだとか、何で育成されているやつがダンジョンの上にいるんだよとか、ゲームをしている時につっこんでしまったが、それはゲームのご都合主義というものだ。


 ただダンジョンからモンスターが大量に溢れてきても、冒険者たちが外に必ず一定数待機しているから危険なことにはならない。


 それに俺みたいなダンジョンに行きたいやつにはこの場所はかなり近くていいし、何なら育成するためにダンジョンに潜るのはかなりスパルタだが効果があると思う。


 そしてそのスパルタの象徴たる授業が、俺のクラスが今受けている『ダンジョン実戦』という授業だ。


「準備はできているな。それなら二人から五人のパーティーになれ」


 はい出ました、俺がもっとも嫌いな言葉ですよ。


 俺はモブであり、どんな繋がりでネームドキャラと出会うか分からないからボッチを貫いていたから、こういう言葉はかなりイラッとする。


 別にモブになろうとせずにいたら、友達はいたんだよ? でもこういう世界だからボッチになっているだけだ。決して言い訳ではない。


 さて、そんな二人から五人のパーティーになれと言われても、パーティーを組むことができずにどこかのパーティーに嫌な顔されながら組むことになるだろう。


「レンくん、パーティー組も?」

「組むぅ!」


 そう声をかけられてすぐさま答える俺。その声の主は誰か分かっているし、何なら彼女しか声をかけてくる人はいない。


 暗い紫色の髪をショートカットにした大人しそうな女子生徒、日向(ひなた)瑞希(みずき)がそこにいた。


「いやぁ、いつも悪いな」

「ううん、私がレンくんと組みたいと思っているだけだから」

「俺以外の人と組んだことは?」

「レンくん以外と組む気はないよ」

「俺と同じボッチなのか」

「うん、そう。だって、レンくん以外いらないもん」


 おっと、少しだけ背筋がぞくっとしたね。


「全員組めたようだな。それじゃあこれから二時間、ダンジョンでLv20以上のモンスターの魔石を一人十個を目標とする」


 誰一人としてあぶれることなく全員がパーティーを組めたことで、先生がそう宣言した。


「Lv20……私たちなら余裕」

「俺たちなら50くらいなら余裕だな」


 周りがざわついている中、俺と日向は余裕をもって話していた。


 そもそも五十階層以上潜っている俺が五階層までのモンスターに苦労するわけがない。


「ねぇ、レンくん」

「何だ?」

「今日、椿先輩が家に来た?」

「あー、そうだな。来たな」


 モブだと自他共に認知されているはずの俺に接触してくる佐倉、椿先輩、日向、残り二人は俺がいる時は会いはしないがそれぞれが知っていると聞いた。


 だからこうして生徒会長の椿先輩が俺の家に来ていることも不思議ではないのだが、どうしてそんなことが分かったのだろうか。


「何で分かったんだ?」

「さぁ、どうしてだろ」

「勘か?」

「それは少し違うかな。女の勘、が正しい」


 何だかこれ以上踏み込むのは良くないと思ってそれについての言及は止した。


 それに俺と会話している間、少しずつ距離を詰めてくる日向に、半歩横に移動すると急に俺と距離をゼロにしてきたことで、日向にすぐに口を開いた。


「近くないですか?」

「そう、かな?」

「近いです、すぐに離れてください」

「うーん……無理」

「いや約束が違うだろ。こんなことをされたら目立つ」

「私は目立たないから大丈夫だと思う」

「目立たないわけがないだろ。日向は可愛いんだから注目されていることを知らないのか?」

「か、可愛い……ありがとう」

「そういうところも可愛いんだよね。だから離れてくれませんか?」

「バレなければ、いいの?」

「……まあ、そうだけど」


 昼休みとか、家とか、注目されなければ、俺がモブとして周りが認識してくれるはずだから、そう言われればそうだ。


「それなら大丈夫。私たちの周りに幻覚魔法をかけているから」

「……もし誰かにバレたらどうするんだよ」

「バレないようにしているから大丈夫」

「そういうことじゃないんだが……まあそれならいいけど」


 俺が承認した瞬間、俺にもたれかかってきた日向。


 これは完全に俺のミスだ。バレなければいいという前提を元に日向たちと接しているということは、こういう状況でもオッケーということになるわけか。


 くっ、上手すぎて考え付かなかった。これはもう日向の術中にハマったと言うことで大人しく認めよう。


 それにこんな状況にできるのは日向しかいないから、日向以外で考える必要はない。


「よし、心の準備ができた者からダンジョンに入ってくれ」


 こういうところがこの学校のスパルタなところだ。


 普通なら育成するのだから誰か大人がついてくるはずなのだが、この学校ではダンジョンでは誰であろうと学校側は手を出さないのだ。


 さすがにダンジョンの知恵、武器の扱い方などは教えてくれるものの、ダンジョンではすべて自己責任を学校側が言っている。


 俺としてはそれがありがたいからいいのだが、実際に死人は出ているのに方針は変えない。


 入学前にそういう同意書にサインを書いているから学校側は何も責任を取らない。


 とんでもない学校だが、その方針のおかげで卒業生は他の育成学校よりも強いのだ。


「レンくん、行こ」

「あぁ、行こうか」


 五層程度なら装備を着ずに体操服でいいのだが、それだと目立つからちゃんと周りと合わせたライトアーマーを着ていた。


 一方の日向は魔攻を上昇させるローブに宝杖を持って、完全に魔導士タイプの格好だ。


 クラスメイトたちの波に乗りながら、俺と日向はダンジョンへと続く階段を下っていく。


 さりげなく周りを見ると、この世界の男主人公がいつもの二人の友達と談笑しながら歩いているのが見えた。


 ……あれ? そう言えば彼が女の子と一緒に歩いているところを見たことがないな。教室以外にも見かけるが、すべてあの友達二人と一緒にいる。


 もしかして、青春ルートですか。かーっ! そんな色のないルートを選ぶのなら俺の隣にいる日向とか佐倉と仲良くなってくれませんかね。


「どうしたの?」

「いや……日向は彼と話したことがあるのか?」

「彼……? いつも友達二人と仲良くしている人のこと?」

「そうだな」

「ううん、喋ったこともないし興味もないよ。それがどうしたの?」

「あ、そっか……」


 うーむ、確か男主人公は二年生までにはヒロイン全員と絶対に顔見知りになっているはずなのにどういうわけかそうなっていない。


 ダンジョンばかり潜って色恋沙汰をすべてしてこなかったプレイヤーの俺ですら、全員と顔見知りになって連絡先を知っていたから誰がヒロインとか顔は知っていた。名前は忘れていたけど。


 佐倉たちにはそのことを聞いたことがないから、もしかしたら日向だけなのかもしれない。


 知り合っていれば、ワンチャンあるかもしれない。男主人公には恋愛ゲーム特有の好感度補正がかかるから、そこから俺みたいなダメなやつと比較してあちらに向かうかもしれない。


 あれ、そう考えたら案外行けそうな……。


「私、離れないから」

「あっはい」


 まるで俺の考えなどお見通しと言わんばかりの言葉を俺に向けてきた日向。実際は日向の目は何を考えているのか分からないものだったが。


 二階層まではLv10までのモンスターしかいないから少し人が離れているが集団で向かっていたが、三階層からはパーティーごとに動くことになる。


「何階層に向かう?」

「五階層で十分だろう。五階層ならLv20以上は必ずいる」

「分かった」


 慎重に向かっている大半のパーティーとは違い、俺と日向は走り始めた。


 もちろん俺が本気で走ればすぐにでも五階層なんてたどり着けるが、そこは日向に合わせているものの、日向もレベルが100近いから秒でかなり早く五階層にたどり着いた。


 本来なら日向がこんなにレベルが高くはない。精々が卒業までに40くらいだったのに、もう少しで100とかどういうことなのか分からない。


 ちなみにダンジョン攻略しかしていなかった俺がどうしてそのことを分かるのか、それは一年に一回行われる冒険者ランク試験があるからだ。


 これで気になってネームドキャラのレベルを見ていたから知っていた。


 最初はEから始まり一番上がSで、この試験の結果で実力を発揮すればランクが一つも二つも上げることができる。


 俺はモブとして一年の時の試験でEからDにあげている。日向はすでにA、佐倉もA、椿先輩はSという非常にエリートさまたちだ。


 すでにギルドから勧誘されているとか。


 五階層にたどり着き、すぐにモンスターが現れた。


 ブラックドックやウォーターキャットなど、地上にいる動物が元になっているモンスター、魔獣型モンスターがわやわやと現れた。


「いつも通りで構わないな?」

「うん、後ろは任せて」


 彼女たちに後ろを任せるのは非常に抵抗があるのだが、日向とパーティーを組んでいる以上仕方がない。


 命に関わる危険ではなく、身の危険をひしひしと感じるのはどうしてだろうか。


 とにもかくにも、腰に携えていたランクが低い刀を抜刀する。


「スピップ」


 日向からの魔法で俺の速度が上昇するのを感じながら、一瞬で数十体といたモンスターたちを斬り伏せた。


「まだ来る!」

「分かっている」


 日向の声を聞かなくても、どこからともなくモンスターが出現した。


 壁や地面から出て来るとかじゃなくて、突然現れるというところが実にゲームらしいモンスターの出現方法だ。


「スピウン」


 出現したモンスターたちは日向の攻撃によって動きがほぼなくなるくらいに遅くなったことで、その間に俺は出現したそばからモンスターを倒して魔石にした。


「ナイス日向」

「うん、レンくんもナイス」


 俺一人でも楽勝で、日向一人でも楽勝な階層だが、二人で倒すということは少しだけ嬉しい感情が湧いてくる。


「やっぱり一瞬で終わった」

「俺と日向のコンビネーションの勝利だな」

「私と一生一緒にいたいってこと?」

「どう解釈したらそうなるんだ?」


 散らばっている魔石を集めるのに便利な道具、魔石回収石を使いここら一帯の魔石をすべて回収した。


 それらは優に二十は超えており、これで三つ分の授業は残り自由時間になった。


 ダンジョンに来たのだからダンジョン踏破個人記録を更新したいところだが、日向が一緒にいるのだからそれはできない。


 日向には俺に本当の実力を言っていないが、日向より弱いくらいだと伝えているから少し下くらいは行けるか。


 まあそれは日向が同意してくれれば、という前提を元に成り立っているが。


「どうする? このまま帰るか?」

「ううん、もう少し行きたい」

「そうか。それなら行こうか」


 意外だ。前回はすぐに帰ったのに、今回はいいのか。


「……だって、ここは無法地帯」

「無法地帯? どういうことだ?」

「ううん、何でもないよ」


 確かにほぼ無法地帯に近いが、日向の言っていることがあまり分からない。


「ダンジョン、デートだね……!」

「ダンジョンでデートするよりもショッピングモールに行った方がいいだろ」

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