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02:椿冬花の場合。

「んぅ……ッ!?」


 枕元にある目覚ましの音で、俺が目を開けるとカーテンを閉めているとは言え陽の光で真っ暗ではない部屋で、ベッドで横になっている俺の方をジッと見ている目ん玉二つがあった。


「……椿先輩?」


 寝て起きたら誰かいて俺の方を見ているというホラー体験をしながら、俺の方を見ているのが知り合いだと分かった。


 長い黒髪をポニーテールにしている一つ上だけだと言うのに色香を纏っている女性、椿冬花先輩だった。


「あら、起きたのね。おはようレン」

「……あの、ビビるんで黙って見ているのはやめてくれませんか?」

「ふふっ、そうね。かなり驚いていたわね」

「こっちは面白くないんですよ……」


 面白おかしく笑っている椿先輩に勘弁してくれと思っていたら、何だか俺の口周りが少しネバっとしている。


「涎が垂れてたのか」

「えぇ、唾液ね」

「えっ、涎では?」

「いいえ、唾液よ」

「あっはい」


 何だそのこだわりは。まあ唾液だろうと涎だろうと変わらないからいいんだが。


「あれ……この寝間着で寝ていたっけ?」

「私が見たときはそれだったわよ」

「……まあいいですけど」


 昨日着て寝た服が違っているような気がするんだが、一々そんなことは気にしないからいいんだが。


「朝食を作ってくるわね」

「あっ、ありがとうございます」

「いいのよ、私が好きでやっていることだから」


 椿先輩が部屋から出て行ったが、何だろうこの違和感は。


 ……はっ! 朝勃ち、していない、だと……!? まあ最近はずっと朝勃ちしていなかったからな。特に違和感ではなくなってきている。


 もう俺も年か。朝勃ちしなくなったのは悲しいことだが、俺には不必要な機能だから寂しさだけが残っている。まるで我が子が巣立ちしたような……我が子はいたことないけど。


 というか最近、俺の性欲がヤバいんだけど。全くたたなくなったのはかなり問題ではないだろうか。俺まだ現役の男子高生だぞ?


 そう思いながら身支度を済ませてリビングへと向かう。


「座って待ってて」

「はい」


 エプロン姿で料理をしている椿先輩はこの世界のヒロインの一人で、生徒会長で先輩枠に入っている。


 言わずもがな、佐倉のように俺は椿先輩にモブという最大の弱点を握られているから合鍵を渡して自由に俺の家を行き来できるようにしてある。


 というか俺の家の合鍵は合計で五つあって、すべて俺の手元から離れている。


 モブを貫きたい俺としては椿先輩とこうして関わるのも嫌だし、どうにかして縁を切りたいのだがそれができないから困っている。


 何なら佐倉よりも手強いぞ、この人。


 生徒会長ということは、この学園で最も強く人気がある人だから、何をしてくるか分からない。


 というか佐倉もだが、俺みたいなモブといて何が楽しいんだか。罰ゲームか何かか? それならやめてくれ、ということを奴らに言ったら全員にもれなく何を考えているのか分からない目をされて『どうしてそう思ったのか』と聞かれてちびりそうだった。


 まあこの際理由はどうでもいいが、どうせだから男主人公にこういうことをしてほしいのだが。


「あー……椿先輩は気になる異性とかいないんですか?」

「急にどうしたのかしら?」

「あー、いや、椿先輩くらいになるとどんな異性が好きなのかなぁって」

「レンくんかしら」

「ははっ、またまたご冗談を」

「冗談、だと思う?」


 振り返った椿先輩の目を見て、俺は何も言えなくなって違う方向を見た。


「逆にレンくんは気になる異性はいないの?」


 うん、何だか嫌な予感しかしない質問だが、ここはハッキリと言わねば!


「俺みたいなモブで普通な人ですかね!」

「それは無理だと思うわよ」

「何でですか。そんなこと分からないじゃないですか」

「そもそもあなたがモブじゃないもの」

「失礼な、学校での俺を見ればモブだと分かりますよ」

「えぇ、それは分かっているわ。でもこの状況がモブだと言えるの?」


 確かに言え、いや待て! こうなっているのはすべて椿先輩たちのせいではないか?


「後輩を助けると思って、俺と関わるのを少しやめてみませんか……?」


 ここは真摯にお願いしてみよう。そうすれば椿先輩も分かってくれるはず!


「どうしてそんなことを言うのかしら?」


 言葉だけを見れば疑問を口にしているだけだが、振り返ってこちらを見る椿先輩の表情と何を考えているのか分からない目、声色を聞いたら背筋が凍る。


「ねぇ、答えて?」

「あ、いや、その……やっぱり椿先輩にこうやってお世話になるのは申し訳ないなと思って。それにこのままだと俺の生活力が鍛えられないので……」


 恐怖しか感じない椿先輩の言葉で、俺はとっさにそう言った。


「あら、そんなことを気にしなくていいのよ? だってこれからずっと私がお世話をしてあげるから」

「そ、そうですか」

「そうよ。レンくんは何も気にしなくていいわ」


 ふぅ、何とか椿先輩は元に戻ったな。でもその代わり変な方向に行った気がするのは気のせいであってほしい。


 うん、こういう時は何も考えないようにしよう。今は椿先輩のエロいうなじとかすらっとした足を見て目を休めよう。


「レンくんはもうモブのフリをやめれば楽だと思うわよ」

「フリって、もう少し言葉を選んでください」

「ならモブもどき?」

「いやあまり変わらない気がするんですけど。せめてモブと言ってください」

「それはそれで違うと思うけれど……まあいいわ。それでやめる気はないの?」


 そのことを佐倉にも言われるのだが、どうしてモブをやめさせようとするのだろうか。そもそも俺は生粋のモブなのだからモブをやめろと言われてもやめれないだろ。


「モブはどこまで行ってもモブですから。そもそもこういう状況がおかしいんですよ」

「レンくんがモブを好きなのは分かったけど、モブでいいことなんかないわよ」


 いやあるんです。イベントに巻き込まれないのが一番の理由ですけど。


 でもこの状況だとイベントに巻き込まれそうだなぁ。あれ? それならモブとして動くのは意味なくないか? いや考えるのは止そう。心が折れる。


「俺はモブがいいんです!」

「はいはい。それは来世で頑張りましょうね」


 うーむ、前世がある俺にその発言とはかなりレベルがたけぇな。


「はい、できたわよ」


 俺と会話している間にも朝食を作る椿先輩。


 今日の朝食は俺がリクエストしていた焼き鮭がある和風朝食だ。


「いただきます」

「召し上がれ」


 正面に椿先輩が座り、俺と同じ朝食が椿先輩の前にも置かれている。


 椿先輩に見られながら朝食を口にする。


「おいしいです」

「そう、ありがとう」


 ……思ったんだが、どうしてみんなニコニコしながらご飯を食べている俺を見てくるのだろうか。そこに何か意図があって怖いな。


「そういえばレンくんのクラスは今日、ダンジョン実戦の授業があったわね」

「あー、そうですね。いやぁ、モブにとってダンジョン実戦はキツいですよ」

「それなら生徒会に入ればいいわよ。生徒会に入れば授業をサボれるわ」

「そんなことで生徒会に入ったらダメでしょ。それに俺は強くないですから無理ですよ」


 生徒会は学校の真下にあるダンジョンから出てくるモンスターの排除ができなければ入れない、という条件がある。


 それはゲームの時でもそうで、一定の強さがなければ生徒会に入れないようになっている。逆に圧倒的な強さがあれば、椿生徒会長からお誘いが来るというイベントはやったことがある。断ったけど。


 だからこそ生徒会では授業を抜け出す理由ができるのだ。


「大丈夫よ、ずっと私のそばにいれば安全だから」


 この学園で俺を除いた生徒や先生を含め、一番強いのは椿先輩だ。それは『鑑定』をして分かる。


 ちなみに俺はステータスがバレないように一番初めに『偽装』のスキルを取っているが、俺みたいな目立ちたくないけど強いやつ以外は不要なスキルだ。


「……それなら、あいつらを近づけさせない」

「ッ!?」


 その言葉だけで、俺は全身を震え上がらせてしまった。

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