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09:ヤンデレのヒロインたち。

 大石が柄でもないのに俺の腕に抱き着いている状態で歩きながら、俺はゲームヒロインたちのことを考える。


 俺が知っているゲームヒロインは全部で八人。あまり恋愛方面でゲームをしていなかったからそれが本当かどうかは分からない。


 ただ、佐倉春香・椿冬花・日向瑞希・木間由美・大石モモ以外にまだ三人ゲームヒロインを知っているが未だに遭遇していないのが幸いだ。


 確か残りの三人は、断れない女子生徒と、姉御肌な女子生徒と、堅物な女性だったはずだ。


 別に会いたいわけでもないが、俺が遭遇しているゲームヒロイン以外がどうなっているのかが気になるだけだ。


 そもそも『恋とダンジョン』は美少女ゲームではなく恋愛ゲームであり、男主人公に対してヒロインがいるように、女主人公に対してヒーローがいる男女向け恋愛ゲームだ。


 それなのにゲームヒロインたちが俺が知っているだけで八人いるとか多すぎだろ。確かにあのゲームは莫大なデータ量があったな。それが一時話題になっていたこともあったか。


「何を考えてんだ?」

「大石の胸が柔らかいなぁって考えていたんだ」

「それならもっと味わえ」


 俺の腕に幸せが押し寄せてくる。


 こういうことをゲームヒロインたちに言っても、大してききやしない。最初はセクハラとか、そういう発言で幻滅させようとしていたが、全くきいていない。


「ほらほら、レンが知らない間に味わっていた胸だぞ~?」

「知らない間ってどういうことだよ。……もしかしてヤバいことをしてるのか? 言っとくが俺は――」

「――NTRなんて誰がするかよ。気持ち悪い」

「……テレパシー?」

「はっ! レンのことなんか何でも分かるぞ?」


 本当にどういうことだよ。えっ……もしかして俺のエロ本を分析されたか? いやそれを見られた時点でもう俺は学校をやめる。今はやめることも難しくなっているが、無理やりやめてやる。


「そういうのは不公平だろ」

「何がだ?」

「こっちだけ知られて、そっちだけ知られていないのは気分は良くないだろ。だから俺のことは知人程度に忘れてくれ。そうすれば公平だ」

「分かった。今日からレンはあたしの家に住めばいい。そうすればあたしのことを、体中のほくろがどこにあるかまで教えてやる」

「……いやいや、体中のほくろなんて誰も知りたいと思わないだろ。それにそういうことを言っているわけじゃないから」

「あたしはレンのほくろがどこにあるのか、レン以上に知っているぞ?」


 もうそれ以上話題を広げるのが怖くなったからそれ以上言わないことにした。


 もう帰って寝たいと思うほどの疲労を抱えつつも、俺と大石がたどり着いたのは校舎から出て少し歩いたところにある冒険者ギルド学園支部の建物だった。


 冒険者ギルドは冒険者を厳格に調査してランクを定めたり、国中の冒険者に対しての依頼を適正な冒険者に割り振ったりする国が管理する組織だ。


 この国立冒険者育成学園は冒険者を育てるために作られているから、冒険者ギルドの支部があっても何らおかしくない。


 つまりは、この支部が俺のSランク冒険者というバカげたものを出したということだ。


 何だかそう考えると腹が立ってきたな。こいつらさえいなければ俺はSランク冒険者にならずに済んだのに。まあそんなことを言っても仕方がない。


「ここで、知りたいことを知れるのか?」

「あぁ、知れるぞ」


 何だか知ったら知ったで後戻りができないような気がしなくもないが、どうしても理解しておかないといざ記憶を操作する魔道具が何か条件があるかもしれないし、単純に知りたいし。


 冒険者ギルド学園支部に入ると、エントランスが目に入り、椿先輩、佐倉、日向、木間の四人がいて、その近くに見覚えのある女性がいた。


 長い黒髪に眼鏡をかけた知的で、高圧的な雰囲気を纏った女性だった。


 この女性は確かゲームヒロインの一人で、堅物の女性だ。名前は知らないが、冒険者ギルドの職員だったから、ゲームをしている時にSランクを獲得した際に登場していたのは覚えている。


 それがどこかの記事で隠しゲームヒロインだと見て驚いたのも覚えている。


 俺がそちらに向かうと、まず椿先輩たち四人が大石に視線を送り、それを得意げに鼻を鳴らす大石。


「離れなさい、モモ」

「断る、って言ったら?」

「今はまだ協定の範囲内のはずよ? それを破るのなら、あなたはここにいる私たちと相手になることになるだけよ」

「……チッ、分かったよ」


 椿先輩と大石が会話したことで大石は俺から離れてくれた。


 それで一安心したところで、眼鏡の女性が言葉を投げかけてきた。


「初めまして、白木レンさん。私は冒険者ギルドに所属している筒路(つつじ)五月(さつき)です」

「どうも、白木レンです」


 何だか筒路さんは疲れている様子なのだが、それがゲームヒロインの仕業だと思いたくはなかった。


「この度はSランク冒険者の実力を拝見させていただきましたので、白木さんをSランク冒険者に任命させていただきました。今回はSランクでできることなどをご説明します」

「……その実力とやらを、見せた覚えはありませんが?」

「あなたはそうでしょうね。私たちはあなたに気が付かれないように動いていましたから」

「……ここにいるあなたたち、ですか?」

「……お察しの通りです」


 あぁ、やっぱり椿先輩たちによって疲れているんだな、筒路さん。何かごめんね?


 でもこれでSランク冒険者の件が椿先輩たち五人の仕業だと理解した。そもそもそんなことができるのはこの五人しか俺は知らないからな。


「どういうことだ?」


 この五人の中で誰にこのことを聞くのかを考えた時、まず椿先輩と大石は除外される。


 話しやすい佐倉か、同じ波長の日向か、後輩の木間の三人になってくる。まあ即座に少しは偉そうに言える木間にしたのだが。


「えぇっ!? この中で私を選んでくれたんですね先輩!」


 他の四人を煽るかのようにそう言ってくる木間。


 これは素直に佐倉にしておいた方が良かったな。


「それは私から説明するわよ、レンくん」

「あっ、はい。お願いします」


 なぜこちらに聞いてこなかったのかと視線で訴えかけてくる椿先輩によって説明が始まった。


「私たちはずっとモブとして生きていたいと言っていた割には実力が誰よりもあるレンくんを、Sランク冒険者にするためにどうするかを考えていたの」


 そんな恐ろしいことを考えて、恐ろしいことになっているのか。


「本来なら年に一回行われる冒険者ランク試験でランクを上げることができるけど、Sランクの実力を持っているとなれば話は変わってくるわ」

「……そうなんですか?」

「えぇ、Sランク冒険者はその国にとっての宝であるから国は手放したくない。だからSランクの証拠があれば動いてくれるのよ」

「証拠? ……ドロップアイテムとかですか?」

「そんなものじゃ冒険者ギルドは動かないわよ。答えは映像よ。レンくんがダンジョン攻略している姿を盗撮して冒険者ギルドに送ったの」


 えっ、そんな時あったか? 俺が気が付かないわけが……いや、俺の知らないレアスキルならできるかもしれない。


 俺の弱点のノーマルスキルしか習得できないということは、それに対抗されてしまえば俺に気が付かれないことだって可能だ。


 こういう時、このモブの体質が嫌になると同時に、羨ましくも感じてしまう。


「後でスキルのことは教えてあげるわ」

「お願いしますっ!」


 一応、念のため彼女らのスキルを知っておく必要がある。だって対策ができないし。


「それで、冒険者ギルドはその映像を見て真偽を確かめるために、筒路さんを調査に派遣してきたことで、私たちと一緒に筒路さんの目でレンくんがSランク冒険者の実力があるのかを、確かめましたよね?」

「えぇ、この目でしっかりと確認しました」


 椿先輩たちが筒路さんを護衛して、俺の実力を見せたということか。


 Sランクの椿先輩だけでもいいと思うが……まさか、そういうことなのか?


「分かったようね。そうよ、春香、瑞希、モモ、由美の四人はSランク冒険者として登録されているわ。まだ発表されていないだけで」


 ウソだろ? ゲームではそんなことは絶対になかった。


 椿先輩はSランクは当然として、他の四人の成長も目を見張るものがあったが、それでもSランクになるとは思わなかった。


「……どうして、俺のモブライフを邪魔してくるんですか? 俺なんかよりもいい人はいるでしょうし、俺と美人な椿先輩たちでは不釣り合いです。いい加減に――」

「いい加減に、男主人公と仲良くしろって言いたいの?」


 俺が計画していたモブライフが一気に崩れ去ったことに対して、少しだけ怒りを吐き出そうとしたが、それを遮って佐倉が信じられないことを言ってきた。


 佐倉たちにはこの世界がゲームの世界だとか、甲子が男主人公だとか、そういうことは言っていない。それどころかそういうことを誰にも言っていない。


 それなのにどうして男主人公のことを……? いや、ゲームの世界だと知っているというわけではないか。


「どういうことだ?」

「隠さなくていいよ? この世界はゲームの世界で、甲子くんが男主人公なんだよね?」


 あぁ、知っているんですね。しかもそれに対して驚いているのが筒路さんだけと。


「意味わからないことを言うな。ゲームの世界? 頭がおかしくなったのか?」

「ふふっ、もう隠さなくていいのに。可愛いね、レンくんは」


 佐倉の微笑みを見てもうこれは確実に分かっていると分かったが、どうして分かったのかを知っておかないと何かまずい気がする。


 俺以外の誰かが転生者なのか、はたまた俺が自身の口から話したのか、俺の脳内を覗き見るスキルを持つ奴がいるのか。これが知りたい。


「心配しなくても大丈夫。全部レンくんが教えてくれたから」

「俺は教えたつもりはないが?」


 俺の表情で感情が分かったのかは知らないが日向がそう言ってきた。


「レンくんは誰にも教えてないよ。でも、レンくんの独り言や寝言を聞いたことはあるけど」

「……そんな人前で独り言なんて言っていないと思うが?」

「うん、言ってない。人前では。……もう、分かるよね?」


 つまりは俺が一人の時にこいつらは盗聴していたということか? 本当にプライバシーも何もないな。


「スキルか?」

「……どうかな?」


 教えるつもりはないということか。スキルならどうすることもできないが物理的な盗聴なら帰ったら探し回ろう。


「レン先輩、私たちがゲームの世界の住人で、私たちが男主人公さんのヒロインであることも分かりました。でも、それで私たちが男主人公さんとくっ付かないといけない理由にはなりませんよね?」


 木間の抑揚のない言葉が、俺の体を震わせる。


 というか俺が彼女たちを甲子に押し付けることを独り言で言ってしまったのを聞かれていたのだろう。


「レン先輩? 私のこと、好きですか?」

「……嫌いではない」

「なら好きなんですね?」

「そういうわけでは……」

「なら嫌いなんですか?」

「好きか嫌いかで答えるのが難しいだけだ。普通、という言葉が一番しっくりくるかもしれない」

「でもレン先輩は私がどれだけやっても嫌いにはなりませんよね? なら、好きですよね?」


 木間のことを、彼女たちのことを好きだと認めたくはない。


 好意を向けられているのは分かるけど、どうしても彼女たちと関わるとイベントに巻き込まれて俺が人生を楽しめない、という考えに至ってしまう。


「それなら私が好きかしら?」

「それともあたしか?」

「こんな人たちよりも、私だよね?」

「ううん、きっと私」


 椿先輩、大石、佐倉、日向が次々にそう言ってくる。


「でも、レンくんが誰が好きで誰が嫌いだとか関係ないよ」

「レンくんのことを知りたい、レンくんのすべてが欲しい、レンくんを誰にも渡したくないという気持ちは持っているわ」

「レンくんが私のことが嫌いでも、諦めることはない」

「レン先輩はそれだけのことをしてしまったんですから」

「責任、とれよな?」


 合わせたかのように佐倉、椿先輩、日向、木間、大石が俺に向けて重い言葉を言い放ってきた。


 これは本当に逃げられそうにないな……。どうしてこうなったんだか。

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