チート能力発現
宿に戻り、昼飯がまだだったことを思い出して、さっき初めて召喚したカップ麺を食べることにした。とんこつラーメンのようだ。詳しくは大人の事情で書けないので、身近なもので想像してくれ。
「お湯を……」
お湯は召喚できないので、下の階に下りてお湯がないか聞くと、キッチンに行けばあると聞いて早速お湯を貰いに行った。
「すみません、お湯を頂きたいんですけど」
「ああいいよ、どのくらいだ?」
「350mlほど」
「みりりっとる?」
「あー、えーと、この内側の線までお願いします」
実際に蓋を取って見せた。そのほうが早い。
「ふむ。このくらいでいいかな?」
「ちょうどいいです! ありがとうございます」
「それ、食べものなのかい?」
「そうですよ、カップ麺といいます」
「ふーん、乾物を戻して食べるわけか」
「はい、そうです。あの、ついでに箸ありますか? あるいはフォークなんか」
「あるのはこれだけだよ」
出された物の中にフォークと同じものがあったので、それを頂いた。
「これは?」
「こっちじゃホルクというよ」
「ホルク、ですか」
言語が違えば名前も違うものだ。でもなんとなく響きは似てる。
お礼を言って、お湯を入れたカップ麺を部屋に持ち帰ると3分経ったところで蓋を開ける。
「おー、美味しそうだ」
焦がしニンニクラー油と書いてあるだけあってガッツリ系なカップ麺だ。すすると、ニンニクとラー油の香りが鼻腔いっぱいに広がって食欲を唆る。
「とんこつラーメンはこのコクがなんとも言えない旨味だよな。もう一つくらいいけそうだ」
あっという間に食べ終えてしまった。容器をゴミ箱に入れ、フォークはティッシュで拭う。後でキッチンに返しに行こう。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
余は満足じゃ。と寝転がる。と、唐突に目の前にスキル確認した時と同じようなディスプレイが現れた。
「なんだ?」
《インスタントゾーン発動、タイムリミット3分》
その文字が表示されたと思うと、全身に金色のオーラを纏う。
「なんだこれ!?」
訳が分からず困惑していると、今度はディスプレイにスキル欄が表示された。
「えーと……破滅の風、悪魔の牙、天の裁き。どれもこれも厨二病なネーミングだなぁ、危なそうなものばかりだ」
試しに使ってみたい気はするけど、万一大事になったら困る。さて、どうしたものか。
「ん? これなんか良さそうだな。えーと、スキル! 花束の讃歌!」
……あれ? 特に何も起きないな。どうしたんだろう? 何か発動条件があるのかな? そうこうしてるうちに金色のオーラは消えてしまった。
と、外が騒がしいことに気づいて部屋を出てみる。なにやら皆さん興奮している様子だ。
「あの、どうしたんですか? なにかあったんですか?」
「なにかって、あんたはなんともないのか!?」
「えーと、特には」
「なんだ不運だなぁ、見てみろ」
ガタイの良い男性が自分のステータスを見せてくれた。
「女神の加護、天使の祝福、戦神の鼓舞……なんですかこれ?」
「あんた……ああ、もしかして異世界から来たってあんたの事か!」
「はい、今日召喚されたばかりです」
「それじゃあ分からねぇよな。いいか、女神の加護というのは、あらゆる状態異常を無効化してくれる。デバフもだ。天使の祝福ってのはバフの最上級で、全ステータスを1000%底上げしてくれる。そして戦神の鼓舞はクリティカル率が大幅に上昇する。平たく言えば、この3つのバフあれば大抵のダンジョンは怖くねぇな」
「そうなんですか、もしかして、驚いてる皆さんにも?」
「そうなんだよ! この宿に泊まってる奴と、店の人間全員がバフ受けたんだ! だから言ったろ? あんたは不運だなぁってよ。いやぁ、こんなバフを広範囲に一気に掛けられるなんて、術師の団体でも泊まってるのか?」
そういう事か。そしてまぁ、俺だけバフ掛からなかった理由とか、こうなった原因には心当たりがある。
「いやぁ、残念だなぁ……あはは」
ゆっくりとフェードアウトして自分の部屋に戻る。
「……おいおい、これってさっきのやつだよな絶対」
花束の讃歌。改めてスキルを見ると、周囲に強力なバフを付与するとある。どうやら使って初めてどんなものか分かるようだ。不便極まりない。
さっきの話からすると、3つのバフは一人じゃ全部掛けられないんだろう。それをいっぺんに広範囲にやってのけるスキルか。これはおそらく俺だけのものだろう。
「ていうことは、もしかして俺ってチート転移者?」
カップ麺を召喚するだけの能力は、一気にチート能力へと格上げされた。