追放される
友人原案の小説です。
子供の頃、初めて食べたカップ麺に衝撃を受けた俺は、それ以来とにかくカップ麺が主食といってもいいぐらいカップ麺が食生活の中心だった。
大人になってからも、もちろんカップ麺ばかり食べていた。
そんなある日、自宅の部屋でいつものようにカップ麺を食べていたら、何の前触れも無くいきなり景色が変わり宮殿のような空間が目の前に広がった。
「……」
開いた口が塞がらないというのはこの事か。と思うほどの長いフリーズが解けたのは、重々しい声による一言だった。
「おぬしが勇者か?」
「……はい?」
理解が追いつかない頭が少しずつ回転し始める。
「今一度問う。おぬしが勇者か?」
これって、もしかしてだけど、まさか異世界転生ってやつか……? いや、転移?
「えーと、もしかして俺、喚び出されたってやつですか?」
「おお、そうじゃ。して、おぬしはどんなスキルを持っておる?」
これはもしかして人生急展開じゃないか? 転生だか転移だか知らんが、異世界に召喚されるとチートスキルを授かるというのは定番中の定番だ。どんなスキルだ?
「……えーと、スキルってどうやって確認するんですか?」
「私が見てあげましょう」
いかにもなローブ男が現れ、なにやらブツブツ唱えると俺の胸の前辺りにディスプレイのようなものが表示される。
「ふむ……召喚魔法ですな」
「召喚魔法?」
さっきから偉そうにしている王様っぽい人が、素っ頓狂な声を上げる。
「わしは勇者を喚べと言ったのだぞ」
「落ち着きなされよ、召喚魔法は勇者のスキルとしては不似合いですが、レアスキルでもあります」
「ふむ、なるほどな。こちらとしては魔王さえ倒してくれれば良い。で、どんな召喚ができるのか?」
促されて、召喚魔法のやり方を教わり試してみる。
「えーと、指印を結んで……我が呼び声に応えよ!」
すると魔法陣が浮かび、物体が召喚される。
「おおお!!」
初めて本物の魔法というものを見て興奮していると、しかしそこに現れた見慣れた物体に「え?」と声が漏れる。
「これっ……て」
見覚えのあるフォルム。配色、感触。これはどこをどう見ても……。
「カップ麺?」
カップ麺というものを知らないであろうこの世界の人たちはざわつき、「かっぷめんとは何だ?」と聞いてくる。
「えーと、食べ物です」
「毒は?」
「無いです」
「なにか効能は?」
「いや、特には……」
* * *
ガシャン! と巨大な門扉が閉まり、俺は締め出されてしまった。
「おい! ちょっと待ってくれよ!」
「帰れ帰れ、お前には用は無いそうだ」
王様らしき人曰く、魔王を倒すための人材を求めてるのであって、召喚士と呼べるかどうかすらも怪しい訳の分からん人間に勇者なんぞ務まらん。だそうだ。
いや、まあ正論というか仰る通りではあるんだけどさ。勝手に喚び出しておいて追放ってどうなんだ?
「一応お前には選択肢がある」
「選択肢?」
「このまま元の世界に戻るか、ここで慎ましく暮らすかだ」
「戻れるの?」
「我が国の召喚士は優秀だからな。喚び返すことも可能だ。ただし一年以内だがな」
「けっこう期間あるんですね」
どうしようかな……別に元の世界、日本にいたってやる事といえば仕事して帰って寝るくらいだし、ならこっちでゆっくり観光も悪くないか?
カップ麺を無限召喚できるなら、お湯さえあれば食料には困らないわけだし。一年以内なら日本に戻れるわけだし、肌に合わなかったら戻ればいい。
「じゃあ、しばらくここで暮らしてみます」
「そうか、じゃあ達者でな。一応召喚された者には給金がある。生活には困らないはずだ」
「本当ですか! 助かります」
まじかよ。働かなくても良いって最高じゃないか。永住するかな。
「ただし、ある程度の依頼をこなしてもらう必要はある」
「依頼?」
「街中にあるクエストボードに色々と募集がある。後で見に行ってみるといい」
うーん、完全に何もしなくていいわけじゃないのか。
「分かりました、とりえあず行ってみます」
まあ、テキトーな依頼をこなしてればいいだろう。
俺は無駄に立派な城を後にして街へと向かった。