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10.青春真っ只中なんじゃね?


文化祭当日。



ポンポン!と朝から花火が上がった。──え?この世界でも合図は花火なの?!と思いながら、私は水撒きをする。もはや朝の習慣だ。水撒きしないと一日が始まらない。心を込めて毎日水撒きしたから、元気よく芽が出て花が咲いた。とっても愛おしい…。


カチリとスイッチをオフにして、ホースを片付ける。すると、前方から手を振ってこちらに近付く美しい姿が見えた。


「クリスティアナ様っ!」

「まあ、アリス様、どうなさったの?」

「歩いていましたら、クリスティアナ様の姿が見えたのです。朝から大変ですね」


そんなことないですよ、と応答しながら、私たちは仲良く教室に向かう。これは、アリスちゃんと『ずっ友』になれそうな予感が!


──アレ?よく考えたら、この世界でヒロインには近付かない方が良いのでは…?


イベントに巻き込まれない方が、生存率が高い気がする。どっどうしよう…?!


「あの…どうかなさいましたか?クリスティアナ様…」

「はぅっ!」


思わず奇妙な声を出してしまった。こ、こんなきゃわゆいアリスちゃんを突き放せるの?


答えは、否だ。


仕方ない!やれるとこまでやってみよう!──られないといいけどね…。(涙)


「何でもありませんわ、アリス様。さあ、準備を始めましょう」

「はい、そうですね!」


アリスちゃんと笑い合って、教室に入る。今日は文化祭だもんね。みんなの青春、拝ませてもらお~っと♪




**‥‥‥**‥‥‥**




カフェは予想外に繁盛し、私のクラスは大盛り上がりだった。そらそうか。イケメン&イケジョの多いクラスだもんね。こんなカフェあったら、私も日参したいわ。…その時は給仕担当にネイト君入れてね。絶対に需要あるからね!



私たち裏方が作った造花たちも、評判が良かった。あちこちに散りばめられたカラフルな布の花は、見る者の癒やしを誘う。生花ではないから食べ物の匂いを邪魔しないことも、高い評価の要因だった。


「これ、売り物ですか?」


と尋ねられた時は、大興奮だった。裏方組は大きく頷いて、了承する。一人50個作成×10人=500個。むしろバンバン売ってくれ!



そしてネイト君の計らいにより、給仕組も裏方組も、疲れる頃には上手に休憩が取れた。だから忙しくても、笑顔で元気に働ける。う~ん、推しの能力が高くてうっとり…。



さっきの15分休憩は、一緒に取っちゃったよ。学園在学中は恋愛ダメ!って思って必死なんだけど…。むしろこんなに接点があると、『これって仕様なの?!』と疑いたくなる。…いっそ仕様なら良かったのにな。そしたら、遠慮なくネイト君との接触を楽しめるのになぁ…。


──いや、クリスティアナがこれから大人しくしていれば色々回避出来るはず!って思っていたけれど、もし仕様なら何しても回避出来なくなってしまう。


ここは乙女ゲーム『日はまた昇る、あなたの傍で』の世界と同じだけど、殴られれば痛いし、手を握ると温かい。現実そのもの。だから、断罪されたらマジもんの死である。──ん?なのに乙女ゲームなの?いや、似て非なるものなの?



ゲシュタルト崩壊。



──とりあえず、やっぱり大人しくしているのが一番だわ。



「クリスティアナ様、アイスティが1つ、アイスコーヒーが2つです」

「あ、こっちもアイスティ2つね!」

「はい、分かりました」


アリスちゃんに声をかけられて、現実に戻る。あちこちから上がるドリンクの請求にも答えつつ、私は近付いてきたアリスちゃんをチロッと見る。


──ああ、アリスたんのメイド的スタイル、めっちゃかわゆすです!心のファインダーだけでは足りぬっ!


と私がはぁはぁしていると、不思議そうな顔つきでアリスちゃんに聞かれた。


「クリスティアナ様は、ドリンクをとても丁寧に作るのですね」

「それはもちろんです。お客様にご提供するものですから、丁寧に、心を込めて」

「まあ…素敵ですわ…クリスティアナ様…」


アリスちゃんの瞳がキラキラ輝き出した。うーん、今の会話のドコにときめき要素が?…やっぱりよく分からんな…。


首をかしげた私に、アリスちゃんはにっこり微笑んで言う。


「そろそろ、長い休憩なのでは?クリスティアナ様」

「あ、そうですね。あと10分くらいです」

「私も同じ時間の休憩なら、ご一緒出来ましたのに…」


しゅーんとしょげるアリスちゃん。え、なにこのスチルはご褒美ですか?!もうむしろ私はアリスちゃんに攻略されそうだよ!さすがヒロインっ!心が射貫かれつつあるよぅ!


「クリスティアナ様は、どなたかと一緒に回るのですか?」

「ええ、お兄様と…」

「ザカライア様と、ですか…」


アリスちゃんの声が少しだけ低くなった。や、やっぱり兄妹で文化祭を回るのってオカシイよね!だって、文化祭は青春を謳歌するために存在するんだもんね!


よし、やっぱり断ろう!ドタキャンだけど。ごめん、ザカライア!


「……多分、お断りするのはザカライア様を怒らせるだけですので、お止めになった方がよろしいです」


ドキ。よ、読まれた?!


「で、でも、兄妹で回るのなんて、やはりオカシイのですよね…?」

「いえ、ザカライア様はよほどクリスティアナ様を大切になさっているのでしょう。ご兄妹で文化祭を眺める方もいらっしゃいますよ」

「あ、そ、そうなのですね…」


それなら、良いのかな?と私は出来上がった飲み物をアリスちゃんと他の給仕組に渡す。そしてちょうど長い休憩時間が訪れ、私はひっそり教室を出て行った。




**‥‥‥**‥‥‥**




「あれ?クリスティアナ嬢、これから休憩?」

「まあ、ストレイズ様…」


うへ、厄介なのに見つかった!


「ぶっ!なにその『厄介なのに見つかった』って表情は!」


即バレ!


「そ、そういうストレイズ様も休憩ですの?」

「休憩ですの。んじゃ、一緒に見て回らない?」

「あ、それが…」

「クリス!」


私が断ろうとすると、低い声で名を呼ばれた。そしてグッと腕を引かれる。レイモンドは肩をすくめて言った。


「ナイトの登場か。ザカライア、お前、余裕ねぇな」

「…うるさい」

「クリスティアナ嬢は兄妹と回るのが嫌だってよ。ね、クリスティアナ嬢?俺と回ろう?」


嫌だ。


「いえ、遠慮いたしますわ。私はお兄様と回りますので」

「クリス…!」

「残念。では楽しんでおいで、クリスティアナ嬢」


じゃあね、とレイモンドはあっさり引いた。アイツは本当に厄介だ。ただ引っかき回して遊んでいるだけの男だ。


触らぬ(イケメン)に祟りなし!である。



「遅くなってすまん、クリス。では行こうか」

「はい、お兄様」


私はザカライアを見てにっこり笑う。ザカライアも至極嬉しそうな笑顔を返してくれた。…うう、美青年(イケメン)の破顔って心臓に悪いわ。ザカライアは優しいし、優秀だし、剣の腕もいいし、面倒見もいいし。パーフェクトヒューマンじゃね?!すげー。


……ってフツーに手を握られた。ザカライアって、私の手をよく握るよね。結構スキンシップ好きなのかな?


「どこに行きたい?」

「お兄様、私、お腹がすきましたわ」

「そうか。まずは食うか」


こっちに美味い屋台があったぞ、とザカライアが案内してくれる。この世界で目覚めてから、私はザカライアにおんぶに抱っこだ。



──これって大丈夫なのかなぁ?だって、ザカライアだって攻略対象だよ?……内容あんま覚えてないけど。でも悪役令嬢(クリスティアナ)が関わるとしたら、第1王子(トンチキ)とザカライアだけだと思う。


でも、ザカライアは全っ然アリスちゃんに興味ないしなぁ…。ゲームの強制力とかは無いのかな。やっぱりここは現実世界だもんね。乙女ゲームと同じ世界だけど。──ん?似て非なるものだっけ?



ゲシュタルト崩壊。



ちょっとトリップしている間に、ザカライアは色々屋台で買って、さらに食べる場所も確保してくれる。はー、完璧な男だよ、やっぱり。


「ほら、クリス。これ美味いぞ」

「ありがとうございます!」


差し出された串焼きを頬張る。んまいっ!


「お兄様、とっても美味しいです!」

「はは、それは良かった」


私は夢中で食べる。ザカライアがくれた食べ物は、本当に全部美味しかった。最後にデザートのクレープまでくれて、至れり尽くせりに大満足の私である。


「クリス、ほら、口元にクリームがついてるぞ」

「あっ…済みません、お兄様…」


ザカライアは私の口元のクリームを親指ですくって、ペロリと舐める。ひぃっ!喪女だった私にそのスキルは難易度が高すぎるっ!やーめーてー!もうまともに顔が見られないじゃないっ!


「さて、では次の場所に行こうか」

「…はい…」


真っ赤な顔を見られたくなくて、私は俯いたままザカライアに手を引かれる。なぜかザカライアはニヤニヤ笑って、気持ち悪いほどご機嫌だった。



私は斯様にザカライアとあちこち回って、休憩を満喫する。特にザカライアのクラスのサーカスは、とっても素晴らしかった。ジャグリングのクオリティに至っては、もはやプロの領域だ。もしかして、ザカライアの道化師(クラウン)のクオリティも異常に高いのでは…?!うう、見られないのが残念だ。


「いや、俺のは素人に毛が生えたものさ」


そんなわけねぇだろ!とツッコミを入れたい。くそ、イケメンで優しくて優秀で剣も強くて面倒見よくて謙虚とか、もはや神の領域だ。


「ご謙遜を。ああ、お兄様の素敵な道化師を見たかったですわ…」

「はは。お褒め頂き、光栄」


そう言って、ザカライアは私のつむじにキスをした。うわっ!だから、喪女にそのスキルは…!



そしてまた顔を赤らめてザカライアを喜ばせてから、時間となり解散した。




**‥‥‥**‥‥‥**




文化祭のクラスでの催しは、大盛況の中終了した。奇跡的に造花も完売だった。裏方組が万歳三唱する。バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!みんなでキャッキャウフフしながら、教室を片付けた。だが、周りはまだソワソワしている。どうしたというのか?…私以外で打ち上げ…とか?うっ、私、ハブ…?


「さあ、今日最後のイベントに行きましょう!」


と実行委員長(※ネイト君)が言うと、クラスメイトが歓声を上げて校庭に向かう。窓から校庭を覗くと、そこにはキャンプファイヤーが。


──すげぇな、この学園!


学校でキャンプファイヤーとか、漫画かよ?!…ん?乙女ゲームの世界?…ってヤメヤメ。またゲシュタルト崩壊現象が起こっちまう。


「おや?クリスティアナ嬢は行かないの?」

「あっ、いえ、行きます!」


誰もいなくなった教室の入口で、ネイト君に声をかけられた。私は慌てて小走りで入口に向かう。すると、ネイト君が私に近寄って囁いた。


「クリスティアナ嬢、僕と一緒に踊ってくださいね…?」

「はぅぅっ!」


もう、だから喪女には…(※以下エンドレス)


そしてまた沸騰した私の手を握って、ネイト君は外に連れ出した。うう。なんか、私、青春の渦中にいないか…?




キャンプファイヤーをグルリと囲んで、男女が楽しそうに踊る。ちらっと眺めると、アリスちゃんがクライヴと踊ってた。えっ…これ、もしかしてスチル?!スクショ、スクショ!──スマホないけど。


そっちに意識を持っていかれた私は、グイッとネイト君に腕を引かれた。…なんだか最近、こんなシチュエーションばっかりだ。


「さ、踊ろう!」

「…はいっ!」


こーなったら、もう楽しんでしまおう!あとで断罪が待っていたとしても、楽しい思い出があれば悲しまずに死んでいける。



──嘘デス。死ニタクナイDEATH。



…でもネイト君は攻略対象じゃない(※多分)から、仲良くしても大丈夫かな?と一縷の望みを抱きながら、私はネイト君とそれは楽しく踊ったのであった。



お読み頂きまして、誠にありがとうございました。

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