つなげろ
『ねぇ、今時間ある?』
大学卒業以来、全く音沙汰がなかったA子から急に連絡がきた。
昔のように愚痴を聞かされるだけだと思い、やんわり断る。
しかし何やら深刻な悩みを抱えているらしいので心配半分、興味半分で承諾した。
時計の針は午前二時辺りを指していたが、五分程でA子は私の家に来た。
私に連絡をした時点で家の周辺にいたらしい。
「それでA子、急に連絡くれたけど悩みを聞いてほしいって珍しいじゃん。どうかしたの?」
「それが、最近見た夢の話なんだけど……」
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薄暗い密室で目が覚める。石で作られた壁、散乱する瓶、埃の独特な臭いが鼻につく。
周囲を見る限り光源は存在しないはずだが、物の位置は把握できていた。
なにやら木製扉だったものと推測される破片が、前方に続く狭い通路の手前に散乱している。
二人並んで歩けない程の通路を進むと階段があった。
ここは地下なのだろうか。螺旋状になった階段を上る。
辿り着いた先のボロボロになった扉に触れたところで、ハッと目が覚めた。
お腹の上には愛猫がくるまり気持ちよさそうに寝息をたてていた。
安堵し、白くもふもふな愛猫を撫でる。
この時は悪夢とも思っておらず、変わった夢ぐらいの印象だった。
しかし私はその後もまた同じ夢をみることとなる。
不可解なのは、一日目と同じ行動をする事だ。
意識を持ち、周囲を見渡し、階段を上っていく。
そして、扉に触れると目が覚める。
六日目、同じ行動をするのは相変わらずだったが、これまでと何かが違った。
埃だらけの部屋の方面から、微かにザーザーと聞こえているのだ。
雨の音か。いや、昔テレビで流れていた砂嵐に近い音。
何かの言葉を繰り返している気もした。
本能的に耳が研ぎ澄まされ、徐々に聴覚が適応し始める。
『………ろつ……ろ………………げ…』
かなり早い速度で繰り返しているようで中々聞き取れない。
声のトーンは一定、途切れることなく何度も何度も同じ音を繰り返す。
階段を一歩、一歩と上っていく。上る度に音の距離が近づき、心拍数がどんどん早くなる。
後ろから足音は聞こえない。
『つな…ろつ……ろつ…………なげろ』
つな…なげろ…?扉はもう目の前だ。
後は、扉に触れるだけで目が覚めるはずだ。
右手がゆっくりと伸び始めた。その直後。
『つなげろつなげろつなげろつなげろつなげろつなげろ』
無機質な男の声が私の中で響いた。扉に触れたところで目が覚めた。
白い猫が私の横で威嚇していた。
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A子が帰った後、私は薄暗い密室にいた。
短編をちょくちょく書きたいです。