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04

 ミランダはふわふわと浮かびながら、道の少し上を浮かんで進む。こうして浮かんでいるのはミランダだけなので、見える人はすぐに気付くはずだ。そう考えてとりあえず城から城下町の出口になる大きな門まで、二往復ほどしてみた。

 誰も反応してくれなかった。話しかけられるどころか、視線すらもない。ちょっと寂しい。


「本当に、見えないんだ……」


 試しに、果物を売ってる屋台の前に行く。商人さんの前で手を振って、果物に手を伸ばしてみる。反応なし。やはり、見えないらしい。ちなみに果物には触れられなかった。

 触れられないということは、食べることもでないというわけだ。ミランダは食べることが大好きだ、というわけでもないが、それでも食べられないのは少し辛いものがある。


「帰ろう……」


 落ち込んだ気持ちを隠すこともせず、ミランダはふわふわと魔王城へと戻っていった。




 城下町に行った時とは逆に、ミランダは魔王城の窓から城内へと侵入する。この窓は執務室の側にあるもので、行く時も利用したものだ。魔王城の構造など知らないので、とりあえずはこの窓だけ覚えてある。

 窓から入り、そして扉を通り抜けて、執務室に入る。魔王は何かの書類を書いているようだ。その魔王は、ミランダが入ってきた瞬間にこちらへと視線を向けていた。


「戻ったか」

「はい。……会話ができるというのは、いいことですね」

「そうか」


 ミランダの言い方に何かを察したらしい。それ以上は何も言わず、書類へと視線を戻してしまう。それが少しだけ、寂しく思えてしまった。


「相手から認識されない、というのは、辛いものなのですね」

「だろうな」

「これで、どうやって復讐なんてすればいいんでしょう。会話もできない、物にも触れない、私にできることなんて、何も……」

「待て」


 唐突に、言葉を遮られた。いつの間にか、魔王の視線はまたミランダへと向いている。首を傾げるミランダに、魔王が言う。


「物に触れない、と言ったか?」

「はい。言いました」

「それはあり得ない。会話はできないだろうが、物に触れることはできるはずだ」


 そう言われても、ミランダとしても困るというものだ。実際に触れないのだから。しかし魔王は、確信を持っているようだ。困惑するミランダへと、魔王が続ける。


「俺も幽霊になったことはないからな。教えることはできないが、しかし可能であるはずだ」

「えっと……。そう、なのですか?」

「うむ。お前が街に行っている間に、詳しい者に聞いておいた。間違いない」


 魔王の言葉からは、その相手に対する信頼を感じられた。であるならば、きっとそれは正しいはずだ。ミランダもそう思うことにする。正直言うと、半信半疑ではあるが。


「その人に教えを請うことはできませんか?」

「無理だ。詳しいというだけで本人は幽霊ではないし、そもそも今はこの地を離れている。特殊な念話でやり取りをしただけだ」


 それは、残念だ。話だけでもと思ったが、それもできないらしい。


「いずれ紹介してやろう。ともかく、方法は知らんが、物に触れることはできる」

「つまり……?」

「特訓しろ。練習しろ。修行しろ。さあ、始めろ」


 いくら何でも無茶があるだろう、と叫びたいところだが、きっと彼はミランダの言葉など意に介さない。彼の視線はすでにこちらに向いていないのだから。

 ミランダは大きなため息をつくと、とりあえず側にある椅子へと手を伸ばした。

 うん。触れない。どうしろと。




 結論から言ってしまえば、一週間ほどで触れるようになった。


「見て下さい魔王様! こんなこともできます! 力持ち!」


 椅子を片手で持ち上げてみせる。ついつい子供のようにはしゃいでしまうが、ミランダとしてはとても嬉しい出来事なのだ。少しは大目に見て欲しい。

 魔王はそんなミランダの様子に苦笑しつつも、頷きながら小さな声で、


「ふむ。やはり力で持ち上げているというよりは、念力のようなものなのか。確か、ポルターガイスト、とか言っていたか? あれに近いのか?」

「魔王様?」

「気にするな」


 聞き取れなかったので呼んでみたが、ミランダに言っていたわけではないらしい。とりあえ椅子を下ろして、魔王と向き合う。これで、色々と手段が増えてきた。


「あの、魔王様。私はこの後、どうすればいいでしょうか」

「何がだ」

「いえ……。魔王様もお忙しいでしょうし、私一人でエルジュ王国まで行きますが……」


 魔族の王都からエルジュ王国までは、当然ながらかなりの距離がある。今更ながら、一国の、どころか大陸の支配者を個人的な復讐に付き合わせるのは問題だろう。

 ミランダ一人なら、幽霊なので空を行くことができるし、飲み食いも眠る必要もない。方向さえ分かれば、とても気楽な旅だ。

 そう言うと、魔王は呆れたようにため息をついた。


「お前、自分の状態が分かっていないのか?」

「はい? というと?」

「幽霊が活動するための力はどこから来ていると思っている?」


 そんなことを言われても、ミランダが知るはずもない。疑問符を頭に浮かべるミランダに、魔王は面倒そうにしながらも教えてくれる。


「幽霊が使う力は、魔力だ。お前以外にもかつて幽霊を見たことはあるが、それらは周囲の魔力をほんの少しずつ吸い取って、存在を維持していた。逆に言えば、周囲の魔力程度では、存在の維持しかできない」

「はあ……」

「さて、お前は先ほど椅子を持ち上げていたが、これの力は、どこから来たのだろうな」


 なんとなく。なんとなく、魔王が言いたいことを理解してきたミランダは、頬が引きつってしまうのを自覚した。まさか、と思う。だからか、とも思う。


「お前は、俺に取り憑いていて、俺から魔力を奪っている」

「申し訳ありませんでした!」


 それを聞いた瞬間、ミランダは蒼白になって必死に頭を下げた。

 魔力というのは、この世界の生物にとって必要不可欠なものだ。それを、知らずとはいえ奪っていたなど、今すぐ殺されたとしても文句は言えない。もう死んでいるが。

 魔王はミランダの声に一瞬だけ目を見開いた。少し驚いたらしい。その後すぐに肩をすくめて、


「気にするな。一般人からすれば少なくない魔力を使われているが、俺からすれば大した問題にもならない程度だ。だが、いやだからこそ、お前は俺に取り憑くことになったのだろう。お前の魔力の消費に問題なく耐えられるのは、人族を含めても俺ぐらいだ」


 そこまで言って、いや、と魔王は訂正する。


「勇者もいるが、今はこの地を離れているからな……。それ故なのだろう」

「はあ……」


 ずっと昔、ミランダが生まれるよりも前に、魔族と停戦して間もなくに勇者は姿を隠したらしい。それ以来、彼女を見た者はいないのだとか。

 ちなみに勇者は女性だと言い伝えられている。勇者らしい、とても優しい人なのだとか。

 それはともかく。


「ということは、私は魔王様から離れられない、ということでしょうか……?」


壁|w・)特訓中も容赦なく魔王様の魔力を奪ってました。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界の幽霊燃費がわるい だか、魔王様という充電器があるので彼をつれて出歩けばもんだいないですね。 つまり魔王様は魔力供給用のバッテリーだった! [気になる点] 魔族にも認識できぬと…
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