表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/49

29


 日が暮れるまで案内がてらにミリアからミランダの話を聞いて思ったことは。


「こいつら、同じ穴の狢か……」

「はい? 何か言いました?」

「いや、何も」

「そうですか。それでですね、ミランダ様はこんな私に……」


 ミリアの話を聞き流しながら、魔王は横目でミランダを見る。親友から自分のことを語られている本人は、真っ赤な顔を手で隠していた。

 ミランダのミリア自慢もなかなかのものだったが、ミリアのミランダ自慢もすごい。昼過ぎから日没まで、小休止は挟むが終わることがない。よくもまあ、話のネタが尽きないものだ。


「あー……。ミリア。そろそろ帰らないか? もう日が暮れている。ご両親も心配しているだろう」

「え? あ……。本当だ。ごめんなさい、知らない人の話ばかりして……」

「いや……」


 そこで、魔王は言葉を句切った。少し考えて、未だ真っ赤な顔を隠すミランダを見て、そしてまたミリアへと向き直った。


「実を言うと、俺はミランダを知っている」

「え!?」

「ちょ!」


 これにはミランダも驚いていたが、一瞥することで黙らせる。ミランダは何か言いたそうにしていたが、一先ずは魔王に任せることにしたらしく、口をつぐんだ。ただし、こちらを睨み付けてはいたが。


「あ、あの、どうしてミランダ様を知っているんですか?」

「ああ……。彼女の家が外交を担当していることは知っているか?」

「ええっと……。はい。ミランダ様からも、伺ったことがあります。だから、魔族の方を何度か目にしたことがあるとも言っていました」

「そうなのか」

「え?」

「あー……。何でも無い」


 元々の知識としてエルメラド公爵家が外交を担当していることは知っていたが、平民にそこまで話していたとは驚きだ。本当に、信頼していたのだろう。

 そしてミリアも、魔王が口にするまではその点には一切触れなかった。これが、本来ならあまり外に話してはいけないことだということも、理解して、黙っていたのだろう。

 良い関係だ、と思う。お互いにお互いを理解し、信頼している。


「我が家も外交関係の仕事をしている。仕事の関係で、偶然、文通のようなものをする関係になったのだ」

「もしかして……ミランダ様の初恋の殿方!?」

「え」


 魔王とミランダの声が揃った。視線だけでミランダへ問いかければ、ミランダは少し考えた後、見る見るうちに顔面蒼白になっていく。


「そ、その……。見栄というか、ですね……。出会って初期の頃に、恋のお話なんてしまして……。見栄を、ですね、張りまして……。初恋の殿方とは今でも文通をしています、と言った覚えが……。ま、まさか覚えられていたなんて……」

「おい……」


 確かに勝手に設定を作っているのは申し訳ないとは思うが、まさかこんなところで被ってくるとは。いや、ミランダの反応からすれば、おそらく彼女自身も忘れていたようなので、事前に相談しても同じことだっただろう。

 魔王は一瞬だけ視線を泳がせて、


「すまないが、それに関しては俺も分からないな」

「そ、そうですか……。いえ、でも、そうですね。気持ちを伝えていないと、聞いています」

「…………」


 ミランダを睨む。ミランダは素早く目を逸らした。


「あー……。ともかくだ! 話を戻すが!」

「あ、はい!」

「俺とミランダは、少し特殊な方法でやり取りをしていてな。実を言うと、処刑の日の前日まで、やり取りをしていた」

「そう、なのですか……?」

「うむ」


 当然、嘘だが。けれど、本人なら側にいる。首を傾げるミランダをちらりと見て、


「彼女は、最後まで友人のことを案じていた。ミリアのことを心配していたよ」

「ミランダ様が……。そう、ですか……」

「うむ」


 最後まで、どころか最後を通り過ぎて幽霊になっても、友人のことを気に掛けているほどだ。楽しそうに嫌がらせに勤しんでいたかと思えば、ミリアに会いに行くと言えば二つ返事でついてくる。この様子なら、嫌がらせに行くと言いつつ友人の様子を見に行ったこともあるだろう。


「きっと彼女のことだ。今も君を見守っていることだろうよ」


 比喩表現も何もなく。なんなら己の隣で。もちろんそこまで言わないが。


「あ、はは……。そうですね……。あまり、無様な姿を見せちゃいけませんね……」


 ぱちん、とミリアが自分の頬を叩いた。少しは、吹っ切るきっかけになっただろうか。


「ルーク様! もしかして、ミランダ様の処刑のことを調べていますか?」

「ん? まあ、ついでに、程度で調べているが……」

「では、是非とも王女様から話を聞いてあげてください」


 まさかここで王女が出てくるとは思わなかった。いや、しかし当然かもしれない。もともとミランダとミリアの話を聞いて、報告してしまったのは王女らしいのだ。王女とやらも、何か知っているのかもしれない。


「王女様は、一度だけ、私の部屋に来てくれたことがあったんです。その時は、その、私も元気がなくて、はっきりと話を覚えてないんですけど……。謝罪と、あと、こう言っていました」


 私の告げ口のせいで、時間稼ぎに使われてしまった。


「なに……?」

「それ以上は、私は聞けてないんです。だからどうか、直接聞いてあげてください。私は、恨んでいるわけじゃないですけど、気持ちの整理がつかないので……」


 困ったような笑顔のミリアに、魔王はしっかりと頷いておいた。


壁|w・)今回が今年最後の投稿です(大晦日)

ではでは皆様、良いお年を。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです やはりミリアのミランダ自慢話になりましたね。 どうして片方は男でなかったのか…… もう、ふたりとも結婚しろよ…… 女王様と謁見は魔王様からしたらめんどくさいの一言な…
[一言] じ、『時間稼ぎ』…?推定・己が利益の為に公爵家一族郎党皆殺しにしたかったらしきフ◯ッキン貴族共(妄想)からしたら、時間があったら延命される可能性すらありそうだし寧ろ早急に死刑したかったっぽい…
[良い点] 今年も楽しく読ませていただきました。 ありがとうございました。 来年もよろしくお願いします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ