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留学生歓迎のパーティは食堂で行われるそうだ。パーティといっても、学生主催の学生だけのもののため、格式張ったものではなく、好きな服装で気軽に参加できるらしい。
らしい、というのは、ミランダは学生主催のパーティには出たことがないためだ。
学生主催のパーティは、主に平民や下級貴族のためにあると言ってもいい。上級貴族の子息が行けば、どうしても緊張感が出てしまう。それ故に、学生は平等と謳いつつも、暗黙の了解で上級貴族は関わらない。
だが今回ばかりは話が別だ。上級貴族もあまり華美な服装は避けて、部屋着に使うような落ち着いた服装で大勢出てくることになるだろう。
「まるで見世物だな」
「そう、ですね……。すみません」
「いや。こればかりは仕方があるまい。この国の人間にとって、魔族など普段は見ないだろうからな」
この国にとっては初めての交換留学生だ。興味があるのは仕方ない、と留学生たちも分かっている。
「それに、どちらかと言えば王子とお近づきになりたい者もいるだろうしな」
「あー……。それも多分にあると思います」
王子も学生主催のパーティには普段は参加しない。上級貴族の子息以上に畏まられ、緊張感を与えてしまうためだ。その王子も、今回ばかりは出席している。というよりも、今回の主催は王子だ。いない方がおかしい。
何らかの繋がりを持ちたい商家の子息は、是非とも王子に近づきたいところだろう。
「他の留学生、ディーゴたちはどうしたんですか?」
「先に向かっているはずだ。何度か様子を見たが、楽しそうにしていたぞ」
一瞬だけミランダは怪訝そうに眉をひそめ、すぐに納得して頷いた。
様子を見ているという言葉にどうやってと疑問を覚えたが、そう言えばマーキングとやらをしていたことを思い出した。その魔法のことを聞いた時は、留学生たちを不憫に思ったものだ。
魔王が食堂の扉を開け放つと、大勢の視線がこちらを貫いてきた。
「ふむ……」
魔王がどこか楽しそうに頬を緩める。注目されることは嫌いではないらしい。
「ルーク様!」
留学生の一人、吸血鬼のエーシャがこちらに駆けてきた。魔王の元まで走ってきて、笑顔を向けてくる。
「良かった。来られないかと思いました」
「さすがに挨拶ぐらいには来るさ。それよりも、ロイドはどこだ?」
魔王のその一言で、目的がロイドだと察したのだろう。エーシャは頷いて、すぐに答えてくれる。
「留学生と順番に話をしてくれています。おそらく、待てば来るかと」
「そうか。では待つとしよう」
魔王はエーシャに軽く手を振り、近くのテーブルへと向かう。大きな丸テーブルには様々な料理が並べられていた。魔王は空の皿を手に取ると、適当に料理を食べ始める。一切警戒などしていないところは、さすが魔王といったところか。
ミランダは美味しそうな料理を羨ましく思いながら、改めて食堂を見回した。
今日の食堂は数え切れないほどの丸テーブルが並べられていた。普段は長方形の、できるだけ多く座れるようにと作られたテーブルだ。丸テーブルのどれにも料理が置かれ、好きなものを食べられるようになっている。
この場にいる者も学生ばかりで、その多くが学園の制服だった。そして多くの学生が、料理を食べていた。
貴族の夜会などでは、料理は礼儀程度に手を付けて、あとは挨拶や腹の探り合いばかりだ。ミランダも父親に連れて行かれて何度か参加したが、正直楽しめるようなものではなく、気が滅入ったものだ。
だが、このパーティでは誰もが楽しそうに、会話と食事を楽しんでいる。
いや、まあ、少しは難しい話もしているようだが。貴族ではなくても腹の探り合いはするらしい。人間とはなんと面倒くさい生き物なのだろう。
「その点私は気楽ですねー。でもこんなに美味しそうなものが食べられないことに不満を覚えます。魔王様、どうにかしてください」
「無茶を言うな」
苦笑しながらひらひらと手を振られてしまう。魔王の魔法ならもしかしたらと思ったのに。いや、やはりさすがに無理か。残念だ。
そうして周囲の様子を興味深く眺めていると、ロイド王子がこちらへと歩いてくるのが見えた。周囲の生徒に声をかけられても、笑顔で断って魔王へと真っ直ぐ歩いてくる。
「魔王様。王子が来ます」
「む……。そうか」
魔王が皿と食器をテーブルに置いた。
今、魔王が舌打ちしたような気がするのだが、気のせいだろうか。表情も、残念そうになっているような。
「食べ歩きでもしてみるか……」
気のせいではないようだ。魔王はどうやらこの国の料理を気に入ったらしい。自分の国の料理なので嬉しいのは確かだが、これから王子と話をするのだからもう少し緊張感を持ってほしい。
もちろん、魔王に言ったところで無駄なのは分かりきっているが。
魔王が未練たっぷりな視線を料理に注いでいると、ロイドがこちらへと歩いてきた。
「やあ、ルーク。来てくれたんだね」
「ああ。ロイド、この国の料理はなかなか美味いな。後日ここを抜け出して食べ歩きしようと思う。良い店があれば紹介してくれ」
「いや、君、堂々とさぼりますと言うのはどうかと思うよ?」
頬を引きつらせるロイド。ミランダも全面的に同意だ。留学先の王子に言うセリフがそれかと言いたい。いやそもそも、そんな話をするためにここに来たのではないだろうに。
「魔王様」
ミランダが声をかけると、魔王は分かっているとばかりに左手を上げてひらひらと振る。その仕草にロイドは怪訝そうにしつつ振り返った。知り合いがいるのかと思ったのだろう。
「ロイド。少し話があるのだが」
「ん? 話かい?」
「ああ。できれば二人きりで話がしたい」
ロイドは訝しげに魔王を見つめていたが、やがて頷いて了承した。ただ、ロイドが言う。
「その、君たちには悪いんだけど、どうしても僕には護衛がついてくることになる」
「ほう? 学園内では平等、なのにか?」
魔王の言葉に、王子が苦々しげに顔を歪めた。彼にとっても、きっと思うところがいくつもあるのだろう。その様子に魔王は肩をすくめてみせた。
「冗談だ。どれだけ建前を並べ立てたところで、お前は王子だ。お前自身がどう考えていようと、周囲は護衛ぐらいつけるだろう」
「すまない……。理解してもらえて、助かるよ」
「気にするな。余計な立場があると苦労するのは、まあ理解はできる」
きっと実体験が元になっているのだろう。妙に重みのある魔王の言葉に王子は首を傾げたが、深く聞かないことにしたらしい。
「えっと……。それで? どうしようか?」
「ああ……。護衛はいても構わない。少し外に出ようか」
「分かった。それじゃあ、行こうか。護衛は勝手についてくるから」
「うむ」
魔王とロイドが二人並んで出入り口へと歩いて行く。周囲の生徒はそれを不思議そうに眺めながら、さすがに誰も声をかけなかった。
壁|w・)誤字報告ありがとうございます。
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ではでは。




